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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【三界戦争編】
70/122

65. 天界、襲来③

_______________


「くそっ……! こう街ん中が人で溢れてちゃ、ベゼルたちを探すのなんて至難の業だぜ……!」


 ベゼルとウル太郎が王宮に着いたその頃。

 そんな事など露知らず、レイドは人混みをかき分けるように、ただ前方を目指して進んで行っていた。

 彼らが近くにいると思い込んでいるレイドは埒が明かないと判断したのか、近くの中年の男の肩を掴み、尋ねた。

「おい、あんた! ベゼル……黒い髪の子供と、そいつに付き添うメイドたちを見てねぇか!?」

「はぁ!? なんだお前!? 今そんな話してる場合じゃ……」

 中年の男がそう言って、レイドの顔を見た瞬間だった。

「って、ひぃぃ!! お前、勇者……!?」

 化物を見るかのような怯えた表情で、男はレイドから後ずさる。

「…………あ?」

 男の予想外の反応に、レイドは足を止めた。男はそのまま、声を大にして周囲に呼びかける。

「う、うわぁぁ! 勇者だっ! 勇者が現れたぞぉ!」


 そう。

 人間界では『勇者』は怯えられ、蔑まれる存在。

 しばらくの間魔界に身を置いていたレイドは、ベゼルを探すことに躍起になっていたことも相まって、そのことを忘れていたのだ。


 そして、『勇者がいる』という情報は瞬く間に周囲へと染っていく。


「なんだって……!? 得体の知れない赤い球体だけじゃなくて、勇者まで……!」

「ずっと荒野に身を置いてるはずじゃなかったのかよぉ!」

「いやだーーっ! 殺さないでくれーー!」


 右から左から飛んでくる、レイドへの侮蔑の声。だがしかし、それらにいちいち耳を傾けている暇などない。今レイドにとって必要な情報は、『ベゼルたちが何処にいるか、無事なのか』という事のみだった。

