表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で、ケジメつけます!  作者: 松戸京
第一章 地獄から異世界
13/76

極道との会話から始まる異世界生活 2

 それから、俺と霧原は部屋の中で無言のままだった。


 音がしているのは、やかんでお湯を沸かしている音である。


 居間に俺と霧原は正座して、互いに向かい合っていた。


「え……えっと……それ、まじですか、霧原さん」


 俺は今一度訊ねてしまった。霧原は渋い顔のままで小さく頷いた。


 ……まぁ、考えていなかったわけではない。近藤のあの表情や、他の選択肢との兼ね合いを考えれば……異世界で死者が出ても全く可笑しくないのである。


「はぁ……で、でも、異世界って……魔法とかで死んだ人も生きかえられるはずなんですけどね……あはは……」


「……タバコ、吸ってもいいか?」


 俺の質問には答えず、霧原はそう言った。俺はただ小さく頷いた。


 霧原は胸ポケットからタバコを取り出し、それを口に加える。


「……あ。ライター、ないんだったな」


 それに気付いたようで、霧原はタバコを箱に戻した。それから今一度俺の方に視線を向き直す。


「俺はテレビゲームのことはわからねぇ。だが、鍋島の親父さんはお前と同じ考えの債務者がいたってこと、冗談みたいに言ってた。で、ソイツは生きたまま魔物に喰われたから、蘇るも何もなかったんだと」


 俺は思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。そして、同時にものすごい恐怖感が胸に広がっていった。


「そもそも、鍋島の親父さん曰く、この世界では不思議な力を使うヤツは限られている。この世界出身の奴等だ。つまり、俺やお前、鍋島の親父さんなんかは魔法は使えないそうだ」


「そ……そうなんですか」


 ……魔法が使えない? 異世界なのに?


 いや……能く考えてみたらそれはそうか。俺や霧原は魔法使いでもエルフでもない。そもそも、生きてきた今まで魔法なんて使ったこと無いのだ。


「で、でも……それなら魔物はどうやって倒せばいいんですかね」


「武器があるそうだ。鍋島の親父さんが向こうの世界から持ってきたらしい。明日、俺達に見せてくれるんだと」


 武器、向こうの世界……え? じゃあ、それはもしかして、銃とかってことか?


 ……いやいや。異世界って剣と魔法の世界でしょ。それなのに、俺は明日から、生きてきて今まで使ったこともないような……銃を使えっていうの?


「じょ……冗談じゃないよ!」


 俺は思わず怒鳴ってしまった。さすがの霧原も俺が怒鳴ると思わなかったのか、目を丸くしておれのことを見ている。


 それと同時に、キッチンの方で沸かしていたやかんが、けたたましい音を立ててなりだした。


「ふ、ふざけんなよ! そんな話聞いていない……な、なんで俺がそんな目に……」


「……落ち着け。座れ」


 霧原は大きくタバコの煙を吐き出し、俺を睨みつける。俺はおとなしく座り直した。


「……確かに、俺だって近藤の親父からは何も聞いていなかった。だがよぉ……ヤクザが紹介するような場所だ。ロクな場所じゃないってこと、お前は理解してなかったのか?」


 ドスの利いた声でそういう霧原。俺はそう言われて言い返すことが出来なかった。


 そうだ……近藤を始めとして、鍋島もそうだが……アイツらは俺の異世界行きを祝福してなんていない。借金を返せと言って、俺を異世界に送り出してきたのだ。


 少し考えれば分かること……俺は思わずため息をついてしまった。


「……霧原さん。俺……どうなっちゃうんですかね」


 俺は思わず、目の前の角刈り極道にそんなことを訊ねてしまった。霧原は何も答えず立ち上がる。


 と、俺がその後姿を見ていると……霧原はやかんで沸かしたお湯を、カップ麺に入れていた。


「とにかく、飯を食え」


 そういって、霧原は俺にカップ麺を差し出してきたのだった。


「は……はぁ……」


「それと、鍋島の親父からもらってきたんだが、お前も飲むか?」


 そういって、霧原が紙袋から取り出したのは、缶ビールだった。


 俺は、もう考えるのが嫌になって、とりあえず小さく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