よく考えなくても絶望
その夜、霧原も里見も俺の部屋を出てから、俺は1人でぼんやりしていた。
……魔物狩り。
なるほど。確かにこれならば、臓器を売る必要はないし、マグロを延々と釣り続ける必要もない。トンネルに関しても同様である。
だが……魔物だ。
マグロは魔物とは違って襲ってこないだろう……いや、そもそもこの世界の魔物がどんな感じの奴なのか……俺は見たことがない。
しかし、人間を生きたまま丸呑みにする……おそらくドラゴン的なデカい魔物がいるのは間違いないだろう。
それを……明日から俺が狩るっていうのか?
生まれてこの方、生き物を狩るという行為をしたことがない俺に?
しかも、パーティメンバーは角刈り極道と、幸薄根暗女……
「……絶対無理じゃねぇか。これ」
今になって近藤のあの意味深な笑みが理解できてきた。
アイツは知っていたのだ。この選択肢がトンネル掘りやマグロ漁船と同様に……いや、それ以上にきつい選択肢であることを。
俺は思わずため息を付いてしまう。
俺も……別の世界に旅立ってしまうのだろうか?
それこそ、俺が来る前にここにいた債務者達のように。
「……いや。待てよ。鍋島が武器を持ってきたって言ってたよな」
……そうだ。おそらく、この世界はいわゆる中世風異世界……
近代的な銃火器なんかはないはず。
対して、ヤクザといえば、映画でしか見たことがないがドスとハジキ……つまり、拳銃なんかがメインウェポンにするはずだ。
銃ならば、遠距離から安全に、且つ、正確に敵を倒すことが出来る。
おまけに、相当硬い甲羅を持った魔物以外ならば、貫通力も期待できるだろう。
「……あははっ! そうだよ。ビビることないんだ。よーし! 明日からバンバン魔物を狩って、借金返して、さっさと元の世界に戻るぞ!」
俺はそう自分に言い聞かせてから、部屋の電気を消し、そのまま寝ることにした。
……無論、その時の俺は多少酒を飲んでいて気付かなかった。
いや、気づかないようにしていたのだ。
銃の扱いなど、俺は微塵も知らないこと。オマケに銃を持ったこともないこと。
ということは、銃を使って魔物を狩るなんて、ほぼ不可能に近いということを。