「____なんでもいいが、誰かベゼルたちを……」

 塞ぎたくなる耳を、滲み出る怒りを身体の内へと鎮め、そう尋ねようとしたその時だった。


「そ、そうだよ! 『不可解な事件』! アレを起こしてるのも勇者なんだろ!? だとしたら、あの球体もお前の仕業なんだな!?」


 誰かが放ったその言葉を皮切りに、群衆は初めて、面と向かって牙を剥く。

「なんだと……!?」



 人間とは弱い生き物だ。

 だからこそ、群れをなして力を合わせようとする。それは素晴らしいことだ。

 1人では出来っこないことでも、団結すれば道は切り開ける。

 その先にあるものが、『正しくないもの』なのだとしても_____。



「間違いねぇ! お前が犯人だ、勇者!」

「そうよ! こんなこと出来るの、アンタ以外にいないわ!」

「こんなことして何が楽しいんだよ、バカヤロー!」



 心無い罵声が、次々とレイドにあてられる。

「こいつら……!」

 レイドは握り拳を固めるが、この状況で身の潔白を証明するものなど何もない。アドネーという『神』の仕業だ、と言ったとしても信じてもらえるはずもない。


「おい、みんな! コイツをとっちめて、この騒ぎを止めるぞ! 全員でかかれば何とかなるはずだ!」

「おう!」

「観念しろ、勇者!」

 群衆は『レイドを捕まえればこの騒ぎは収束する』と思い込んでいる。

 かつて勇者レイドが成し遂げた功績など忘れ、目の前にいる『悪人』を捕らえようと、一歩、また一歩とにじり寄ってくる。


 レイドの心の奥深くで、『何か』がこみ上げてくる。それは黒く、決して良いものではない『何か』。


「______くそっ!」

 レイドはたまらず、自身の後ろに続く小さな路地裏へと逃げ出した。

「あ、逃げたぞ!」

「追えーっ! 逃がすなー!」

 群衆も何かに取り憑かれたかのようにレイドを追うが、ただの一般人がレイドについていけるはずがない。気付けば、レイドの姿は瞬く間に見えなくなっていた。




「ちくしょう、アイツら……! 何が『俺の仕業』だ……っ!! 何でもかんでも俺のせいにしやがって……」

 群衆からひたすら逃げてきたレイドは、ひとり路地裏を進んでいく。

 見れば、さっきまで騒ぎで溢れかえっていた表通りが嘘かと思える程の、静けさが広がる薄暗い一本道。


 だが、それが心地良い。

 息を切らせて俯く彼を、沈黙は優しく受け止める。

 知らず知らずの内に、憔悴(しょうすい)していった彼の心。『止まってしまえばいい』と、何度思ったことだろうか。

 しかしそれでも、彼は歩みを止めない。

 その足を動かすものは、紛れも無い、彼らの存在_____。


「……ベゼル。リリ。ウル太郎。エリス……。待ってろ、今行くからな……」


 声を絞り出しながら、曲がり角を曲がった時。

 彼の顔は、反対側から来た『何か柔らかいもの』に当たった。


「っ!」

 反射的に顔を上げるレイド。そして、その眼前には_____見馴れた、懐かしい顔があった。

「レ……レイド? どうして貴方、こんなところに……」

「お前……ロゼ!? それにアルマも……」

 そう。そこにいたのはレイドのかつての仲間、ロゼ。

 いや、それだけではない。


「あっ! レイドさん!」

「勇者!」

 ロゼと共に行動を共にしていたのは、探していたリリとエリス。偶然とはいえ、奇跡的な再会だ。

「リリ、エリス! 何でお前たち、ロゼたちと一緒にいるんだ!?」

 レイドに浮かぶ当然の疑問。しかし、疑問といえばリリたちにもある訳で。

「先ほど、たまたまお会いしまして……。それよりもレイドさん! ベル様はご一緒じゃないんですか!?」

「そうだ、ベゼル! あいつはどこにいるんだ!?」

 会話のキャッチボールが成立せず、どうにも2人の話がかみ合わない。もしや、と思いエリスはレイドに告げた。

「ベル様はウル太郎と一緒にアナタを探しに行ったのよ!」

 それを聞いたレイドは一歩後ずさり、仰天した。

「な……!」

「まさか……ベル様に会ってないんですか?」

 リリは口元に手を当て、レイドに問い詰める。

「ああ……俺はてっきり、お前たちと一緒にいるもんかと……」

 レイドは半ば自分を見失ったかのように、来た道を振り返った。

「こうしちゃいられねぇ……。早く王宮に戻らねぇと!」

 それを見て、リリも慌ててレイドの肩を掴む。

「だ、ダメですよ! また入れ違いになったりしたらどうするんですか!」

「けどよ……!」


 迫り来る赤い球体。恐らく、残された時間は少ない。だが、どうすればいいのか。

 レイドたちに表情に焦りが見えた時、彼女は言い放った。


「落ち着いてください、ふたりとも」


 2人をなだめるように声を発したのはロゼ。


「ロゼ……」

「ロゼさん」

 レイドとリリ、エリスも、ロゼの方を見やる。

 事情を知らないロゼではあるが、レイドたちの深刻な様子にどこか他人事ではいられなくなったのだろう。

「詳しくは知りませんが、貴方たちのお知り合いの方が王宮にいる、という事ですね?」

「ええ……。恐らくは、もう王宮に着いた頃かと……」

 リリは俯き、両手の指を交差させて答える。ロゼはそれを聞き、話を続けた。

「ならば、ここで話していても埒があきません。その方の身を案ずるならば、まず何をすれば良いか考えましょう?」

 そこでニコッと何かを示唆するように、ロゼはレイドに視線を向ける。

 それを見たレイドは少し考えた後で、ハッとして声を上げた。

「ベゼルの身を案ずるなら……。!! そうか!」

 そうして空を見上げるレイド。

「レイドさん?」

 リリはどうしたのかという風にレイドに尋ねる。しかしここから続く彼の言葉は、信じられないものであった。

「あの赤い球体……! 『アレ』があるからいけねぇんだ!」

「ま、まさか……」

 レイドの様子に、リリはもしや、と思い頰に汗を垂らす。いや、リリだけではない。エリスもだ。同じく何かを察していた。

 そしてそれに同調するようにレイドも頷き、再び空に浮かぶ赤い球体を見据えて言い放った。


「ぶっ壊すぞ。『アレ』を」

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