完全なる注文 2
「……ギンジ。なんでこの仕事、引き受けたの?」
仕事を受けた後で、ノエルと俺は鍋島が指定していた目的地へと向かっていた。
鍋島が提示した条件は3つ。
まず、仕事を遂行するのは、俺とノエルだけ。霧原や里見には知らせるな、と言っていた。
そして、目的地にも俺とノエルとだけ行ってもらう。
俺には鍋島からアタッシュケースを渡された。結構ズッシリしていて重い。
最後の条件。これが一番大事だった。
「……報酬は、前払い」
俺は鍋島に渡された1億ペスカ……相当の価値があると言われた金のメダルを見て微笑んでしまった。
この世界の貨幣、紙幣の制度はこの金のメダルがほぼ最高点。1億ペスカメダルと云うらしい。
「ふふっ……これで当分は遊んでくらせるな」
「……ギンジ、借金は?」
そう言われて俺は思い出した。この異世界での生活が長すぎて忘れかけていたが……そもそも借金を返して俺は元の世界に戻るのだった。
「……わかってるって。この金貨は大事にしないとな」
そういって俺はメダルをポケットの中にしまった。そして、今一度重すぎるアタッシュケースを抱えて歩き出す。
「しかし……場所はノエルが知っているって言ってたけど、お前は前もこの仕事、やったことあるのか?」
俺が訊くとノエルは小さく頷く。
「……知っている仕事。あまり……オススメできない」
「え……もしかして、結構危険なのか?」
ギョッとしてそう訊ねるが、ノエルはそこに関しては首を横に振る。
「……そんなこと、ない。ただ……嫌な気分になる」
ノエルは辛辣そうな顔でそう言った。嫌な気分……どんな気分だよ。
「……まぁ、とにかく行ってみればわかるよな。報酬は貰ったし……きちんと仕事をこなさないとな」
「……ギンジ、調子、良い」
ノエルにそんなことを言われたが俺は気にしなかった。
それから数十分ほど、俺とノエルは歩いた。そして、俺が段々と疲れてきた辺りで、ノエルは立ち止まる。
「ここらへん。ここにいれば、向こうから、来る」
「はぁ? どういうことだ?」
俺は理解できなかったが立ち止まった。
向こうから来る……誰か来るってことなのか?
そして、それから数分後のことだった。
「来た」
ノエルがそういう。俺はそういってノエルが見る方向を見る。
ドスドス……低い足音が聞こえてきた。
それが何体も。
「え……ど、どういうこと?」
と、俺が唖然としていると、目の前に現れたのは……
「ウォォォォォ!」
見ると、目の前には……俺の慎重の二倍はありそうな人間……いや、違った。
顔はとても醜悪な豚のようなもので……細い瞳で俺を見ている。
そして、俺は理解した。
「あ……お、オークか!」
俺がそう気付いた時には、既に十体ほどのオークらしき化け物に、俺とノエルは囲まれてしまっていたのだった。




