ギンジ・ザ・ギャンブラー その4
ノエルが石を入れた直後、俺は何も言わずに最後の石を手に取る。
確かに……既に石は4個入っている。
俺が入れる石は次で3個目……どう考えてもどんなに小さい石でも、この状態のコーヒーに零さずに入れるのは難しい。
しかし、俺は石を手に取る。そして、細心の注意を払いながら、そのままコーヒーの直上まで石を持ってきた。
俺は石を持ったまま、ノエルのことをチラリと見る。
ノエルは既に勝利を確信しているようだった。むしろ、未だに勝負を続ける俺に哀れみさえ感じているような表情だった。
この時だ……俺はこの時を待っていたのだ。
「……ああ、そうだ。ノエル。聞いていなかったんだけど……俺がもしこの状態から勝ったらノエルから俺は何を貰えるんだ?」
「へ? 勝つ? ギンジ、この状態から、無理。そんな話、意味ない」
「まぁまぁ。うーん……ああ、そうだ。それなら、もし俺がこの状態から勝ったら、金輪際、俺の生活に関して文句は言わない……それでいい?」
「……それ、どういう意味?」
「だから、魔物狩りとかさぁ……正直、危険じゃない? それに行かなくても俺に対して文句を言わない……とか?」
すると、ノエルは怪訝そうな顔をする。無論、それは困るという顔だった。
「それ、困る。ギンジには魔物狩り、行ってもらわないと」
ノエルの回答は予想通りだった……だからこそ、俺は次の提案をする。
「へぇ……ダメかぁ。じゃあ、何を賭けるのさ? ノエルだけ何も賭けないってのは、不公平なんじゃないの?」
俺にそう言われノエルは面倒くさそうに俺を見る。
おそらく、既に自分が勝ったのだからこんな問答は意味が無い……ノエルはそう言いたいのだろう。
「……わかった。ノエル、ギンジになんでもする。それでいい?」
……言った。ついにノエルは言ってしまった。
俺はその聞きたかった一言を訊くと同時にニヤリと微笑み。石をコーヒーの中に落とした。
表面が激しく揺れる……そして、今にも零れそうになるが……
「え……な、なんで!?」
ノエルは目を大きくして驚いた。
コーヒーの表面は……コップの淵から溢れなかったのである。