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異世界で、ケジメつけます!  作者: 松戸京
第一章 地獄から異世界
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お金の価値は

「おい」


 霧原がぶっきら棒に声をかける。


「はい? ああ、お客さんやね」


 金髪の女性……見ると、その耳は人間と違ってとんがっている……これは……


「……エルフ?」


 思わず俺がそうつぶやくと、女性はニッコリと微笑んだ。


「せやで。ウチ、エルフのアリッサム、言います」


「アリッサム……アンタ、鍋島の親父さんの……」


 霧原がそう言う前に、アリッサムはなぜか少し恥ずかしそうに照れていた。


「うふふ……せやで。ウチはダーリンのお嫁さんなんや。ダーリンはなぁ、めっちゃゴッツくて、カッコええ人なんやで?」


 そういって、アリッサムはギルドの受付の方にいる鍋島の方に手を振る。鍋島もそれに手を振り返していた。


 しかし……こんな美人なエルフがヤクザの奥さんって……


 なんというか、世知辛い異世界である。


「……アンタ、随分と日本語がうまいんだな」


 霧原が不思議そうに訊ねる。


「ん? ああ。ダーリンが教えてくれたんや。だから、こうして違う世界から来たお客さん相手に商売できるんやで」


「商売……で、アンタはここで何を売っているんだ?」


 霧原の言葉と共に、俺はアリッサムの目の前に積まれたものを見る。


 それは……まるでコンビニの商品棚のようだった。


 おにぎりやサンドイッチ、それに、出来合いの弁当……というか、俺が知っているコンビニ弁当そのものだった。


「これ……売っているんですか?」


 俺が訊ねるとアリッサムは小さく頷いた。


「ほな、お客さん。お金、持っとるんやろ? なんでも好きなもの、買うていってや」


 言われて俺は思わず目の前のおにぎりに手を伸ばす。


「じゃ、じゃあ! とりあえず、このおにぎりを!」


「……おい、お前。待て」


 霧原がそういうのも構わない。


 昨日からカップ麺しか喰ってないんだ……米が食いたい……その欲望だけが俺を支配していた。


「まいど。じゃあ……一万ペスカ、いただくで」


「……は?」


 ……聞き間違いかと思った。しかし、アリッサムは笑顔のままである。


「え……い、一万……ペスカ?」


「せやで。一万ペスカ」


 俺は思わず鍋島の方を見てしまう。鍋島はニヤニヤしながら俺の事を見ていた。


「な……鍋島さん!」


 俺は思わず鍋島に強め寄ってしまった。俺がそうすることを知っていたかのように、鍋島は動じることなく俺に対応する。


「どうしたんや。そない慌てて」


「い、一万ペスカって……お、おにぎりですよ! これ!」


「ああ、おにぎりやな」


「お、おかしいでしょ!? おにぎりが一万円って!」


「……はぁ? 伊澤さん。何言っとんねん」


 と、俺がそう言うと、鍋島は慣れた感じでそう返してきた。


「え……だ、だって、おにぎりが一万円……」


「はぁ~……伊澤さん。ワシだって商売人やで? おにぎりが一万円やったら文句言うに決まっとるわ。そないな値段設定はあり得へん、って」


「だ、だったら、これは――」


「せやけどな。それは『円』の話やで」


「……へ?」


 俺が完全に返す言葉を失ったのを見て、鍋島は満足したように微笑んだ。


 その時、俺もなんとなく理解できた。


 円ではなく、ペスカ……


「も、もしかして……」


 俺が気付いたのを確認してから、鍋島は嬉しそうに微笑んだ。


「せやで。ペスカっていうんは、通貨としては……円の100分の1しか価値がないんやで」

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