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ごー。

「おはよう、和泉」

「おはようございます、蓮様」



にこにこにこにこにこ。


いやぁ、中身久世先輩って知っててもやっぱり蓮様の笑顔は好きだなぁ。

とか思ってたらビシッとおでこを叩かれた。

おおふ。



「……目に蓮様LOVEって書いてるよ」

「はい、好きですよ?」

「うるさいんだけど」



そういえば先輩、だいぶ口調が柔らかくなったな……っていうか大分蓮様の方に引っ張られてる感じ。

昨日から口調には違和感だったけど、蓮様と思えばいつもと変わらない。

十七年王子様やってたら染み付いてくるものなのかなぁ。


久世先輩は“うるせぇ”とか“黙れ”とか“うっざ”とか“大人しくしてろ駄犬”とか言ってるイメージしかないからなぁ。


まあ、私が先輩先輩ってうるさかったし迷惑かけまくってたのがダメだったんだけどね。


いつもの私とは違う私を見た前世の友人は「本当に久世先輩好きだねぇ」とか勘違いして和んでたけど、単に久世先輩にはガンガンいっても普段の平穏な生活に害はなかったから、行動したいままにやってただけなんだよね。

先輩イケメンさんっていうかかなりの美形さんだったのに目付きのせいでモテないのは言ったと思うんだけど、だから平凡だった私がせんぱーい! とかって懐いていっても嫌がらせとかは起きなかった。

お菓子くれるし曲がったネクタイ直してくれてたし部活のときに髪の毛束ねてくれてたし、私一人っ子だからお兄ちゃんできたみたいで嬉しかった。




「和泉、行こ」

「はい」



手を差し出されたから、戸惑いながらも手を重ねる。

うーん、婚約者アピール大切だよね。

だってヒロインがやってきてからいきなり婚約者アピール始めたりしたら色々面倒になるといけないし。

でも嫌かどうか聞かれたら即答で嫌かな。

だってどっちにしろ面倒なこと起きると思う。



車までエスコートされて、二人で乗り込む。

前まで蓮様を好いていたからかドキドキとかで苦しくなって逃げたくて居心地が最高に悪かったけど、今日は隣に並んで座ってもどこか安心する。


まあ一条家の運転手さんがいるから、前世みたいに「先輩先輩!! ネクタイ直してください!」とかバカみたいに騒いだりはできない……というかやるつもりもないのだけど。

だって私小さい頃は前世と同様不器用だったけど、ちゃんと自分で何事も出きるようにってお母様にしつけられたからほとんどのこと自分でできるし。

まあ、小野瀬 和泉推しの先輩なら中身が前世でうっとうしく懐いてきた後輩でも、和泉だったら進んでやってくれたりするのかもしれない。



「昨日学校休んだからみんな心配してそうだね、ははっ」

「そうですわね。適当にあしらいますけど」

「まー、いちいち相手にしなくていいでしょ。どうせ家柄で近づいてきてる害虫じゃん」

「あら、同感です」



あーあ。

漫画の中の正統派王子様の蓮様が、久世先輩の前世からひん曲がった根性とやけに強い警戒心によって腹黒王子様へと変えられていく……!

