はじめてのまものがり 3
「な、なんで……え!?」
俺は思わず引き金を何度も引いてしまう。しかし……弾は出ない。
あ、あれか? 安全装置がかかったままとかそういう、銃使用初心者にありがちな間違いか?
俺はそう思ってトカレフを見るが……そもそも、安全装置がどこにあるのかわからない。
『グルルル……』
と、そうこうしているうちにも、フェンリルが俺に近づいてきていた。
うめき声をあげて、口からは鋭い牙を覗かせている。
「ふ……ふざけんなよ!」
俺は思わず銃をフェンリルに向かって投げつけてしまった。
しかし、銃がフェンリルに当たることもなく、俺は自ら銃を手の届かない位置に放り投げてしまったのだ。
……ということは、つまり、俺は銃もなくなってしまったので……完全に丸腰になってしまったのである。
「あ……え、えっと……」
フェンリルは少しずつ、俺との距離を詰めていく。
武器になりそうなもの……ない。何もない。
「う、嘘だろ……」
まだ異世界に来て二日目だぞ?
それなのにこんな犬みたいな狼みたいなやつに食い殺されてゲームオーバー?
「……あ、あはは……ば、馬鹿みたいだ」
思わず笑いがこみ上げてしまった。
俺が笑うと同時に、フェンリルが身構えたかと思うとそのまま大きくジャンプして、俺に跳びかかってきたのだ。
その時、理解できた。俺はこれからこの魔物に食い殺される……その瞬間はまるで走馬灯のようにゆっくりと見える。
ああ……終わりだ。これで、終わりなんだ。
俺は死を覚悟し、何も出来ず、目をつぶった。
次の瞬間には、フェンリルの鋭い牙が俺の身体に突き刺さっている……
そうなる、はずだった。しかし……いくら待っても、そうはならなかった。
『キャンッ!』
と、そんな断末魔のような泣き声が聞こえてきた。俺はゆっくりと目を開ける。
「おい」
聞こえてきたのは……霧原の声だった。
俺が目を開けた先にあった光景は……フェンリルの身体を日本刀で串刺しにしている霧原の姿だった。
「え……き、霧原さん?」
霧原はフェンリルの身体から刃を抜く、フェンリルは弱々しくうめいてから、そのまま大量に出血してその場に倒れた。
霧原はそれを確認してから俺が放り投げたトカレフを拾い上げる。そして、まるでその重さを確認した後で、俺の前に放り投げてよこした。
「それ、弾が入ってないぞ」
「……え?」
弾が……入ってない?
ということは……そもそもこの銃は最初から武器として使用することは出来なかった、ってことか?
「とにかく、一匹は仕留められたな」
フェンリルの赤い血液を、白いスーツに少量浴びた霧原は、一仕事終えた感じでそう言った。




