はーち。
なんかアクセス数が6300とか越えててビビってますありがとうございます!(*´∇`*)
コンコンッ
生徒会室のドアを叩いて、少しだけ顔を出す。
微笑みを欠かさない。
前世も今世も作り笑いは得意だし、作り笑いはうまく生きていく上で最も重要だと思う。
でも私は、はっきりものを言える人になりたいと思ってるわけですが、すぐは無理だよっていう。
だって16年そうやって生きてきたし……ていうか、今世と前世足したら私三十路いってんじゃん!!
うっわ、それならもっと落ち着きを持つべきだろうよ私。
彰ちゃんの前でお腹鳴らしたりいきなり彰ちゃんとか言い出したり……って、彰ちゃんに失態晒しすぎでつらい。
「あ、和泉。入っていいよ」
「失礼しま「和泉!!!!!」」
書類整理をしている蓮に許可を得たからドアを開けて入ると、私の挨拶を遮って私に抱きついてきた女の人。
女の人にしては背が高く声は低めで中性的な顔立ち。
蓮見 優里。
今は彰ちゃんがやってるけど元生徒会副会長様で、女子生徒に人気がある。
前は綺麗なアッシュブラウンの髪は長めで美人さんだったのに、演劇部で王子様役をするからと言ってバッサリ切ってしまったから、申し訳ないけどイケメンさんにしか見えない。
優里先輩は今高等部の3年生なのだけど、完全に受験体制になって部活やら委員会やらの長を2年に渡している3年生がほとんどなのに対して、優里先輩と元生徒会会長様は生徒会にまだ出向いているようだ。
そして、優里先輩に私は何故かすこぶる気に入られている。
「和泉、久しぶりだな! 和泉から来てくれるなんて、私は嬉し「優里に会いに来たんじゃないと思うぞ?」」
「和泉は俺に会いに来たんですよ」
「うるさいなお前ら!」
優里先輩の言葉を遮ったのが、元生徒会会長様。
そのあとで何か言ってるのは蓮だけど、そういう誤解を招く言い方をするところ、ほんとに腹黒だな! ということでスルーさせていただく。
新城 祐也。
優里先輩の幼馴染みで婚約者だったはず。
優里先輩は話し方も立ち振舞いもイケメンさんだからあれだけど、優里先輩さえ大人しくしてたら新城先輩と優里先輩はお似合いである。
たまに暴走する優里先輩を保護者のごとく止めに入る苦労人でおかん属性の頼れる先輩。
そんなことを知らずに新城先輩に憧れてる女生徒は、新城先輩のことを見た目からして俺様だと思ってるみたいだけど、新城先輩には荷が重すぎるのではないかと。
「……小野瀬、何か失礼な紹介してないか?」
「何のことでしょう、新城先輩」
にっこりと笑ってやれば、何でもない。としぶしぶ新城先輩が引き下がる。
周りを見回すと、蓮と優里先輩と新城先輩しかいなかった。
彰ちゃん、副会長なのにいなくていいの。
あ、うちの学園は庶民とか金持ちだとかの差別はそこそこあるけど、表向きは年齢関係なくとか云々になってるから、ほとんど“先輩”呼びです。
まあこの方たちを神の子のように拝め奉ってる女生徒は“様”付けしてるんだけど……あ、私は別に蓮と彰ちゃんを神化してたわけではなく、前世でさんざん様付けで呼んでたからかもしれないけど、あー、まあつまり無意識だったわけです。
「和泉、仕事終わったからおいで?」
と、昼に言っていた会長専用の部屋とやらに手招きされて言われるがままふらふらと歩いていくと、優里先輩の蓮を呼ぶ声がして振り返る。
「おい、一条! 和泉を独り占めするなよ!」
「和泉は俺のですけど? 蓮見先輩は新城先輩と仲良くしてたらどうですか?」
にこにこと言ってるけどな?
前半聞き逃せない言葉があったような気がするなー……って聞いてる?
あれ、優里先輩もスルーなんだ?
何か当然の事実として周囲に知れてるんだ?
あっれ、おかしいなぁ……私ここ10年以上蓮を避け続けてたはずなんだけど、あれか! 一緒に登校してたからか!?
「いや祐也とはしない。和泉とする」
いや優里先輩、新城先輩が地味にショック受けてますって!!
この2人婚約者なのになぁ。まあ仲は良いけど友達って感じだよなぁ……って呑気に見てたけど、新城先輩の片想いのような気がしてきたぞ、不憫な!
