ナベシマ・ザ・プレイヤー その1
そして、実際それから数日は、俺はかなり優雅な生活を送ることになった。
ノエルは俺に魔物狩りに行けなど言わない……というか、敗北したのだから言えるわけがなかった。
俺は朝遅く置きて、昼頃にギルドハウスに行き、適当にカモになりやすい冒険者を探す。
この繰り返しで既にフェンリルを何匹か狩った程度ではとても追いつけないレベルの金額を俺は蓄えることができた。
このままこの繰り返しが続けば、間違いなく俺は1000万円を返済し、この糞みたいな異世界から脱出することができる……そう思っていた。
無論、その日も俺は昼頃にギルドハウスにやってきていた。
里見と霧原は律儀なことに今日もフェンリル狩りに行っている……そんなことをしたところで、どうせ借金返すことなんてできやしない。
こういうのは頭を使ってかしこく過ごすことが大事だ。異世界という慣れない環境にも俺は大分対応できてきた。
そう余裕でいたその時だった。
「おや? 伊澤さん。なんでここにおるんや?」
と、背後から胡散臭い関西弁が聞こえてきた。見るとそこに立っていたのは……
「あ……鍋島さん……」
ギルドマスターの鍋島だった。
「魔物狩りはどないしたんや? 行かへんのか?」
「え……あ、あはは……ま、まぁ……」
すると、鍋島は俺の前にドカッと腰を下ろす。
何故か嫌な予感が脳裏によぎった。
「ふぅん……なるほど。わからんでもないで。賭け事の方が効率良く金、稼げるもんなぁ」
単刀直入に、鍋島はそう言ってきた。俺はゴクリと生唾を飲み込み、冷静さを保つ。
「あ……え、ええ。そうですよね……」
「おお、せや。賭け事は悪いことやないしなぁ……無論、イカサマなしの賭け事やったら、の話や」
そう言われて俺はさらに嫌な気分になる。鍋島は笑っているが……もしや、バレたのか?
「え……えっと……鍋島さん。それはどういう……」
俺が途中まで喋っているのに、鍋島は先を続ける。
「一枚が両方表のコイン、もう一枚が両方裏……最初に客に見せるのは普通のコインや。で、適当に負けて、でかい勝負では勝つ……こういうけちくさいイカサマを、昔やっとったチンピラがおってなぁ……伊澤さん、そいつ、どうなったと思う?」
既にそれは確信に変わっていた……ヤバイヤバイヤバイ……
完全にバレている……俺は既に敗北していた。
「あ……す、すいませんでした……」
「ん? なんで伊澤さんが謝るんや? よくわからんけど……まぁ、ええわ。せや! 伊澤さん、魔物狩り行かへんのやったら、ワシと一発、賭け事でもしようや!」
急にテンションが高くなる鍋島……俺はものすごく嫌な気分になる。
「え……それって……」
「ええやろ? 決まりや! アリッサム! ちょっと来てや!」
そういって鍋島はアリッサムを呼ぶ。
……どうやら完全に逃げ出せない状況に、追い込まれてしまったようだった。




