信じられるのは
「……で、あのガキ、そんなこと言ってきたのか」
その夜。俺の部屋にまたしても霧原がやってきた。
正直、角刈りヤクザを自分の部屋に上がらせるのは抵抗があったが……今日の昼の金髪碧眼サイコパス美少女よりもマシであった。
「……え、ええ。あの目はマジで俺のこと……殺そうとしてました」
「だろうな……近藤の親父が囲っていた理由がわかったぜ」
忌々しそうな顔で、霧原はそう言った。
「え、えっと……霧原さんは、魔物狩り、どうでした?」
「ああ。なんとかあの後、午前中に狩ったヤツと同じヤツを二匹、狩ることが出来た」
「え……す、すごいですね」
おそらく里見は戦力外……そうなると、ほぼ1人で、フェンリルを2体も倒したということになる。
さすが「鬼の霧原」と呼ばれているだけはある極道である。
「ほら。お前の分だ」
そういって、霧原は俺に弁当箱を渡してきた。
見るとそれは、昼間に鍋島の妻、関西弁エルフのアリッサムが売っていたコンビニ弁当だった。
「え……な、なんで……」
「気にするな。俺は弁当が一つあればいい」
そういって、霧原は弁当を食べ始めた。
俺は思わず今一度霧原と弁当を見比べてしまう。
……もしかして、俺がこの異世界で唯一頼れるのは、この極道だけなのではないか?
そう考えると、その事実に落胆しながらも、霧原が義理に厚い……昔ながらの極道っぽいのが救いであってとしみじみと感じる。
「で、でも……なんでこんなことをしてくれるんです?」
思わず俺はそう訊ねてしまった。
すると、霧原は割り箸を動かすのをやめて、俺を鋭く睨む。
「あ……す、すいません……変なこと聞いて……」
「……俺は、捨てられたガキだったんだ」
と、霧原は唐突にそんなことを言ってきた。
「え……捨てられた?」
「ああ。で、物心ついた時から孤児院を抜けだして……それからはずっとセコい盗みなんかをして生きてきた。だが、ある時、ヤクザの店で盗みを働いて、半殺しにされたんだ。で、もうこれで最期かって時に……近藤の親父に拾われた」
そこまで言うと、霧原は大きくため息を付いた。
「……俺を拾った頃の近藤の親父は、男が惚れるほどの極道だった。喧嘩にも負けなし……俺が憧れる男だった」
「へ、へぇ……」
あのグラサンの胡散臭そうなおっさんが……俺にはとても思えなかった。
「……まぁ、今は違うが」
俺が考えていたことを見透かしたように霧原はそう言った。
「今の親父は……黒極会での地位ばかり気にするようになって、カタギを騙すような真似も平気でするようになっちまった……俺は近藤の親父に、そういうことはするなって教えられたんだがな」
と、自嘲気味にそう笑う霧原。俺は思わずその様子を見入ってしまった。
「……そ、そうなんですか」
「ああ。だから、俺は昔の親父の言いつけ通り、カタギには優しくする……それを守っているだけだ。お前も俺に遠慮することないからな」
そういって再び弁当を食べるのを再開する霧原。
なんというか……極道とはいえ、確かに格好いいと俺も思ってしまったのだった。




