逆境無頼 2
「い、一千万!?」
思わず俺はその場に座り込んでしまった。
一千万……美鈴ちゃん、一体なんでそんなにお金借りていたんだ……そして、その保証人なってしまった俺も一体どうして、そんなことを……
「おいおい。驚かれちゃ困るぜ。アンタは河原の保証人なった。だったら、一千万円ちゃんと返せるんだよな?」
「む……無理ですよ! 俺にそんな金あるわけない……」
「ほぉ。じゃあ、アンタの家族にでも頼むか。しかし、一人っ子のアンタが一千万円も借金して、その肩代わりをしなくちゃいけないなんて、ご両親も哀れだよな?」
お、俺の家族構成まで把握している……っていうことは、もう逃げられないじゃないか。
瞬時に、目の前の強面のおっさんが、マジで怖い人だということを俺は理解した。
「あ……お、俺! 美鈴ちゃんに電話します! 携帯番号も知ってるし……」
「はぁ。とっくにウチの若い奴等にもアイツの番号調べさせたよ。それでもアイツは出てこねぇ……まぁ、アイツ、ウチ以外の所からも借金してたし、今頃電波の通じない所にいるのかもな」
「え……で、電波の通じないところって?」
「そりゃあ、お前、海の底とか、山の中の地面とかだろ?」
そういって、近藤はニヤニヤと微笑む。俺は生きた心地がしなかった。
不味い……俺もすぐにそうなってしまう。貯金だってほとんどないのに、一千万円なんて大金、用意できるはずがない。
母さんや父さんだってそうだ。そうなれば、一家路頭に迷うことになってしまう……
「お……お願いします! ど、どうか! 許してください!」
俺は思わず土下座してしまった。
「……あ? 許す? 何を?」
無論、近藤の声には、一切の同情も感じられなかった。
「む、無理なんです! 一千万円、払えません! 用意もできないんです! だから、許して――」
そう俺が言い終わる前に、俺の顔面に、近藤の蹴りが炸裂した。
俺はモロにそれを喰らって、鼻から大量の出血をした。
「ひっ……ひぃっ……!」
俺が鼻を抑えながら悲鳴をあげていると、近藤がしゃがみこんで俺を睨みつける。
「てめぇ……それで許されると思ってんのか?」
「がふっ……ず、ずびばぜん……で、でぼぉ……無理でずよぉ……」
涙と血まみれの顔でそう言っても、近藤は許してくれないようだった。
俺の髪の毛を掴み、そのまま顔を強制的にあげさせられる。
「無理……そうか。でもよぉ、伊澤さん。無理っていうのは、やったこともねぇヤツがいう言葉だぜ? 何か解決策を実行しないで言う言葉だ」
「で、でもぉ……」
「つべこべ言うんじゃねぇ! まぁ、いい。とりあえず、俺の事務所戻るから。車に乗れ」
「え……く、車って……」
「あ? 文句あるのか? 今度は鼻血だけじゃ済まさねぇぞ?」
そういって、近藤は俺に見えるように拳でげんこつを作る。このままだと今度は殴り殺されてしまう可能性が出てきた。
……どうせ、いずれは海の底か山の地面の下なんだ。だったら、痛くないように殺される方がマシである。
「わ……分かりましたよ」
俺はそういって、渋々近藤の言うことを聞くことにした。
近藤は俺の部屋に無造作にタバコの吸い殻を捨てると、そのまま俺を引きずるようにして部屋から出たのだった。




