極道との会話から始まる異世界生活 2
それから、俺と霧原は部屋の中で無言のままだった。
音がしているのは、やかんでお湯を沸かしている音である。
居間に俺と霧原は正座して、互いに向かい合っていた。
「え……えっと……それ、まじですか、霧原さん」
俺は今一度訊ねてしまった。霧原は渋い顔のままで小さく頷いた。
……まぁ、考えていなかったわけではない。近藤のあの表情や、他の選択肢との兼ね合いを考えれば……異世界で死者が出ても全く可笑しくないのである。
「はぁ……で、でも、異世界って……魔法とかで死んだ人も生きかえられるはずなんですけどね……あはは……」
「……タバコ、吸ってもいいか?」
俺の質問には答えず、霧原はそう言った。俺はただ小さく頷いた。
霧原は胸ポケットからタバコを取り出し、それを口に加える。
「……あ。ライター、ないんだったな」
それに気付いたようで、霧原はタバコを箱に戻した。それから今一度俺の方に視線を向き直す。
「俺はテレビゲームのことはわからねぇ。だが、鍋島の親父さんはお前と同じ考えの債務者がいたってこと、冗談みたいに言ってた。で、ソイツは生きたまま魔物に喰われたから、蘇るも何もなかったんだと」
俺は思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまった。そして、同時にものすごい恐怖感が胸に広がっていった。
「そもそも、鍋島の親父さん曰く、この世界では不思議な力を使うヤツは限られている。この世界出身の奴等だ。つまり、俺やお前、鍋島の親父さんなんかは魔法は使えないそうだ」
「そ……そうなんですか」
……魔法が使えない? 異世界なのに?
いや……能く考えてみたらそれはそうか。俺や霧原は魔法使いでもエルフでもない。そもそも、生きてきた今まで魔法なんて使ったこと無いのだ。
「で、でも……それなら魔物はどうやって倒せばいいんですかね」
「武器があるそうだ。鍋島の親父さんが向こうの世界から持ってきたらしい。明日、俺達に見せてくれるんだと」
武器、向こうの世界……え? じゃあ、それはもしかして、銃とかってことか?
……いやいや。異世界って剣と魔法の世界でしょ。それなのに、俺は明日から、生きてきて今まで使ったこともないような……銃を使えっていうの?
「じょ……冗談じゃないよ!」
俺は思わず怒鳴ってしまった。さすがの霧原も俺が怒鳴ると思わなかったのか、目を丸くしておれのことを見ている。
それと同時に、キッチンの方で沸かしていたやかんが、けたたましい音を立ててなりだした。
「ふ、ふざけんなよ! そんな話聞いていない……な、なんで俺がそんな目に……」
「……落ち着け。座れ」
霧原は大きくタバコの煙を吐き出し、俺を睨みつける。俺はおとなしく座り直した。
「……確かに、俺だって近藤の親父からは何も聞いていなかった。だがよぉ……ヤクザが紹介するような場所だ。ロクな場所じゃないってこと、お前は理解してなかったのか?」
ドスの利いた声でそういう霧原。俺はそう言われて言い返すことが出来なかった。
そうだ……近藤を始めとして、鍋島もそうだが……アイツらは俺の異世界行きを祝福してなんていない。借金を返せと言って、俺を異世界に送り出してきたのだ。
少し考えれば分かること……俺は思わずため息をついてしまった。
「……霧原さん。俺……どうなっちゃうんですかね」
俺は思わず、目の前の角刈り極道にそんなことを訊ねてしまった。霧原は何も答えず立ち上がる。
と、俺がその後姿を見ていると……霧原はやかんで沸かしたお湯を、カップ麺に入れていた。
「とにかく、飯を食え」
そういって、霧原は俺にカップ麺を差し出してきたのだった。
「は……はぁ……」
「それと、鍋島の親父からもらってきたんだが、お前も飲むか?」
そういって、霧原が紙袋から取り出したのは、缶ビールだった。
俺は、もう考えるのが嫌になって、とりあえず小さく頷いた。




