悲しみの報酬
その後、俺、霧原、里見はギルドハウスの中で、机を挟んで向かい合って座っていた。
その中心部には、一つのおにぎり……一万ペスカで手に入れたおにぎりである。
「……これ、誰が食べますか?」
今はそんなことはどうでもいいというのに、里見がそんなことを言った。
俺は反応せずにおにぎりを見つめ続ける。
こんなのコンビニのおにぎりだぞ……いつもだったら、ズボンに入っている財布で簡単に買える代物だ。
それを俺は先程、死の危険を経験してまで手に入れた。
たった一つのおにぎりのためだけに。
「さっき確認してみたが、確かにアリッサム……の姐さんが売っているのは、どれも俺達が元いた世界のコンビニで売っているようなもんだ。おにぎりは一万、サンドイッチは二万、それで、弁当が10万ペスカだ」
「べ、弁当が……10万!? そ、そんな馬鹿な……」
「ああ。だが、円に換算すれば千円……そこまでぼったくりじゃない」
霧原の冷静な分析を聞いて、益々鬱な気分になった。
つまり、普通に考えてみれば一千万円の借金を返すためには……十億ペスカが必要になるということである。
十億……どこかの小さな国の国家予算のような数字……もちろん、それが円であればの話であるが。
「……どうしましょうか」
里見が呑気にそんなことを言っている。さすがに俺も呆れてしまった。
「どうしましょう、って……里見さん。アナタ……ん? ちょっとまって。そういえば、里見さん。今まで一度も魔物を狩ったことがないって……」
「……ええ。そうですけど……」
「だったら、食料はどうしてたの? 買うこともできないでしょ?」
俺がそう言うと里見は小さく頷いた。
「……それは、夜の仕事で、なんとか」
「あ……ああ。それじゃあ夜の仕事は結構儲かるわけ?」
「……いえ。そんなには、1回……それこそ十万ペスカですから」
「十万……そ、そうなんだ」
確かに「夜のサービス業」としては十万……ペスカ。
つまり、一日千円……やっぱり安すぎるか。
「で、このおにぎり、どうするんだ?」
霧原が怪訝そうに俺と里見に訊ねる。
……正直、食べたい。お腹が減っているのだ。というか、米が食べたいのだ。
しかし……それは、里見も霧原もそうだろう。ここで俺が食べたいというのは……
「……俺は、いらない。食べていいぞ」
さっそく霧原はそう言ってきた。
……いや、ちょっと待て。確かに霧原は今日、初めてだというのに、簡単にフェンリルを始末した。
つまり、自活の手段があるということだ。俺は……無理だが。
「あ……私も……いらないです」
そして、里見もそう言う。
……確かに、そうだ。コイツも一応キャバ……異世界での夜のサービス業で生活手段ができる。
……ということは、唯一何もできないのは……
「……俺か」
思わず俺はおにぎりを手にし、そのまま包装を破ると、中身にかぶりついた。
……美味い。たった2日だというのに、コンビニのおにぎりがうまくなるとは……
「う……美味い……」
「……おい。泣くな」
霧原にそう言われて、俺は自身が泣いていたことに気付くのだった。