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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【人間界と魔界編】
64/122

60. 『創造神アドネー』

 人気(ひとけ)の無い王宮。

 暗がりなこの王室に差し込む光は、僅かなものでしかない。

 ヒビ割れた柱と、闘いの跡。

 昨日までの賑わいが嘘のように、少しずつ彼らに、人間界に『絶望』を撒き散らせる。

 もう遅い。誰一人、後には戻れない。

 時間は、全ては、止まることなく進み続ける。

 これから起こる最悪の事態と、最後の結末を示すために_____。



「アドネー……? 大魔王、アンタこいつの事知ってんのか?」

 レイドは、国王と向かい合うサルタンを見やる。

 サルタンと国王……いや、国王を乗っ取った謎の人物。

 どうやらこの2人、顔見知りのようだ。

「ふはは。ほんの少し、こやつとは因縁があってのう」

 サルタンはそう言って笑う。だが、その顔に浮かべた笑みは一瞬で消え去り、次の瞬間にはキッとアドネーと呼ばれた国王を見据えていた。

 それに対しアドネーは、昔を懐かしむかのように微笑を浮かべる。

『……へえ。いつの間にか『大魔王』になったんだね」

 サルタンは顎髭を撫でるように触り、言葉を返した。

「肩書きなんぞ、あってないようなもんじゃわい」

 サラッと言いのけるサルタンだが、それは本当だろうか。

「(嘘付け……! 俺が間違えて呼んだ時、めっちゃ怒ったじゃねーか……!)」

 少なくともレイドは1人、そんなことを思っていたようである。



『ああ、そうそう。それで、私たちの関係の話だったかな」

 ここでアドネーはレイドたちの存在を忘れていたかのように思い出し、首筋に手を添える。


『端的に言うと、私はこの男が大嫌いだ」

 たった今までヘラヘラしていたアドネーだが、その一言と共にサルタンを鋭く睨み、氷のような冷たい表情に変わる。


『今も、その顔を苦痛に歪めたくて仕方がない……」

「ふん……。変わらんのう、貴様は。1000年前から」

 サルタンは侮蔑するように、アドネーにそう吐き捨てた。

「1000年前……?」

 その言葉を聞いてレイドに微かな疑念が宿る。

 しかし、それも当然の事だ。1000年前といえば、魔界が人間界を襲った時と同じ。なんらかの関係性があったとしてもおかしくはない。いや、あるいは……。


『1000年……。もうそんなに経ったのか。君の方は、随分と変わったみたいだね」

「……貴様の思い通りにはさせんぞ。今回もな」

『ふふ、やはり聞いたんだね……『フィア』から」

「これで最後じゃ……。今回で、貴様の全てを葬り去ってくれる……。それとじゃ____」

 サルタンが言葉を不自然に区切った時だった。

 部屋全体が徐々に揺れ、ピシピシと壁が軋み出すのだ。だが、これは地震ではない。揺れの中心にいるのは、サルタン_____

「____フィアの名を、貴様が軽々しく口にするでないわ……!!」

 その口調はまるで鬼のよう。怒気を激しく含みながら、それに当てられて周囲が震えていたのだ。

『ふふふふ……」

 サルタンとアドネー。

 1000年来の因縁。

 今の会話からは詳しい事情までは分からないが、それがただならぬものであるという事だけは、レイドには理解できた。



『……さて。というわけで勇者……レイド。まずは軽く、私について教えてあげようか」

 アドネーは意味深に笑ったかと思うと、視線をサルタンからレイドに向けた。

 そしてここより先、彼は語る。

 自分という存在を、当たり前のように_____。



『私の名はアドネー。この世界を創造した……いわば、『神』だ」


「…………? は……?」

 聞き逃したわけではない。

 ただ、信じられなかったのだ。

 レイドにも、アルフにもハイガーにも、今放たれたその一言が。

『この世界も、大地も海も、動物も魔物も人間も悪魔も、全て私が『創り出した』ものに他ならない」

 アドネーは続ける。

『勿論今の私のこの姿は、本当の姿じゃあない。本当の私はここより遥か天空____『天界』に身を置いている」

