はじめてのまものがり 2
「え……ど、どうすんの!?」
思わず俺は霧原にたずねてしまう。
「……とにかく、逃げた方がいい。3人で分かれて逃げるぞ」
「え……に、逃げるの!?」
俺が訊ねかした時には、霧原は走りだしていた。里見の方を見ると……里見も既にそこにはいなかった。
そうこうしているうちに、フェンリルはこちらの方に近づいてきていた。
「う……うわぁぁぁぁぁ!!!」
思わず俺は大声をあげながら逃げ出してしまった。
……そうだ。3人で逃げればフェンリルとやらも困惑して立ち止まってしまうはず……俺はそう思って背後を振り返ってみた。
「え」
と、見ると、フェンリルは……
「な……なんで俺の方に付いてきているんだよぉ!?」
フェンリルはまるで最初からそうするつもりだったかのように、俺に向かって走ってきていた。
ま、まずい……体力だってそんなにない俺だ……このまま追いかけられ続けられば、間違いなく追いつかれる。
しかし……相手は犬のような狼のような……とにかく魔物なのだ。
鍋島の話を聞けば、生きたまま喰われてしまう……というか、殺されるのだ。
「な、何か武器が……あ!」
俺はふと、ジャージのポケットの中に入ったトカレフの存在を思い出す。
……いやいや。無理だ。この状態で動く標的を狙い打つっていうのか?
そもそも、銃を使ったことがない俺が?
「む、無理だ……」
しかし、既に限界も迫ってきていた。息も切れてきたし、足も遅くなっている。
すぐ背後からフェンリルが俺に近づいてきているのがわかる。
「……一か八か」
俺は立ち止まった。と、フェンリルもさすがに戸惑ったのか、急に動きを止めた。
俺はゆっくりとポケットからトカレフを取り出した。使ったこともないトカレフを。
「お……重い……!」
銃は重い……ってのはなんとなく知っていたが……これでは持つのが精一杯。狙いを定めるなんて絶対に無理だ。
フェリルは今にも飛びかかろうとせん感じで、低く唸っている。
しかし、ここでフェンリルを撃たなければ、俺がフェンリルに喰われるのだ。
異世界に来て二日目で魔物に喰われて終わりなんて……いくらなんでも下らなすぎる。
「こ……この犬っころが! これでも喰らえやぁ!」
俺は無理だとは理解していたが……とにかくフェンリルに銃口を向けた感じで、そのままトカレフの引き金を引いてみた。
引いてみた……つもりだったのだが。
「え……へ?」
引き金を引いた……のだが。
「……弾が……出ない?」
信じられないことに、銃口からは発射音さえ聞こえてこなかった。
そもそも……弾は不発だったのである。




