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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【三界戦争編】
73/122

68. 天界、襲来⑥

______________


 上空に現れし巨大な球体、『隕石』。

 アドネーにより放たれたその魔法は、ゆっくり、確実に、直下の王都へと降り立とうとしている。


 王都全域が完全にそれに呑み込まれるまで、目測にして残り5分を切った頃だった。


 ミサイルの如きスピードで空を翔け上がり、恐れなく球体へと向かって行く一人の青年。


 今、王都の未来は、この一人の青年_____勇者レイドに託されていた。



「うおおおおお!!」

 風剣ウィムの飛行能力により、瞬く間に球体の眼前へと対峙するレイド。しかし、その勢いは球体の手前50メートル程で打ち止められる。

「おおおおお_____って、()っつ!!」

 レイドの進撃を阻むかのように、球体はその『熱』を持って迎え撃つ。レイドはじわりと汗で滲む額を腕で拭った。

「流石に近くまで来ると……スゲーデカさだな……」

 目の前を覆い尽くすのは、オレンジ寄りの真紅の中にポツポツと黒い斑点を浮かべる、得体の知れない物体。

 改めて彼は思い知らされる。その威圧感と、コレを一瞬にして創り出した、アドネーの恐ろしさを。

 同時に、彼にとって初めての経験だった。街一つと同じ大きさのものを相手にするという事は。

「せいぜい、超巨大な『オオムカデドラゴン』と闘った時くらいか。アイツは確か……全長50メートルくらいだったかなぁ。それに比べりゃ、球体(こいつ)は何倍だ……? 計るだけで日が暮れちまうぜ」

 昔を思い出しながら、レイドは球体を観察する。そして、確信を得たような笑みを浮かべた。

「……うん、思った通りだ。この手の魔法には必ずカラクリがある。デカくて強大な分、絶対にあるんだよな_____弱点、『(コア)』ってヤツが」

 レイドも、無策でここまで来たわけではない。これまで幾千もの闘いを繰り広げてきた『勇者』なのだ。それ故に、彼は熟知していた。魔法という概念の、その構造を。

「おそらく、丁度ど真ん中辺りか……。近づこうにも熱気がスゲーし、どうしたもんかな……」

 球体の中心部分を覗き込むように、レイドは推測を広げていく。次第に熱気により汗が身体全体を伝い始めるが、そんなものに構ってはいられない。やがて彼は剣を掲げ、啖呵を切った。

「……取り敢えず、やるだけやってみるか! 『風剣』!」

 ありったけの力を込め、剣を振り鎌鼬(かまいたち)を発生させる。

「ぜぇぇぇい!」

 会心の一振り_____。

 周囲に強風を撒き散らしながら放たれたその一撃。だが、それは球体の表面部分に触れた途端、小さな破裂音とともにかき消えてしまう。それを見て、レイドは口元を軽く歪ませた。

「……ちっ! ダメだ、やっぱ届かねぇ。中心の(コア)を狙おうにも、炎の層が分厚くて鎌鼬が消えちまう。もっと威力と鋭さを増した、一点狙いの一撃じゃねーと……」

 こうしている間にも、球体はレイドへと、王都へと迫ってくる。最早、次の策を考えている時間はない。

「こうなったら使うしかねぇか……。『あの技』を……」

 意味深な発言とともに、その左手で『シーカー』を開こうとするレイド。


 しかし、その直後。

 彼は下方から聞こえる声に気付き、手を止めた。


「おい見ろよ、あの上空……!」

 王都の中央に位置する、噴水広場。

 そこに集まりレイドを見上げるのは、王都の民衆たちだった。

「あ……アレは……」

「もしかして……勇者、か……!? あの残酷で、残忍な……」

「そうよ……、勇者だわ! 勇者が帰ってきたのよ!」


 レイドを見て口々にざわつく民衆たち。しかし、彼らのその姿は、レイドを苛立たせる以外に他ならなかった。

「街の住人共……! 何立ち止まってんだ、早く避難しろってんだ……!」

 球体に背を向け、民衆を見下ろすレイド。

 あとものの5分で王都は消えて無くなる。だというのに、何故その足を止めるのだろうか。レイドには理解不能だった。


「あの球体に何をするつもりだ!? も、もしかして……!」

 変わらず動かすその口を塞ごうと、散らせようと、レイドが声を張り上げた時____

「おい、テメーら! とっとと逃げ____」




「勇者! 何やってんだ、早くその球体を破壊しろーー!!」




「…………っ!?」

『それ』は、突然やってきた。



「そうよ! 勇者なんでしょう!? そんな球体くらい、パパッと片付けちゃってよ!」

「その馬鹿げた力をここで使わずに、いつ使うんだよぉ! 今まで迷惑かけてた分、しっかり働けぇ!」

「そうだぁ! 勇者ぁ!」


 3年前から今日この日まで、レイドを忌み嫌い続けてきた王都の人間たち。

 だからこそなのだろう。

 人間離れした力を持つレイドならば、球体を破壊してくれるだろうと。

 この者たちはそれを信じ、その足を止めているのだ。

 それがどれだけ、都合の良いことなのかも考えずに_____。


 彼らの声は、決して『応援』などではない。


「勇者!」

「ゆうしゃ!」

「勇者様!」

「勇者ー!」


『命令』、なのだ。

 これといった証拠もなく、レイドを不可解な事件の犯人と決めつけ、勇者としての強さを『罪』とする。その『償い』をして然るべきなのだと。


 レイドの眼に、そんな彼らがどれ程までに醜悪に見えただろうか。


_____なんだ、こいつら……


 さんざっぱら俺を遠ざけておいて、今更何言ってやがる……!?_____



 人間たちを見下ろすレイドの眼は、次第に光を失っていく。



 救うつもりでいた。

 少なくとも、彼らの、その言葉を耳にするまでは。




「勇者!」


「早くしろ!」


「俺たちを救え!」


「早く!」



 最早、別の何かを見るように。



 黒く。



 塗りつぶされていく。



 泉の水が濁るように。


 少しずつ溜まっていった『感情』が、ここに来て爆発的に彼の思考を侵食する。



 その時……レイドは思ってしまった。




 こんな奴らを……


_________こんな奴らを…………


 こンな、奴らヲ________……?





________コンナ奴ラヲ、救ウ必要ガアルノカ?________



 人間に対する圧倒的な失意_____。刹那、黒く染まった彼の心に激痛が走った。


「うぐ……!?」


 心の内側で何かが弾けるように、レイドの全身に脈を打つ。


「うが、ああ、あ……」


 呻き声を上げながら、レイドは両手で顔を覆う。



 レイドの心に蓄積されていった『負の感情』。

 それが今、形となって現れる。


 黒い瘴気にその身を包まれ、やがて全身が飲み込まれてしまう。


 しかし、そんな感情に対しレイドは抵抗する気もなく。

 諦めていた。

 受け入れていた。

 考えなければ、楽になると。

 そう思っていた_____。



__________『その声』を聴くまでは。



「ゆうしゃーーーーー!!」



「べ……ゼ……ル……?」



 王都崩壊まであと3分。


 苦しみにもがく勇者の前に。

 狼に乗って、魔王が現れた。

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