 当たり前のことを語るように。

『とある理由により、ここ1000年間、世界に大きな干渉はしなかったが_____それももう必要ない。これからは、また私が世界を『創造』していくつもりだよ」



「_______っ…………」

 さらりと言い終えたアドネー。だが、レイドたちは無反応だ。そして、言葉を失い呆然と立ち尽くすレイドに、アドネーは問いかける。

『……と、まあ。以上だが____何か質問はあるかな?」

 どうぞ、というように掌を表にしてレイドに向けるアドネー。しかしレイドの返答がないまま3秒ほど待った時、彼はため息をついて声のトーンを落とした。


『……ふう。やれやれ、ないなら____もう、壊すけど、いい?」


「…………っ!! _____……!」


 その瞬間、張り詰めた緊張の糸がぷつりと切れる。

 今まで体感したことのないアドネーの不気味な威圧に、レイドは戦慄していた。


 当たり前だ。


 信じがたいとはいえ、心の何処かで理解しているのだ。


 その実力と、絶対の自信から。


 アドネーが、『神』であるという事実を_____。


 目をそらす事も出来ないまま、その重圧に押しつぶされそうになった時。

 まさに、戦意を失いかけていたその時だった。



「勇者よ、気をしっかり持つんじゃ。怯えるでない」

 渋く、威厳のある声が耳の中に入る。

 黒い意識の淵からレイドに呼びかけた声の主は、大魔王サルタンだ。

 本当は勇者であるレイドにとって、敵である筈のサルタン。

 しかし何故か、レイドの心は徐々に落ち着きを取り戻していく。

 これが安心なのか、はたまた虚栄なのか。

 いずれにせよどうであれ、レイドはサルタンによって現実へと帰ってきたのである。


「大魔王……」

「ふはは、どうした勇者。主とあろう者がこんな所で逃げ出すつもりかのう?」

「____なっ……! う、うるせぇな! んなわけねぇだろ!」

「ならば闘うか? 相手は世界を創り出した神じゃぞ」

「たりめーだ! 神とか知るか、そんなモン! ボコボコにぶっ叩いて、知ってる事全部吐かせてやる!」

「うむ、その意気じゃ。その意気ついでに_____」

 そこでサルタンはチラリと遠くにいるアルフとハイガーを見やる。

「あそこにいる2人にも闘うよう伝えてくれ。それまでは儂が持ち堪える。確かに奴は強敵じゃが……なあに、全員でかかればなんとかなるじゃろう」

 先程アドネーに吹き飛ばされたハイガーと、ハイガーに駆け寄っていたアルフ。彼らもまた、アドネーの威圧に呑み込まれていた。


 レイドはほんの一瞬、考えていた。

 自分がアルフたちの元へ行っている間に、サルタンが倒されてしまわないかどうかを。

 もしそうなってしまえば、この状況を打開することはほぼ不可能だろう。

 だがしかし、サルタンに加勢した場合、隙を突かれてアルフたちが狙われるとも分からない。


 レイドは迷った挙句に____後者を選択した。


「すまねぇ……任せた」

「ふはは。任せろ」

 サルタンとは正反対を向き、アルフたちの元へレイドは走って行く。

 が、当然アドネーはこれを良しとしない。

『どこ行くつもりだ? レイド_____」

 床から少し身体を浮かせ、超低空飛行をしながらロケットのように迫り来るアドネー。

 その標的はレイド。真正面に待ち構えるサルタンに目もくれず、通り過ぎようとしたその時_____。

「貴様の相手は儂じゃ」

 サルタンはドンピシャでアドネーの左頬に自慢のぶん殴りを披露。

『ごふっ……!!」

 猛烈な一撃を受けたアドネーはそのまま直角に軌道を変えながら、王室の端まで……いや、壁をぶち抜いて城外へと吹っ飛ばされる。

 壁に空いた穴からからは光が差し込み、薄暗い王室内が図らずも少し明るくなった模様。


「言っておくが、人間の身体とて手加減はせんぞ。アドネー」

 サルタンは指をゴキゴキと鳴らし、アドネーを見据える。いつの間にか、その手につけた手錠は外れていた。

『……大魔王……!!」

 城外へ追い出されたアドネーは、右腕で口の血をぬぐいながら空中で静止した。



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