「えっと、優里先輩と新城先輩。今日はどうしたんですか?」
「あー、受験の息抜きに仕事を手伝ってやろうと思ってなー」
「小野瀬は中等部の方、大丈夫なのか?」
「任せてきましたから」
高等部は受験があるから2年の後半に引き継ぎがあるのだけど、中等部は内部進学生は内部進学生で試験があれども3年いっぱいまでやらなければいけないのだ。
まあ引き継ぐ相手は決めているし、慣れは大事だから今日は仕事を任せてきたわけだけど。
しかし私、かなり生徒会に向いてないと思う。
前世の記憶を思い出したからか、段取りを立てるの結構頭使わないとダメだし、人に指示するのなんか前までは普通にしてたのに違和感というか抵抗があって。
高等部は役員決定らしいけど、会計とかでいいや。
いや会計もかなり重労働なのは知ってるんだけど、とりあえず会長と副会長は無理。
周りが納得してくれるかは置いといて……あー、まず蓮の方から手を回してもらうか。
「和泉」
イラついた蓮の声に一瞬肩が震えるが、後ろから抱き込まれるようにして優里先輩に抱き締められてるから動けないんですよー。
優里先輩って背高いし、和泉は中3な上に平均より低めだからすっぽりと収まる。
それに満足げな優里先輩は美しいんだけども、蓮の怒りがこわいであります。
おかしいなぁ、久世先輩が怒ってくるのは慣れてたから大丈夫だったのに、蓮の王子様スマイルで怒られるのはすっごい怖い。
「てーかさ、何でそんなに二人きりになろうとするんだ、一条」
「大事な話があるので」
そう、大事な話です。
私の今後の未来を決めると言っても過言ではなく。
「「…………婚約解消か」」
「二人揃って何言ってるんですか、あなたたち」
マジでやめてくれ。
婚約解消になって部が悪くなるのは両方だ。
しかも婚約解消なんかになったら注目の的で学園に平常位でいれるわけがない、そこまで私は図太くない。
「和泉が離れていくわけないでしょう?」
「一条が離さないの間違いじゃないのか?」
「優里、そこら辺にしとけ。蓮を怒らすな怖い」
元会長様に怖がられる蓮って何。
「では優里先輩。また今度」
「うーん、仕方がないな。また来るよ、和泉」
「彼氏かよ優里」
新城先輩のつっこみが前に会ったときより鋭くなってる気がする。
優里先輩は仕事では本当に頼りになるんだけど、変わってるからな。
新城先輩が会長だったときの代はかなり濃かったと聞く。
「和泉」
はい。と優里先輩の方に向くと、綺麗な顔を近づかせてそっと耳打ちされた。
「一条のこと、好き?」
………………質問の意図がわからないぃぃ…………。
まあ婚約解消だのなんだの言ったからそういうあれなんだろうけど。
“好き”か。
前世の記憶を取り戻す前はきっと好きだったんだろうと思う。
でも蓮は久世先輩であって久世先輩ではないし、作中の一条 蓮であって一条 蓮ではないし。
だからつまり、よくわからないでいる。
「嫌いでは、ないです」
いつまでもアホ面を晒すわけにはいかないので、きゅっと唇を引き締めて、出てきた結論だけを口に出す。
婚約者として0点の答えだろうけど、婚約者同士が両想いだなんて結構稀だし、小野瀬家と一条家のように本格的に家との繋がりを持つためにっていうのは意外と珍しかったりする。
だから、前までの私なら迷わず照れたりして好きだと言うところだとしても、自分に正直でいきたいと思うわけでありますので。
返事をすれば、今度は優里先輩の方がぽかん、という顔をした。
「……和泉、何か丸くなったよね」
「うえっ、そこまで食べてませんよ!?」
「はははっ! 和泉焦りすぎだから。まあそういう意味じゃないんだけど、うーん何だろうな。いつもと違う」
……嫌われたり、するのかな。
優里先輩は、いつもの和泉が好きだったわけで、和泉と茜がごっちゃになった新しい私をずっと好きでいてくれるなんて無茶な話で。
「どっちでも好きだよ。和泉は昔からほんとに可愛いんだから」
よしよし、と頭を撫でられて、あまりのイケメンさに赤面。
「ふふふ、むしろ今の方が好きだ。さ、祐也。作戦会議だな!」
「……お前、やめろよ……俺怖いわ……」
「それでも男かよ!」
「お前の男気が異常なんだからな!?」
嵐のように去っていく先輩2人。
ふと横にいる蓮を見ると、怪訝な顔で何かを考えている様子。
「蓮?」
「何言われたの?」
こ わ い
「いや別に何も」
「……ふぅん。まあ、誰か来るといけないから入りなよ」
「うっす」
「和泉の姿でその口調ってなかなか可愛いよね」
「蓮の趣味っておかしいなぁって思う以前に、そういうことを平気で言える今世での育ち方に問題性を感じます」
和泉大好きで、とにかく蓮との仲を切り離したい先輩方。