一狩り行って来い! 3
正直……驚きだった。
倉庫というよりも、これでは武器庫である。
「……鍋島の親父さん。これは……鍋島組の所有物なのか?」
霧原も少し動揺しているようで、信じられないという表情で鍋島を見る。
黒縁眼鏡の鍋島はレンズの奥の目をニヤニヤさせながら霧原を見る。
「せやで。まぁ、この世界に来てから、多少稼がせてもらったさかい、こういう武器も大量に仕入れることができたんやな。あ。もちろん、本家にはちゃんと連絡しとるで。別にこれで本家に反逆しようなんて、ワシは考えとらへんからな」
……反逆も何も、こんなにも武器があったならば、戦争でも始められそうなレベルである。
「え……えっと、鍋島さん。この中から武器を?」
「ん? ああ。せやで。まぁ、伊澤さんはカタギやからなぁ。そこにあるド派手なロケット砲なんかはオススメできんなぁ」
そういって、鍋島は俺のすぐ近くにあった対空砲的な何かを指さした。
俺も兵器にはあまり詳しくないが……実際、その通りだろう。
かといって拳銃も使ったこと無いが……ロケット砲よりはマシだろう。
俺はとりあえず見るだけ、という気持ちでそこらへんに無造作に置かれた拳銃を見てみる。
……どれも同じに見える。映画とかでも注意して見ていたわけでもない。
唯一俺が覚えている銃の銘柄といえば……
「あー……えっと、鍋島さん。聞いていいですか?」
「ん? なんや?」
「……トカレフは、ありますか?」
俺が唯一覚えていた銃の銘柄である。
……といっても聞いたことがある程度で、トカレフがどんな銃だとかはまったく知らない。
と、俺がそう訊ねると、鍋島はキョトンとした顔で俺を見る。
そして、しばらくするとなぜかニヤニヤしながら俺の近くに寄ってきた。
「伊澤さん……お目が高いやないか」
そう言って、なぜか俺の肩をポンポン叩く鍋島。
「え……あ、ああ。どうも」
「トカレフ……ええ銃やと思うで。何より壊れにくいからなぁ。ほな、そこに積んであるトカレフ、どれでもええから持って行ってええで」
「え……?」
そういって鍋島は倉庫の隅を指さす。
実際そこには、まるでバーゲンセールの特価品のように山と積まれたトカレフがあった。
「あ……あはは。ありがとうございます」
「ええんやで。まぁ、これで伊澤さんの武器は決まりやな」
鍋島は上機嫌でそう言いながら笑っていた。
「……おい」
と、俺がトカレフの山に近づいていくと、霧原が声をかけてきた。
「え……なんですか、霧原さん」
「お前……拳銃なんて、使えるのか?」
一番俺が聞かれたくないことを、霧原は聞いてきた。
「え……い、いや。そりゃあ、使ったことないですけど……」
「……そんなヤツが安易に銃を手にするのは、俺はあまり感心しねぇな」
そう言って渋い顔をする霧原……といっても、銃もなしでは完全に丸腰状態である。魔物を相手にするには危険過ぎる状態だ。
「ご、護身用ですよ。あはは……」
「……そうか」
それ以上は霧原は何も言わなかった。そうだ、護身用……できれば使いたくもないし、そもそも、使うことが難しいだろう。
「おお、あったで! 霧原ちゃんの武器はこれやな」
と、そこへ鍋島が何か長い竿状の物を持って霧原の所にやってきた。
「……これ、ですかい?」
「せやで。『鬼の霧原』にはぴったりの武器やろ?」
そういって、鍋島は竿状のもの……というか、近くで見てみるとそれは――」
「に……日本刀?」
あまりにも特異な存在であるその武器に、俺は思わず声に出して驚いてしまったのだった。




