極道との会話から始まる異世界生活 1
「……普通だ」
何が普通なのかといえば……アパートの部屋だった。
俺が今まで生活していたアパートとほぼ変わらない感じだ。
トイレ風呂はなし。だが、キッチンはあり、簡単な食事ならできそう……というか、ガスや電気や水道が通っているのが驚きだった。
「……なんだかなぁ」
よくわからないまま、俺は六畳間に寝転ぶ。
……そもそも、俺は明日から何をやらされるのか。
ノエルや鍋島の話を総合すれば借金を返すために魔物を倒す、とのことらしいが……果たして、そんなことができるのか。
俺は魔物なんてゲームでしか倒したこともない。それに魔物を倒した所で、一千万円の借金が返せるのか……
「はぁ……ったく。どうすりゃいいんだよ」
俺はそう言いながら目を閉じた。今までもそうだったが……困ったらとりあえず眠ることだ。眠っても……大体いつも、状況は好転しなかったけれど。
そんな風にしていたら、マジで眠ってしまった。起きたのは部屋の中がオレンジ色に染まった時間だった。
「う……あれ?」
窓から差し込むオレンジ色の光……異世界でも夕焼けは元いた世界と変わらないようだった。
「はぁ……腹減ったな」
俺はそう一人呟きながらまたしても寝転んだ。
と、その時、ドアを叩く音が聞こえた。
正直……ドアを不用意に開くのはやめておきたい。
また怖いおっさんがドアの向こうに立っているかもしれないのだ。それは、異世界でも同じこと。
俺はノックを無視した。しかし、二度目はノックと共に声が聞こえてきた。
「おい。いるんだろ?」
ドスの利いた低く、渋い声……霧原だ。
俺は仕方なく立ち上がり、ドアの方に向かっていった。そして、ドアを開く。
そこには、確かに白スーツの角刈り極道が立っていた。
「……なんですか。霧原さん」
「飯、食べてないだろ。鍋島の親父さんから貰ってきた」
そういって、霧原が俺に見せてきたのは紙袋一杯に詰まったカップ麺と……やかんだった。
「え……いいんですか?」
「良いも何も。今までの債務者にもそうしてきたそうだ」
「へ? 今までの債務者?」
「ああ。どうやら、お前が初めてじゃないようだ」
そう言うと、霧原は当りをキョロキョロと見回した。
そして、俺の方に顔を近づけてくる。
「……お前、ちょっと部屋の中に入れてくれ。話したいことがある」
とても断れる剣幕ではなかった。俺は仕方なく霧原を部屋の中に入れることにした。
「えっと……なんですか。霧原さん。話したいことって」
俺がそう言うと、辛辣そうな表情で、霧原は俺の事を見た。
「……どうやら、お前は一番悪い選択肢を選んだようだぜ」
「え? どういうことですか?」
瞬間、嫌な予感が頭の中をよぎった。霧原は少し間を於いてから、話の先を続ける。
「お前が初めてではない……つまり、お前の前に債務者がいたわけだが、鍋島の親父さん曰く、ソイツらは別の世界に旅立ってしまったらしい」
「え? そ、それって……元の世界に戻ったってことですか?」
俺がそう言うと、霧原は大きくため息をつく。
「違う……死後の世界に旅立ったんだ」




