白か黒か
「……ふむ。ええで」
しかし、あっさりと鍋島はそれを許可した。
俺は呆然としてしまう。
もしこれでカップの中に玉が入っていなければイカサマ、入っていても霧原の勝ちが確定するのである。
それなのに……鍋島のこの余裕はなんだ?
「ほな、さっさと確認するで。ま、玉が入っているのは当たり前なんやが……」
「待て」
と、霧原が再び鍋島を制止する。
「……なんや。まだ何かあるんかいな?」
鍋島が嫌そうな顔で霧原を見る。しかし、霧原は至極真面目な顔で鍋島を睨んでいる。
「……玉が入っている……本当にそうなのか?」
「は? な……何を言っとるんや? 霧原ちゃん……」
と、鍋島は少し動揺した俺にも理解できた。
それを霧原は見逃さなかった。
「……玉、入っていないんじゃないか?」
「なっ……それはつまり……ワシがイカサマをしとるってことか?」
霧原は鍋島をみてから、俺の方を見る。
「おい。伊澤。鍋島の親父さん。お前との勝負の時、なんて言ってた?」
いきなりそう聞かれて俺は少し戸惑ったが、霧原が俺に聞いた意味を理解した。
「……ワシが一体どういうことをシているか理解しないと……無様に指を切るハメになる、って……」
俺の言葉を聞いて霧原はニヤリと微笑み、鍋島は眉間にシワを寄せる。
「つまり……親父さん。アンタ……カタギ相手にイカサマ仕掛けたってわけか?」
霧原がそう言うと、鍋島は忌々しそうな顔をしてから霧原を睨む。
「……それがなんやっちゅうねん……イカサマちゅーもんは、バレなきゃイカサマしたことにならんのや。つまり、ワシはまだイカサマをしたってことにはならへんで」
鍋島の無理矢理な理論に俺は呆れてしまったが、霧原は至極真面目に鍋島の話を聞いている。
「……なるほど。じゃあ……どういうイカサマをしているかバレちまったら……それはイカサマをしたってことになるんだな?」
霧原がドスの利いた声でそう訊ねる。鍋島はそう言われて少し戸惑っていたようだったが、小さく頷いた。
「……そう……やな」
「それじゃあ……親父さん。アンタのイカサマを見抜けばイカサマをシたってことは確定するんだよな?」
「あ……ああ! そうやで! だから何やちゅーねん! どうせコップの下には玉が有るんや! 今更ガタガタ言うなや!」
「……本当に入っているのか?」
霧原がまたしてもそんな質問をする。鍋島は段々とマジで切れそうな顔だった。
「……霧原ちゃん……あんまりワシのこと舐めとるとアカンで」
「ふっ……舐めてなんかいないさ。ただ、俺は確認しているだけさ。きちんと玉を入れることが出来たのか、ってな」
そういって霧原は鋭い瞳で鍋島から少し離れた所にいる人物……鍋島の現地妻、エルフのアリッサムを睨みつけたのだった。




