ナベシマ・ザ・プレイヤー その5
無論、証拠はない。
だが、鍋島の態度がそれを表している。
しかし……一体どんなイカサマをしているのか……それが、わからない。
俺は鍋島を見る。鍋島は……ニヤニヤしながら俺を見ているだけだ。
何か……何かおかしいところを見つけろ。俺だったら……俺だったらどうする?
まず考えられるのは……コップだ。コップにそもそもカラクリがあるはず。
だけど、既にそれを確認するのは不可能だ。それをやるならば一番最初にやっておくべきだった。
俺はそれを怠ってしまった……その時点で自ら既に大分不利な状況に追い込まれてしまっている。
それならば……どうすればいい? それって、もう打つて無しってことじゃないか。
俺は自身の血の気が引いていくのがわかった。
「伊澤さん」
鍋島に名前を呼ばれて、俺は我に返る。
「え……な、なんですか?」
「タバコ、吸ってええか?」
そういって鍋島はタバコを咥えている。俺はただ小さく頷いた。
鍋島はタバコに火を付けて、大きく煙を吐き出す。
「……ま、そう気負わんでもええんちゃう? 後一回は間違えられるんやし」
鍋島は至極お気楽にそう云う。
……そういう問題ではない。今間違えれば……次も間違えるのだ。
なぜなら、イカサマがわからないからだ。
鍋島がどんなイカサマをしているのか……それがわかれば俺の勝ち。分からなければ……
俺は自身の指を一本見る。
そして、その指を突き立てたままで、真ん中のコップを指差す。
「ん? ええんか。これで」
鍋島は意外そうな顔でそう言う。俺はなんとか頷いた。
鍋島はあっさりとコップの中を見せる。ビー玉は、もちろん、入っていなかった。
「残念やな。ほな、次が最後――」
「待ってください」
そこで、俺は待ったをかける。鍋島は怪訝そうに俺の事を見る。
「なんや。なんか言いたいことでもあるんか?」
「……コップ、見せてください」
俺がそう言うと、鍋島は俺のことを睨む。そして、大きく煙を吐き出してきた。
そんな状態のまま、しばらく経ったが、鍋島は俺にコップを渡してきた。
「ほい」
俺はコップを受け取り、中を見る。
……普通のコップだ。何の変哲もない。
底に穴が開いてたりもしない……おかしなところがないのがわかるに連れて、俺は自分の首がゆっくりと絞められているのがわかった。
「もうええか? 満足やろ?」
自分のイカサマが見破られるはずがない……そういう自信があるようで、鍋島はコップの返却を催促してきた。
俺は……仕方なくコップを返すしかなかったのだった。