光明
「お、おい!」
さすがにまずいと思ったのか、連れの男が声を荒らげた。
しかし、賭け事に乗った当人はやる気まんまんのようで、話を聞こうともしない。
「……アンタ、さっきの言葉、本当なんだよな?」
兵士風の男は不安げに訊ねてくる。
「ああ、本当だ……さぁ、アンタが先にコインの表か裏、先に選びなよ」
「お、表だ!」
「わかった。じゃあ、俺は裏だな」
男は完全に興奮しているようだ。隣の連れの男は少し嫌そうな顔をしている。
……ようやくわかった。この異世界では純粋な意味での賭け事がなかったのだ。
「魔物狩り競争」を賭け事と言っていたが、あれは純粋な競争。運否天賦が関係する賭け事ではない。
てっきりヤクザが支配している異世界……賭け事が当たり前かと思ったが、意外なスキマだったようである。
「じゃあ、いくぜ」
俺はポケットから自然な感じでコインを取り出し、そのまま指で弾く。
それを手でキャッチして、両手で隠す。そして、ゆっくりと、それこそ見せびらかすように手のひらを見せた。
「あ……」
兵士風の男は、賭け事に興奮した顔から、一気に絶望の顔へと変化する。
コインは……見事に裏側を示していたからである。
「お、おいおい……どうするんだよ……200万ペスカ……それで手持ち全部だろ?」
連れの男が心配そう訊ねる。
「う、うぅ……どうしよう……?」
涙目で連れを見る男……正直俺は笑いを抑えるのが精一杯だった。
「ああ、別にいいぜ。200万ペスカさえ払ってくれれば。まぁ、これはギルドの契約とかじゃないし、今日はこれくらいで――」
俺が帰ろうとすると、机の上にポンと札束が置かれた。
「……それ、足りない200万ペスカだ。今日はそれで勘弁してやってくれ」
連れの男はそう言うと、俺との勝負に負けた男を連れて、そそくさとギルドハウスを出て行った。
俺は今一度机の上に置かれた札束を見てみる。
200万ペスカの札束が2つ……400万ペスカ。
つまり、元いた世界では4万円……中々の大金である。
「……これだ……まさに……悪魔的借金返済方法……!」
俺は、賭け事の意味を知らない素晴らしい異世界の住民達に感謝しながら、借金完済へとつながる一筋の光を見たのだった。




