仁義と任侠の異世界 4
「すまんなぁ、伊澤さん。ワシ、ちょっと霧原ちゃんに用事があったんや」
「……俺に、用事?」
霧原は怪訝そうに鍋島のことを見る。
しかし、鍋島は相変わらずのニヤニヤ笑顔で霧原を見返す。
「大したことやあらへん。ただ、霧原ちゃんに久しぶりに会ったから、お話したかっただけやで」
……なんというか、俺が霧原の立場だったら、絶対にこの鍋島という男は信用出来ない。
2人っきりでお話なんてできればしたくない。
「……そうですか。だったら、お付き合いします」
「嬉しいなぁ! 霧原ちゃん、さすが『鬼の霧原』と呼ばれている男やで」
「……え? 『鬼の霧原』?」
思わず俺は霧原の事を見てしまった。霧原は相変わらずの鋭い視線で俺を睨む。
「……渾名みたいなものだ。気にするな」
……いやいや。それは渾名ではなく、二つ名とかそういうものではないだろうか。
それにしても『鬼の霧原』……初対面で俺が抱いた印象は間違っていなかったようである。
「それじゃ、霧原ちゃんは連れて行くで。伊澤さん、今日は初日やから、ゆっくり休んでや」
「え……ええ。分かりました」
そういって、鍋島と霧原は連れ立って行ってしまった。残されたのは、俺とノエルだけである。
「……さて、私も、そろそろ、帰ります」
「あ……そ、そう……」
そして、ノエルは俺の方にニッコリと笑顔を向けてきた。
金髪碧眼美少女の笑顔……普通なら可愛いとだけ思うのだが、ノエルの笑顔はどこか少し怖かった。
「ギンジ。明日から、頑張ってくださいね!」
「あ……そ、そうだ。そもそも、明日から何するわけ? 俺、鍋島さんから何も教えられてないんだけど……」
俺がそう言っても、ノエルはニコニコしているだけである。
「明日になれば、わかります。今日はゆっくり休んで」
「え、えぇ……って、っていうかさ。俺、腹減ったんだけど、飯とかどこで食えば――」
俺が聞いてもノエルは答えず、そのままアパートの方ヘ向かっていってしまう。
「え……ちょ、ちょっと! ノエル!」
俺が引きとめようとする前に、ノエルは101号室に入ってしまった
「ノエル! あ、あれ……鍵!?」
既に鍵を閉めてしまったらしく、いくら扉のノブをがちゃがちゃ回しても、ノエルが出てくる様子はなかった。
「……なんだよ。金髪碧眼美少女は……俺にやさしくないのかよ」
いくら異世界転移したといっても……借金を返すために送り込まれたのだ。
いわば、異世界への流刑のようなものである。
可愛い美少女も俺にやさしくないのは、当然なのかもしれない。
「……仕方ない。部屋、戻るか」
俺はなすすべもなく、アパートの201号室に戻ることにしたのだった。




