一狩り行って来い! 1
「はーい! 皆さん、元気ですか!?」
翌朝。時間はわからなかったが、早朝、ドアをどんどんと叩く音で目を覚ました。
ドアを叩く主は……金髪碧眼の美少女、ノエルだった。
ノエルは他の2人も同様にドアを叩いたらしく、アパートの前には債務者2名と極道1名が集合していた。
霧原は相変わらずの白スーツなのだが……里見はなぜかジャージ姿だった。
「え……里見さん。なんでジャージ?」
思わず俺が訪ねてしまうと、里見はまた不気味に微笑む。
「……この世界の戦闘服です」
「え……ジャージが?」
里見は小さく頷く。
ジャージ……まぁ、まともな防具なんかは提供されないと思っていたが……さすがに俺も閉口してしまった。
「それでは! 今から鍋島さんのところ、行きます! 準備、いいですね?」
そんな俺に構わずにノエルは元気にそう叫ぶ。
俺達は何も言わず、ただ頷いた。
それを見たノエルは満足そうに頷くと、歩き出した。
「え……ちょっと待って。こんな朝から魔物狩り?」
「はい……魔物狩りは早朝から夕方まで続きます」
里見が衝撃の事実を言い放った。早朝から夕方……それまでずっと魔物を狩り続けろっていうのか?
「え……で、でも、昼飯とか、休憩とかは……」
「……一体でも魔物を狩れば、ギルドに戻ってきてもいいことになっています。まぁ……私、魔物を狩れたことないんで……お昼は、いつも食べれませんけどね」
不気味な笑みを浮かべながら、悲しそうな笑みを浮かべる里見。
……不味い。想像はしていたが、開始早々危険だ。
「え、えっと……き、霧原さん!」
「ん? なんだ」
朝っぱら強面の極道に話しかけたくはなかったが、俺は笑顔で霧原と会話を続ける。
「その……霧原さん『鬼』とか呼ばれているんですから、相当強いんですよね?」
「……ああ。まぁ、自信はある。だが、その……まもの? ってのがわからん。動物なのか?」
……そうだった。コイツはそういう異世界系の知識が皆無なのだった。
いや。でも、おそらく現状況でまともな戦力となるのは、この極道だけだ。
幸薄根暗女やフリーターの俺はおそらく魔物とまともにやりあえないはずである。
つまり、いかにこの極道に護ってもらうか……それが今日、というか、今後の魔物狩りの鍵となってくるのだ。
「き、霧原さん!」
俺は思わず声を張り上げてしまった。霧原は怪訝そうな顔で俺を見る。
「なんだ。急に」
「その……ね? 俺や里見さん……カタギ? ですか。一般人なんですよ。戦闘とか、マジで無理なんです……だから、霧原さんだけが頼りなんです! お願いします!」
俺は頭を下げた。なんでヤクザに頭を下げているのかわからなかったが、とにかく今はこうすることしかできなかった。
「……ああ。それも、分かっている」
霧原はそれだけ言って、また歩き出してしまった。
……本当にわかってくれているのだろうか。霧原が仁義に厚い極道であることを願うばかりである。
「……あの人、確かに強そうで格好いいですよね」
と、俺の隣で辛気臭い笑みを浮かべながら、里見がそう言った。
「でも……私、どっちかっていうと……伊澤さんの方が好みのタイプですよ……うふふ……」
そう言うと、なぜか恥ずかしそうに顔を背ける里見……その言葉は嬉しくなくはない……
だが、どうにも里見は俺よりも年上そうだし……いかんせん、幸薄すぎる。
「……まぁ、美人だとは思うが」
そんなことを考えながら、俺は既に結構先を歩いてしまっているノエルの後を追ったのだった。




