本当に怖いのは
「……た……助かった……」
ギルドからアパートに戻る途中、俺は思わずそう言ってしまった。
「……てめぇ、反省してるんだろうな?」
と、背後から霧原のドスの聞いた声が聞こえてくる。
「ひっ……わ、わかってますよぉ……」
俺がそう言っても霧原は俺を睨みつけてくる。
最後の勝負は……霧原の勝ちだった。
コップの中には玉が入っていなかった。
ただまぁ……それがわかった途端、アリッサムは泣き出して鍋島に謝るし、鍋島は面倒くさそうにそれに対応するわで……結局、俺の賭け事の結果は有耶無耶になってしまった。
「……しかし、霧原さん、あそこでよくあそこまで強気になれましたね」
思わず俺は霧原にそう言ってしまう。
「あ? ああ……確信があったからな。玉は入っていない、っていう」
そう言うと霧原はチラリとノエルのことを見る。
ノエルはニヤリとそれに対して微笑み返した。
……なんだか、今のやり取り……少し怪しい感じがしたが……よくわからない。
「ああ。そうだ。伊澤。お前、ノエルとの賭け事の件も無効にしろ」
そんな矢先に霧原がそんなことを言ってきた。
「え……えぇ……な、なんで?」
「なんでもだ。オメェ、反省してないのか?」
霧原は俺にNOと言わせない圧迫感を与えてきた……さすがに今の状況では断れなかった。
「……わ、わかりましたよ」
「まったく……後、今後は賭け事は禁止だ。当分は真面目に魔物狩りに励め」
「え、えぇ……」
「……反論、してぇのか?」
無論、俺にそんなことはできるわけがないので……俺は頷くしなかった。
「……わ、わかりました」
霧原は厳しい表情のままで俺の側を通りすぎていった。
「霧原さん……大丈夫ですよ。借金、ゆっくり返していきましょう」
その後で、幸薄そうな女、里見が俺にそう言ってくる。
「そう。ギンジ、借金、ゆっくり返すべき、ね?」
ノエルにもそう言われた……というか、これで俺はノエルにも強い態度をとれなくなったわけだが……
「……ん?」
と、俺はそんなノエルが、手のひらに何かを握っているのを見た。俺は咄嗟にノエルの手をつかみ、中身を確認する。
「あ、ギンジ、それ――」
そして、ノエルが手にしていた物を確認して、俺は驚いた。
「……なんで、ここに?」
それは……鍋島が先程コップの中に入れたはずのビー玉だった。
それを……なぜかノエルが持っていたのである。
俺は思わずノエルを見る。
「……ノエル。これは?」
「あー……あはは……さっき、拾った……」
「嘘つけ! お前、まさか……ん? 待てよ、だけど……」
俺はその時理解した。
玉は……最初はコップの中に入っていたのだ。アリッサムの魔法は成功していた。
しかし、ノエルがアリッサムが移動させたコップの中から、玉を再び自分の手の中に移動させたのである。
つまり、先程の勝負……その時から霧原の勝利は決まっていたということになる。
そして、霧原の先ほどの言葉……玉が入っていないことを確信していたという……
「……ノエル、お前……」
「あー……ノエル。タカヤには何も言われてない。関係ない、から……」
そう言うとノエルはそのまま走っていってしまった。
「どうしたんですか? 伊澤さん」
里見にそう言われ、俺は思わずビー玉を見ながら呟いてしまう。
「……やっぱり、極道相手に賭け事は……やらない方がいいみたいだ」