完全なる注文 5
「……つまり……俺達は運び屋の真似事をさせられたってことか?」
帰り道、俺はノエルに訊ねる。
ノエルは立ち止まり、俺の方を見ると、小さく頷く。
「そう」
「……鍋島さんは、なんで報酬なんて言ったんだ? っていうか、ホントの報酬は?」
「そんなもの、ない」
ひどく冷たい調子で、ノエルはそう言った。
「え……ない? ふ……ふざけんなよ! あんなに危険な思いしたのに……タダ働きかよ! っていうか、ノエル! お前だってそうだろうが! こんなガキの使いみたいな真似させられて……いいのかよ?」
思わず俺は怒ってしまった。しかし、ノエルはどこか寂しげな表情である。
「仕方ない。これ、必要な仕事」
「へ? 必要な仕事?」
「……オーク、危険な生物。放っておけば村、簡単に襲ってくる。だから、アイツ等、抑えておくのに金と武器、提供する必要、あり」
そういって、ノエルは俺のことをジッと見る。その青い瞳は……あまりこれ以上多くを語らせるなというような警告を発していた。
「え……じゃあ、そのために、鍋島さんはそれを分かっていて……」
「……オーク、魔法使えない。だから、魔法使える奴らに対抗するため、銃、使う」
「はぉ? ……って、おいおい。それって、つまり、俺達がやったことは……それこそ……」
ノエルは小さくため息を付いてから、呆れたように俺のことを見る。
「……だから、言った。この仕事嫌な気分になる」
「お、おいおい……いいのかよ? ノエル……確かにお前はその……極道の関係者かもしれないけど……それじゃあ、この世界の治安は……」
するとノエルは自嘲気味に笑ってから、冷たい瞳で俺のことを見る。
「こんな世界、私、嫌い。どうなってもいい」
それだけ言うと、ノエルはまた歩き出した。
目の前の金髪碧眼の少女……彼女は、異世界からの優しい訪問者ではないことはわかっている。
でも、それ以上に何かを抱えている……俺はその時明確に確信したのだった。