決着
そして、ピリピリとした緊張感が、霧原と鍋島の間に流れる。
コップの中に玉が入っているのか、いないのか……たったそれだけのことである。
しかし、その是非が、この二人の極道にとっては命のやり取りにも匹敵するようなことなのである。
「……鍋島の親父さん。こうしていても埒が明かないぜ」
と、先に口火を切ったのは……霧原の方だった。
鍋島はただ黙ったままで霧原の事を見る。
「……せやな。で、どうするんや」
鍋島がそう言うと霧原はニヤリと微笑む。
「……俺と一つ賭けをしないか?」
霧原はそう言うと、鍋島は意外そうな顔をする。
「賭け……やと? まさか、もう一回このコップの賭けをするんか?」
鍋島がそう訊ねると、霧原は首を横に降る。
「違う。このコップに……一つ残ったコップに玉が入っているかいないか……そのことに関して賭けをするんだ」
霧原の提案に……鍋島は予想内だったという表情をする。
「……なるほど……そういうことかい……」
鍋島は少し苦々しい顔をしたが、大きくため息をつく。
「……それ、ワシに断ることはできるんか?」
鍋島がそう言うと霧原もニヤリと微笑む。
「ああ。断ることはできる……しかし、それは懸命ではないと思う」
「あ? どういうことや?」
すると、霧原はチラリとアリッサムのことを見る。
「……無論、今の状態ではそうとは断言できないが……仮に親父さんと姐さんが組んでいた場合……親父さんが賭けを放棄するってことは、コップの中に自信がない……つまり、アリッサムの姐さんの魔法が失敗しているかもしれないと思っていることになるんじゃないか?」
霧原にそう言われて鍋島は苦々しい顔をする。言われてみればその通り……鍋島にとってみれば、賭けるも地獄、賭けないも地獄である。
「だ……ダーリン! 大丈夫やで!」
既にアリッサムはイカサマを隠そうとするつもりもないらしく、心配そうな顔で鍋島にそう言う。
「……わかった! ワシはコップに玉が入っている方に賭ける! それでええやろ!」
「ああ……まだ、何を賭けるか聞いてないな……親父さん。何を賭けるんだ?」
そう言われて、鍋島は益々苦々しい顔をする。
「……霧原ちゃんは……何を賭けてほしいんや?」
「無論。先程の伊澤との賭け事を無効にする……それだけでいい」
「……わかった。で、霧原ちゃんは何を賭けるんや?」
鍋島がそう言うと、霧原は鋭い視線で鍋島を見る。
「俺の……命だ」
そう言うと霧原は机に刺さったままだったドスを見る。
「……俺が負けた瞬間、俺はこれで腹を掻っ捌く……それでいいか?」
あまりの気迫に俺も、そして、鍋島も……その場にいた全員が唖然としてしまっていた。
「わ……わかった。ええやろ……」
そう言うと鍋島は少し緊張した面持ちで最後のコップに手を伸ばす。
「……ほな……行くで!」
そういって、鍋島は一気にコップを持ち上げたのだった。




