完全なる注文 6
結局、俺とノエルは村まで戻ってくるまでほとんど会話を交わさなかった。
考えてみれば……自分がとんでもないことの片棒を担いでしまったのである。
……いやいや。既に極道が支配する村で暮らしているのだ。今更な感じもあるが。
とにもなくにも、俺とノエルは村に帰ってきたのである。
「いやぁ、無事でよかったなぁ!」
ギルドに戻るとともに、鍋島にそんなことを言われた。
「え……鍋島さん……その……」
「ん? ああ、わかっとるって! まぁ、大変やったと思うけど、ノエルちゃんから説明、あったやろ?」
そういって、鍋島はノエルを見る。俺は何も言えずに鍋島の方に顔を戻すことしかできなかった。
「……えっと、鍋島さん……仕事の報酬は……」
「報酬? 冗談言わんといてや。渡したやろ。さっき」
鍋島はヘラヘラ笑いながら俺にそう言った。なるほど……どうやら最初から俺にタダ働きさせるつもりだったらしい。
「……え、ええ……そうですね」
「しかし、伊澤さん、運が良かったなぁ。あの仕事、取引先の機嫌が悪いと不味い時があるからなぁ……のぉ、ノエルちゃん?」
鍋島はそういってノエルを見た。ノエルは小さく頷くだけである。
……どうやら知らない間に命を落とすかもしれない状況に巻き込まれていたようであった。
「え、えっと、じゃあ、俺はこれで……」
「あ! そうやった!」
そう言うと鍋島はポンと俺の肩を叩く。
「もういっちょ、仕事が残ってたんや! いやぁ、こっちは簡単やから、きっと伊澤さんでも大丈夫やで! な?」
「え……えぇ……」
鍋島が俺の肩を掴む手の力は……かなり強い。
どうやら、まだ俺の仕事は終わらないようだった。




