仁義と任侠の異世界 3
それから、俺と霧原はノエルの後を付いて行った。
村……ナベシマ村の住民は普通の人っぽい……少なくとも、ヤクザには見えなかった。
さすが一つの村が丸々構成員だったらどうしようかと思ったが、そうではないようだった。
しかし、そうなると、ヤクザなのはギルドマスターであるナベシマとその周辺だけで、後は普通の住人ということになる。
……なんでヤクザがギルドを仕切ってるんだろう。そもそも、一体どういう経緯でアイツはギルドマスターになれたんだか……
「ギンジ、タカヤ。着きました」
ノエルの声で俺は我に返った。
「……え?」
俺は思わず声を漏らしてしまった。目の前にあったのは……アパートだった。
それこそ、俺が元居た世界で住んでいたアパート……それと全く同じ2階建てのアパートが、異世界の中世風の村落の中に、いきなり現れたのである。
「……これは?」
さすがの霧原も驚いたらしく、ノエルに訊ねる。
「これ、ナベシマと組の人達が作ってくれました! お金借りた人、ここに住んでもらいます」
「え……こ、ここに住むの?」
俺が今一度訊ねると、ノエルは確かに頷いた。
そう言われて俺はアパートをもう一度見る……ここに、住む。
「……まぁ、馬小屋で寝泊まりさせられるよりはマシかぁ」
「気に入ってくれて、良かったです。私、このアパートで、大家やってます。何かあったらこの部屋、呼びに来てください」
そういって、ノエルは1階の101号室を指さしながら、俺と霧原に鍵を手渡す。
「ギンジ、201号室。タカヤ、202号室」
二階を指さしながらそういうノエル。俺と霧原も同時に二階を見た。
二階には……3つの部屋がある。
「え……3つ部屋あるけど……誰かいるの?」
またしても怖い人が住んでいるのか……俺は恐る恐るノエルに訊ねてみた。
「ああ! 忘れてました! 紹介します!」
そういって、ノエルは鉄製の階段を登って二階に上がっていってしまった。
俺と霧原も顔を見合わせ、慌ててその後に続く。
「エレナ! 出てきて!」
ノエルはそう言ってドアをどんどんと乱暴に叩く。
すると、程なくして扉が開いた。
「あ……はい。すいません……」
出てきたのは……女性だった。
酷く暗い感じの表情の女性……俺よりも少し年上に見える。黒い髪をショートカットにしており、顔立ちも整っているのだが……どうにも暗い。
「エレナ! この人達、新しい入居者です! 仲良くしてくださいね!」
ノエルに沿う言われて、暗い感じの女性は俺と霧原の事を見る。
そして、卑屈そうな笑いを浮かべた。
「……里見……エレナです……よろしく」
そして、俺が聞き取れるギリギリの範囲で、里見は俺と霧原に一応挨拶した。
「あ……どうも。伊澤銀次です」
「霧原隆哉だ。よろしく頼む」
挨拶が終わると、里見は今一度俺と霧原を見てから、
そのままドアを乱暴にしめてしまったのだった。
「あはは。エレナ、相変わらず恥ずかしがりやさん、ですね」
ノエルは面白そうに笑っているが……あれは恥ずかしがり屋って感じではないように見える。
「おーい! 伊澤さーん! 霧原ちゃーん!」
と、そこへ聞き覚えのある声が聞こえてきた。
見ると、アパートの前に鍋島がやってきていた。
「あ、ナベシマさんです。行きましょ、ギンジ。タカヤ」
ノエルに言われるままに、俺と霧原は鍋島の下へと向かったのだった。