それはそれで萌えるとか思ってないですよ。


まあ、普通は腹の中で色々計算してうまく過ごす術を身に付けるのは令嬢とか令息とかには必要なんだけどね。

だって、ただ真っ直ぐな馬鹿正直は騙されるのがオチでしょう。

跡取りとなる身からすれば、そんなの許されないんだから、学生時代からいい友好関係築いとかないと、でしょ。


自分に無益だと判断すれば切り捨てるし、有益だって思えば傘下に入れる。

そんなの虚しいなぁって思ってるけど、仕方がない。


でも“小野瀬 和泉”は、自分の意見は貫いてた。

うまく生きていくために相手を見極めて、それでも嘘は決してつかなかった。


だから、好きだったんだ。

小野瀬 和泉のことが。




「不安そーな顔してる」

「……そうですか? まあボロが出そうなのは不安ですが」

「ふぅん。でも和泉は和泉でしょ?」



え。と横にいる蓮様(もう先輩って言えばいいのかどっちにしたらいいのか迷うんだけどどうにかしてくれ)を見れば、優しく微笑まれる。



「茜は茜なんだから、和泉にならなくてもいい。自分がしたいように動いたら? 後始末は俺がしてあげる」



耳元でそう囁かれて、反射的に横へザッと避けると、車の窓に勢いよくぶつかってしまう。

ゴンッといい音がして、運転手さんが振り向いたから、得意の笑顔でにこにこと誤魔化す。


隣を睨むと、笑いを堪えていた。



「俺は橋本 茜じゃなくて【アリス】の小野瀬 和泉じゃなくて、“今”の和泉を見るからさ。だから和泉もそうして?」



目の前にいる蓮様は、前世の久世先輩ではなくて。

だからって【アリス】の一条 蓮でもない。


現に、腹黒王子様だし、久世先輩とはかけ離れた言葉遣いだし口調だし、だから、よくわならないけど今蓮様が言ったことは何となくわかる。



「“一条 蓮”も“小野瀬 和泉”も原作とは違ってさ、腹黒だしバカだし何か不安になってるし。だから原作通りにならなくてもいーじゃん?」



先輩が不安を砕いてくれるから、なんか泣きたくなった。


追い討ちをかけるように頭を撫でてくるから、涙が溢れた。



会話の内容を小さな声だったから聞き取れなかった運転手さんは、いきなり泣き出した私に珍しくおどおどしてる。

いつもの一条家の運転手さんは教育されてるのか常に無表情で口出しとか絶対しない人。





中等部の前で車が止められて、少しだけ赤くなった目を押さえながら蓮様にエスコートされるまま車から降りた。



「和泉。和泉は茜じゃない。俺は久世先輩じゃない。わかった?」

「……はい」

「いいこ」



何この人、頭撫でる癖でもあるの!?

私、頭撫でられるのに弱いんですよ、ほんとに!!

しかも蓮様だよ!? 蓮様だよ!?



「じゃあ、今日から始めよ。あ、“蓮様”じゃなくて“蓮”だからね」

「……えっ、無理ですよ!? だって先輩なのは変わらないし、立場上…、」

「うんうん、立場上逆らえないよね?」

「おう、そうくるか!!」



くっそ!! この腹黒が!



「ちゃんと、俺を見てね? 和泉」



私の手入れの行き届いた黒髪を綺麗な手に絡ませながら、そう言って蓮様でも久世先輩でもない笑顔を落とす。


そんな顔、初めて見ました。

やばいです。





しかし、冷静になって回りを見回すと、ここは中等部の校門の前。

今の時間、たくさんの人が通ってる場所。

おまけに私たちはカースト的に頂上にいる二人。

しかも二人は婚約者で、何故か雰囲気的には甘い感じ。


きゃーっ!! と女生徒の黄色い声が聞こえる。


やめて、耳壊れるからぁ!!



「……ほんと腹黒!!」

「え、アピールでしょ?」



何のだよ!!

婚約のとか!?

だとしても場所とか内容のおかげで意図的に小声とか色々仕組んでたろ!



「今度は忘れたなんて言わせない。我慢もしないからな」



ヒッ!!


怖い!!

よくわからないけどこの人怖い!

聞きなれてたはずなのに前世の口調がさっきまで柔らかな口調だったからすっごい威力ある!!


てか、なにを、なにをだよ!?

やっぱり何か忘れてるの? それに怒ってるの?

……分からぬ……!!






そのあと、蓮さ……蓮、は、満足げに私を教室まで届けて、高等部の校舎へルンルンと戻って行った。


昨日休んだから心配でしたーとかいう下級令嬢の媚びへつらいを覚悟をしていたのに、話題は朝の蓮との会話。

こっちは病み上がりなのに甲高い声で細かいところまで追求されて意識がまた遠退きそうになった。

けど私だって前世を思い出すまでらかなりしごかれてたから、いくら不愉快でも笑顔を作るなんて容易いし、あしらうことだってできる。

そのスキルをこれでもかと発揮しながら午前は終わった。



昼だ! やっほーい!! と内心すっごく浮かれながら、意図しなくてもできてしまう取り巻きを引き連れ食堂に向かっていると、ふと気づいた。






──────あ、ビッチへの対策案、全く相談してねぇ、と。





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