僕に優しくない美少女
「え……だ、ダメ?」
「はい。ここ、ギンジのお家、違います。ここ、ギンジが夜に寝るだけの場所。そこで勝手に休むの、ダメです」
「え……い、いや、でも明日はちゃんと行くし……」
すると、ノエルはずいと俺の方に身体を乗り出してきた。ノエルの身体からは甘い良い匂い……がすると思ったが、意外にも臭ってきたのは、煙草臭い匂いだった。
「ギンジ、勘違い、良くないです。これ、ギンジのために提供される場所ではないです。ギンジ、借金返す。そのために、ナベシマさん達、優しさでここに置いてあげている、それだけです。わかってますか?」
「や、優しさって……あ、あのさぁ! 魔物はめちゃめちゃ危険なんだよ!? ノエルはそれ、わかってんの!?」
思わず俺は怒鳴ってしまった。
しかし、ノエルは驚くどころか、呆れたようなジト目で俺を見る。
「ええ、知ってます。では、ギンジ、ここで死にますか?」
「……は? な、何言って――」
と、俺が反論しようと矢先、見てしまった。
金髪碧眼美少女の手に、拳銃が握られているのを。
「ここで死にますか? それとも、魔物、倒しますか?」
そう言われて、俺は瞬時に冷や汗がドバっと出てきた。
……コイツは同類だ。近藤や鍋島と……
どうやら、霧原の言っていたことは合っていらしい。
そして、その碧眼は、俺を殺すことに何の躊躇もないようで、マジでランランと光っていた。
「は……はい。ご、午後も……倒します……魔物……あ、明日から、必ず……」
俺がなんとかそう言うと、ノエルは満足したように微笑んだかと思うと拳銃をスカートの裾の中に隠した。
「良かったです。こんなところでギンジ、殺すの、可哀想です」
そういってノエルは俺に背中を向けたかと思うと、今一度振り返る。
「……可愛そうですよね? 次の債務者さん。血のついた部屋、使うことになっちゃいますから」
ノエルは感情を感じさせないような、恐ろしい程冷たい響きでそういった。金髪碧眼の美少女は俺の部屋から去っていったのだった。