完全なる注文 4
「と……とにかく、ノエル……俺達はそろそろここからお暇したほうが……」
俺がそう言うとノエルは俺の服の袖をつかむ。
「え……」
「……動かない。まだ」
そして、ノエルはジッとオークのことを見ている。
オーク共は一頻り雄叫びを上げた後で、銃の試し撃ちも終わったようだった。
それぞれ満足そうに、異世界の魔物が扱うには不釣り合いな黒鉄の火器を見ている。
「……の、ノエル?」
「……そろそろ、来る」
「え? 何が?」
「……要求」
と、すぐさまオークがこちらにやってきた。手には俺が持ってきたトカレフが握られている。
俺は思わず縮こまってしまう。
見ると……相当デカい。背丈は、あの霧原以上だ。
そりゃあ、オークってのは異世界定番の魔物なわけだけど……よくよく考えれば相当危険な存在なのだ。
「うぉ……ふご?」
唸るようにそう泣き声をあげると、オークはいきなり俺とノエルに向かって銃口を突きつけてきた。
「え……えぇ……の、ノエルぅ……」
俺は思わず涙目になってしまいながら、ノエルのことを見る。
ノエルはゆっくりと両手を上げた。俺も同様の真似をしなければ殺されると思い、すぐさま手を挙げる。
するとノエルは巨大な右手で俺とノエルの身体を触り始める。
「ふご」
と、俺のズボンに手を当てたオークが何かに気付いた。
それは……先程鍋島から先払いとしてもらった報酬……1億ペスカメダルだった。
「ふご……ふごご……」
「あ……」
オークはそれを半ば無理矢理に取り出し、そのまま手にした。
「ウォォォォォ!」
そして、またしても雄叫びを挙げる。思わず耳を俺は塞いでしまう。
他のオークも嬉しそうにそのオークを見ている。
俺から1億ペスカメダルをとったオークは俺とノエルを見て醜く嗤う。
そして、そのまま俺とノエルを残し、元来た方向へと去って行ってしまった。
「……へ? い、今のは……」
俺は我に返ってノエルを見る。ノエルは大きくため息をつく。
「……これで、ナベシマさんのお仕事、おわり」
「……はぁ?」
未だに理解が追い付いていない俺は思わずそう言葉を漏らしてしまう。
「って……え……俺の1億ペスカは?」
俺がそう言うと、ノエルは首を横にふる。
「……あれ。報酬違う。必要経費」
「ひ……必要経費……」
俺はなんとなくだが……またしても鍋島に騙されたことを理解し、思わずその場に座り込んでしまったのだった。




