極道との会話から始まる異世界生活 4
「……ぷはぁっ!」
なぜか……いきなりやってきた203号室の住人、里見エレナ。
彼女は最初こそ申し訳無さそうに俺の部屋に入ってきたが……霧原から差し出された缶ビールを普通に受け取り、既に2つ目の缶を開けて飲んでいた。
「え……えっと、里見さん。その……うるさかったですか?」
酔いが冷めた……というか、我に返った俺は、里見に訊ねる。すると、里見はトロンとした目で俺のことを見る。
「……いえ。全然。そんなことないですよ……むしろ……人の声が聞こえてくるのは久しぶりでしたから……嬉しかったです」
そういって引きつったような笑みを浮かべる里見……なんだか少し怖かった。
「おい。アンタ、いつからここにいるんだ?」
霧原が唐突に里見にそう訊ねる。
里見は少し考え込んだようにしてから、また缶ビールを口に含んだ。
「そうですねぇ……半年前……ですか」
「半年!? 結構いるんですね……」
「ええ……その間に、2人くらい、いなくなっちゃいましたけど……」
辛気臭い陰鬱そうな表情になってそう言う里見。それは、つまり……
「え……えっと……里見さんは普段、何をしているんですか?」
俺がそう訊ねると、里見は目を細くして俺のことを見る。
やはりこの人……霧原とは違う方面で怖い。
「それ……聞いちゃうんですか?」
「え……ダメ、ですか?」
「フフッ……いえ。いいんですよ。そうですね……この世界ではサービス業をやっています」
「え……サービス……業?」
俺は思わず次の言葉を失ってしまった。
ヤクザが仕切っている異世界で、サービス業……それって、つまり……
俺が絶句していると、里見は俺のことを見てから、小さくため息をついた。
「……伊澤さんが想像するようなことはしていませんよ。ただ、男の人と一緒にお酒を飲むだけですから……まぁ、ほとんど、私と一緒に飲んでくれる人……いませんけどね」
卑屈そうな笑みを浮かべながら、またしても里見は缶ビールの残りを口に含む。
俺は思わず霧原を見てしまうが……霧原の方は特に動じている様子もなかった。
「……で、アンタ。なんでこの部屋に来たんだ?」
と、霧原がぶっきらぼうに里見に訊ねる。すると、里見は缶ビールを床に起き、目を細めながら俺と霧原を見た。
「……もちろん、お願いに来たんですよ。明日から、私も借金返済のために一緒に働かせてください、って」
そう言うと、里見はニヘラ、っと気持ち悪く笑った後で、缶ビールをまたしても一気に口の中に注ぎ混んだのだった。
「え……それって、鍋島が言っていた……その、里見さん。明日から俺達は具体的には何をするんです?」
「……簡単です。魔物狩りですよ。魔物狩り」
そう淡々と言い放つと、里見はやけ酒のようにまたしても酒を口の中に注ぐ。
「え……魔物狩り?」
「……鍋島さんから聞きませんでしたか? この村……魔物に迷惑受けているって」
「え……ええ。聞きましたけど……だ、だからって……俺達に魔物狩りをやらせるんですか?」
「……ええ。ギルドには、クエストっていう依頼があって……魔物を狩ると、その分お金がもらえるんです」
……完全に、RPGじゃないか。
鍋島のヤツ……どうやら霧島とは違って、アイツはテレビゲームを知っているようである。
「それで、魔物を狩ってお金をもらうんですか?」
「ええ……その金を借金の返済に当てるんですけど……私、まともに魔物を狩ったことないから、半年前と借金の金額、全く変わってないですね」
と、俺はここでものすごく嫌なことを理解してしまった。しかし、それを里見に聞かずに入られなかった。
「え、えっと……もしかして、里見さん。俺が来る前にいなくなった2人って……」
俺が半笑いを浮かべながら訊ねると、幸薄そうな女は無表情のまま俺を見た。
「ええ……魔物狩りの最中に、魔物に襲われて命を落としたんです」