賭博師ギンジ
俺だって、賭け事がそこまで得意なわけではない。
しかし、小さい頃から悪戯は得意だった。
その悪い癖は大きくなってからも治らず、それどころか悪化してしまった。
俺は時たま、元いた世界の数少ない友達相手に、博打を打っていた。
無論、大抵は正々堂々勝負していたが……金がない時はどうしても勝たなければならない時があった。
そんな時、俺は迷うこと無くいかさまをした。
それは非常に簡単なイカサマだった。
今考えればなぜそんな小細工に俺の友達は気づかなかったのか不思議である。
そして、幸運なことに、俺のイカサマ道具は……この異世界に俺と一緒にやってきていたのである。
「おーい」
俺は一度アパートに戻り、その道具を急いで持ってギルドハウスに戻ってきた。
声をかけたのは、もちろん先程の二人組である。運良くまだギルドハウスに残っていてくれた。
「ん? なんだ。さっきのヤツか。どうしたんだ?」
「あはは……実は俺も賭け事が好きでね……良ければ一つやらないか?」
俺がそう言うと、2人組は顔を見合わせ、申し訳無さそうな顔をする。
「あー……悪いな。魔物狩り競争は当分はやらないことにしたんだ。疲れるからなぁ」
「え? あはは。問題ない。俺が提案するのはもっと簡単な賭け事さ」
そういって俺は1枚の小銭を取り出す。それは、元いた世界の100円玉だった。
「これ。俺が元いた世界のコインなんだけど……今から俺がこれを指で弾く。で、俺の手元に戻ってきた時、これが表か裏かを当てるだけ。簡単だろ?」
俺ができるかぎりの笑顔でそう云いながらコインの表と裏を見せる。
コインにどこにもおかしな所はない。そういう意味で見せていた。
1人は男は少し怪訝そうな顔をしたが、もう一人は興味ありそうな顔をする。
「ああ、小さい賭けでいいよ。参加料1万ペスカ。勝てば二倍にして俺が参加してくれたアンタ達どちらかに返す。無論、負けたら二倍にして俺に払ってもらう……ね?」
「一万ペスカか……まぁ、そんなものならいいだろ」
「マジで? ありがとう。で、どっちに賭ける?」
「え? あ、そうだな……じゃあ、表で」
そういって1人の男が参加を承諾し、賭ける面を選択した。それと同時に俺はパンと両手を叩く。
「よし。じゃあ、俺は裏だ。さぁ、このコインを見てくれ」
そういって、俺は指の先にコインを乗せる。その時、コインは裏だった。
男は固唾を呑んでコインを見守っている。俺はコインを思い切り弾き飛ばした。
そして、瞬時にキャッチする。そして、すぐに手の甲を見せた。
「あ……表か」
俺はさも悔しそうにそう言った。兵士風の男は少し得をしたという感じで俺の手の甲を見ている。
「……ほら、二万ペスカ」
そういって、俺はなけなしの二万ペスカを渡す。
「え? いいのか? ホントに?」
兵士風の男はあまりにも俺があっさりとペスカを渡してきたので驚いていた。
「ああ。負けたんだ……はぁ……自信あったのになぁ……」
そういって、俺は何も言わずに去っていく。無論、この後どうなるかはわかっている。
「あ……お、おい! アンタ」
予想通り、男は声をかけてきた。しかし、俺は振り返らない。
「お、おい! 待てって!」
そういって、先程の男が俺の元に走り寄ってきた。
「え……何?」
「な、なぁ。もう一回やろうぜ? こんなに気楽な賭けならもう少しやってもいいかなぁ、って……」
俺は内心ニヤリと微笑んだ。
なるほど……ポーカーや丁半博打という言葉が通じないとなっては、どうやらこの異世界、そういう賭け事に対してはマジで疎い住民がいるようである。
そうとなれば……オレの独壇場である。
「うーん……でも、負けたしなぁ……」
俺はさも気が進まない体でそう返事する。
「そんなこと言わずにさぁ……なんなら参加料を倍にしてもいいぞ」
男はそういって、2万ペスカを見せびらかす。
俺は少し考え込んでいたが、しぶしぶ頷いた。
「わかった。じゃあ、それで最後にしてくれ」
「よし。じゃあ、そうだな……今度は裏だ!」
兵士風の男は元気にそう言った。俺はそれを聞いて、ポケットからコインを取り出した。
「よし……じゃあ、始めようか」
そう言いながら俺は、「約束された勝利をもたらす」コインを、指で勢い良く弾いたのであった。




