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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【三界戦争編】
96/122

91. 勇者と野獣

________


 天界、崩壊した宮殿の上空。


 見たこともない白い空に覆われたその中で、激闘を繰り広げる2人がいた。


「はぁ!」

「おらぁ!」


 レイドVSジン。

 互いの武器は、伝説の剣『風剣ウィム』と、刀のように鋭利に伸びた野獣の爪。


 その2つがぶつかり合う度に、鈍い音と火花が飛び散る。


 風剣ウィムの能力により、スピードは若干ながらレイドが勝っているように思える。だがそれでも、ジンにはキズひとつつけられないでいた。


「ちっ、なんつー硬ぇ身体してやがる……!」


 レイドは攻めあぐねていた。ツヴァイの時もそうだったが、いくらスピードで翻弄しても肝心のダメージが与えられなければ全く意味がない。風剣ではジンに立ち向かうことは出来ないと悟り始めていた。


「ははぁ! どうした勇者! ちっとも効かねーなァ!」


 反対にジンはドス黒い瘴気を身に宿しながら猛る。


「まァ……空中戦じゃあテメェは『風剣』しか使えねぇから無理もねーか」


 ジンは牙をギラリと覗かせて笑うと、自身の伸びた爪に黒い瘴気を纏わせ始めた。

 恐らくは威力の増強……。その両手には、まるで邪悪な蛇が禍々しく(うごめ)いているかのようにも見える。


 戦況は確実にレイドの劣勢へと傾いていく。だがレイドは焦ることなく、目を閉じて深呼吸をした。


「……へへ。ナメんなよ、ジン」

 そうして目を開けるレイド。同時に魔力が薄いオーラとなり、目に見えるほどに上昇していく。

 これは強がりでもハッタリでもない。そしてレイドは『シーカー』を出現させ、もうひとつ_____剣を取り出した。


「出でよ、『炎剣』!!」

 ぐわっと勢いよく『シーカー』から引き抜かれたのは、『炎剣フレアノック』。一瞬眩く紅い閃光を周囲に放ったそれは、一転して焦げ墨のように刀身を黒く変貌させ、レイドの右手におさまった。


「!! ……二刀流だと!?」

 ジンは片眉を上げ、少なからず動揺を見せる。

 右手には炎剣(フレアノック)、左手には風剣(ウィム)……初めて見せるレイドの戦闘スタイルがそこにあった。


「ここ最近使ってなかったからな。お前が知らないのも当たり前だぜ」

 レイドは右手を引く。そして風剣による超スピードで、一瞬にして数メートル先のジンの懐に詰め寄った。


「!!」

「でぇあ!!」

 そこから放たれる炎剣の一撃_____。ジンはそれを爪で防ぐが、炎剣はボウっと命を吹き込まれたかのように紅く色づく。


「ぐっ……! 『風剣』のスピードを上乗せした『炎剣』の連撃……!」

 ジンは風剣を持ったレイドのスピードに対応しきれない。彼の脳裏にうっすらと『危険』の2文字がよぎる。


「おららららららぁぁ!!」

 レイドはこの好機を逃すまいと、風剣によるスピードを最大出力で発揮しながら炎剣をぶつけていく。


 一撃。

 十撃。

 十五撃_____。

 その度に威力を増してゆく炎剣フレアノック。ため息が出るほどの深紅の刀身を宿したその剣は、徐々に徐々に、ジンの爪の盾を追いやってゆく。



 そしてついに_____。



「____これで、どうだぁ!!」

 大きく振りかぶったレイドの剣撃が、ジンの防御を打ち砕き多大なる衝撃を与えた。


「っち……!!」

 ジンは、衝撃で荒れ果てた大地へと激突する。轟音と砂煙を辺りに撒き散らしながら、ただそれでもジンは怒りとともに立ち上がった。


「クソがぁぁ……!!」

 頭に乗った小さな石ころや埃を払いのけながら、憎悪に満ちた目で地上に降り立つレイドを睨みつける。


「……マジで応えてねーな、おまえ。『地剣(インヴォルフ)』みてーに硬い奴だ」

 少しばかり息を切らすレイド。地に足をつけ、風剣を『シーカー』にしまった。

「はっ。『伝説の剣』……。それがその威力だってんなら、大したこたぁねーぜ」

 ジンは折られた爪を再び生やし、嘲笑う。ハッタリではく、今度は自信に満ちた表情で。


「まだ剣を全部見せた訳でもないのに、随分な強気だな」

「分かるさ……。テメェの持ってる剣のことなら、な!!」


 言い終えた瞬間。ジンはフッと姿を消したかのように、レイドに突撃する。

「速い_____!?」

 先程にも増しかのように思えるジンのスピード。

 だが、それは真正面から突撃してくるだけの単調な攻撃。レイドは炎剣を盾にし、重い金属音と共にジンを捉えた。


炎剣(フレアノック)は攻撃する程、防御する程強さを増す! 今度こそ終わりだ、ジン!」

 そう言って、かつてないほどの光を宿した炎剣でジンに斬りかかる。


「でりゃあぁ!」

 _____だが、その一撃は。

 ジンの肩で刃を止めたまま、その威力を殺されていた。

「____!? な_____」

「『攻撃と防御をする程、強くなる』か……」

 ジンはニヤリと笑い、剣を掴んでレイドをグイッと引き寄せる。

「そりゃあ、テメェの剣だけじゃねぇぞ、コラぁぁ!!」

 そうして迫り来るレイドの額に向けて、頭突きの一撃をお見舞いした。

「がっは……!!」

 ダメージを負い、倒れこむレイド。堅固な大岩に突撃したかのように額から血を流すが、それ以上に『疑問』がレイドの脳に浮かんでいた。


「馬鹿な……! 何でお前も『炎剣(フレアノック)』と同じ能力を_____」

 ジンを見上げると同時に、レイドはハッと目を丸くする。

 今までの些細な疑問が、ここにきて大きな真実となって降りてきたかのように。

 あるひとつの『核心』へと、考えを至らせた。



地剣(インヴォルフ)』のように硬い身体_____。

風剣(ウィム)』に似た飛行能力_____。

 そして『炎剣(フレアノック)』と同じ、闘うほどに強さを増していく能力_____。



「____まさかお前……!!」

「やっと気づいたかよ、勇者!!」

 ジンは黒い瘴気を自身に撒き散らし、耳を劈くような笑い声を放つ。

「俺様はなァ、テメェの持つ『伝説の剣』の全ての能力を受け継いでんだよ!!」

 そのまま倒れこむレイドを思い切り蹴り上げるジン。

「ぐぁ……っ!!」

 レイドは後方へ吹き飛び、ごろごろと転がって石柱にもたれかかる。

「ハハハァ、もう虫の息かァ!? 勇者ァ!」

 勝利を確信するかのように、ジンはトドメを刺すためにレイドに一歩ずつ近寄る。

「安心しな……! すぐに楽にしてやっからよォ……!」


 闘いの最中で強くなる、恐るべきジンの能力。レイドはもたれた柱を利用して立ち上がった。

「くそ……。敵にするとこんなに厄介だとはな、『伝説の剣』……」

 額の血を拭いながら、しかし彼は微塵も諦めてはいない。

 気を落ち着かせ、冷静に勝利の糸口を探していく。

「『炎剣(フレア)』の性質……『風剣(ウィム)』のスピード、飛行能力……『地剣(ヴォルフ)』の破壊力と防御力……」

 そして、残された最後のひとつ……。レイドは、その『可能性』を導き出した。


「……使うしかないか、『あの技』を……!!」

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