異世界強制転送
「コイツは霧原隆哉。俺の組の鉄砲玉でな。少しやらかしちまったもんでしばらく身をかくしてなきゃいけねぇ……まぁ、今回は伊澤さんのボディガードってことで異世界に付いて行くわけよ」
段々と近藤が「組」であることを隠さなくなってきた。ってことは、この白スーツもそのスジの方だということである。
白スーツは俺の方に目を向ける。まるでナイフのような目つきと俺の目が合ってしまった。
「あ……ど、どうも」
俺は思わず挨拶する。すると、驚くべきことに、白スーツも頭を下げてきた。
「……霧原隆哉だ。よろしく」
低く、ドスのきいたよく通る声で俺にそう挨拶する霧原。
せっかく天使と会ったと思ったら、今度は鬼まで俺と異世界に一緒に行くことになってしまったようである……
「さて……じゃあ、伊澤さん。今一度聞くが、アンタの選択肢はどれだ? 臓器をビジネスとして提供するか、肉体労働に励むか。それとも――」
「い、異世界! 異世界に行きます! 異世界で……ケジメつけます!」
俺は迷わずそう言った。近藤は満足そうに微笑む。
「よろしい。さて……じゃあ、ノエルちゃん。さっそく2人を異世界へお連れしろ」
「はい! 組長」
そう言うと、ノエルは俺の手と霧原の手を掴んだ。
「では……行きましょう!」
ノエルがそう言うと同時に、俺と霧原が立っている地面……事務所の床が光りだした。
これって……よくゲームとかである転移魔法ってやつか?
「伊澤さん」
と、既に魔法が発動している最中だというのに、近藤が話しかけてきた。
「は、はい?」
「一千万円、何があっても、必ず返してもらわないといけないんだ。悪く思わないでくれよ」
グラサンの奥に歪む近藤の表情……それが一体何を意味するんかわからなかったが、俺が最後にその世界で見たのは、そんな邪悪な光景なのだった。
それからは、光が俺のことを包んだ。まばゆいほどの光は、五分、十分……何時間かもしれない。とにかく長い間俺のことを包んでいた。
そして、その光は唐突に消えた。