表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【勇者探索編】
6/122

5. プロローグ②

_____ここは人間界。人間界である。

 3年前に魔王が勇者によって倒され、平和が訪れた世界。明るく晴れた空を青い鳥が羽ばたき、豊かな土地と共に人々が暮らす、笑顔の絶えない世界。それが人間界。


 なーんて、思っているのではないだろうか。

 ……まぁ、だいたいその通りである。今日も人間は、いつもと変わらぬ平和な日々を過ごしていた。



 人間界一栄えた国『プロスパレス』。10000坪は超えるだろう大きな城を中心に携えた、毎日が祭りのように賑わう大国。今日も国を挙げての武闘大会が開催され、その賑わいはとどまる事を知らない。

 その国を北に通り越し、2日程歩くと自然豊かな森『セトルの森』がある。木々の隙間から帯状に差し込む光と小鳥のさえずり、葉と葉が(かす)れ合う心地よい音が重なって、ひとつのBGMとなるかのように聴く者の心を落ち着かせる。この森に住む者は、生涯最後のその日まで、穏やかな心を忘れる事はないだろう。

 その森に建てられた一軒家がある。そこを横目に通り森を抜けると、一転して今度は荒れた土地が顔を出す。人の出入りなど滅多にない、一面の荒野。そこにはポツンと、手作り感満載の、木製のオンボロ家が建っていた。その家の持ち主こそが、『彼』であった。



「ひぃぃ……!! 何でこんな所に魔物が……!!」

 荒野を、2つの騒がしい足音が通りがかる。どうやら旅の行商人が、イノシシの魔物に襲われているようだ。逃げ回る足と追いかける足の距離が次第に近づいて行く。

「嫌だ…! こんな所で死にたくない…!」

 背中に背負っている大きな荷物を捨てて行けば、恐らくその行商人は助かるだろう。しかし彼はそれをしなかった。荷物の中にある金品や食べ物を、決して手放したくはなかったのだ。

 やがてイノシシの魔物が行商人の真後ろにつき、勢いよく飛び上がった。

「う、うわあああああ!!」

 行商人が叫んだ瞬間……。イノシシは突然、横からきた何かに吹き飛ばされ、一撃で気絶した。

「え!?」

 行商人は驚いて足を止めた。振り向くと、そこには1人の男が立っていた。

「…………」

 無言で立ち尽くす命の恩人に近づき、行商人はお礼を言う。

「あ、あんた。誰かは知らんがありがとう。おかげで助かったよ」

 行商人からは逆光でよく見えないが、その男は背丈が高く、眉毛まで隠れるほどのややパーマ気味のボサボサした髪型をしていた。武器も何も持っていない所を見ると、先程のイノシシは拳で殴って吹き飛ばしたのだろう。それが出来るという事からして、かなりの手練れのようだ。

「そうだ、お礼に何が欲しい? 金でも食べ物でも、何でもあるぞ」

 行商人がお礼に何か差し出そうとした所に、太陽が雲で隠れた。逆光が隠していた男の顔を見た途端、行商人は顔色を蒼白に変え、息を荒げ始めた。

「あ…、あんた……、ゆ、勇……」

 イノシシの魔物よりもはるかに強い恐怖の感情に行商人は包まれ、おぼつかない足を必死に動かした。

「ひゃああああああああ!!!」

 大切な荷物も放り出し、行商人は一目散に逃げて行った。

「………ふん」

 行商人が置いていった荷物を暫く見つめた後、視線を空に向ける。

「………勇者、か…」

 男はイノシシと荷物を担ぐと、すぐそばに見えるオンボロ家へと帰って行った。



______3年前に魔王は死んだ。

 人間界の人々は、かつてその男の成し遂げた功績を称え、こう呼んだ____。

 そう、『勇者』と………。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