完全なる注文 1
「はぁ……」
イカサマ対決から約一週間。
俺はギルドの片隅で大きくため息をついていた。
「ギンジ! お昼終わり!」
ノエルが怒り気味にそう言ってきた。俺は立ち上がる。
結局……あれから俺は魔物狩りに駆りだされている。
無論、相変わらずメインの戦力は霧原である。
俺はもっぱら囮……里見は相変わらず見ているだけ。ノエルも……同じようなものである。
「……はぁ。めんどくさいなぁ」
俺がそう言うとノエルが青い瞳で俺を睨む。
「ギンジ……真面目にやる気、ある?」
……ない。あるわけがない。
毎日金になっているのかいいないのか……いや、なっていない。
一日百円のためだけに命をかけて危険な目に合うのは……割に合わなすぎる。
もし命を賭けるならもっと大きい見返しが欲しい。そう思うのは当たり前である。
「なんや。調子悪そうやな」
と、そこへ聞こえてきた声。俺は苦い顔で振り返る。
「……鍋島さん」
見ると鍋島はニンマリと微笑んで俺を見ている。
「なんや。つまらなそうやな……どうや? また賭け事でもせんか?」
と、鍋島はニヤニヤしながらそう言う。俺はチラリとノエルを見る。
「……ナベシマさん。ギンジ、賭け事、禁止」
ノエルはふくれっ面でそう言った。それを聞いて、鍋島はなぜか嬉しそうに微笑んだ。
「アヒャヒャ……なるほどのぉ。まるで女房から賭け事禁止令が出ている旦那みたいやな。伊澤さん」
鍋島はそういった後で、そのメガネの奥の瞳で俺を見る。
「せやけど……つまらんやろ? 今の仕事」
「へ? え、えっと……まぁ……」
俺がそう言うと、ノエルはムッとした顔で俺を見る。
「ええんや。その通りやろ。危険な目にあって一日百円じゃ割に合わんわ。せやから……ワシが仕事……やなくて、クエストを紹介しとるわ」
「……へ? クエスト、ですか?」
そう言うと鍋島は大きく頷いた。
「せや。報酬は……1億ペスカでどうや?」
「1億……えぇ!? ひゃ、百万円ですか!?」
さすがに俺も思わず驚いてしまった。鍋島はニンマリと微笑む。
「そうや。この前の賭け事のお詫びと思ってくれてええで。どうする?」
俺の心は既に決まっていた。
もちろん、引き受ける、と。




