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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【大魔王復活編】
40/122

36. マーシュ登場

気付いたら120000文字突破してた。随分書いたなぁ……。


さて、今回では4.5話の番外編に出たマーシュくんが再登場です。

忘れた方も読んでいない方も、宜しければ是非そちらと併せてどうぞ。

 大魔王サルタン復活の騒動から1ヶ月_____。

 子供のベゼルの代わりにサルタンが再び魔界を統治し、ここ3年間で溜まっていた様々な問題が綺麗に解決していっていた。


「サル様! 西のパプリカ村の井戸の水が枯れ、住民が困っているそうです!」

「なに、まことか! ようし、ワシが新たな水脈を掘り起こそう! 2時間もあれば足りるじゃろう!」

「サル様大変です! 長い間眠りについていた『オーロラドラゴン』が目覚めました! このままでは近隣の村に被害が……!」

「ふはは、ヤツなら30年ほど前にワシが手懐(てなず)けた! もう悪事は働かぬ筈じゃ!」

 魔界中に起きる問題を全て自らでなんとかするサルタン。その姿はまさに、国をまとめる「王」に相応しい。

「サル様ァー! ジョンの奴が……恋人のアンナにプロポーズしてフラれましたぁ!」

「なっ、なんじゃとぉぉぉ! ならば今宵は……ヤケ酒祭りじゃあ! ジョン1人に寂しい思いはさせぬぞぉー!」

「おおおおおおおお!!」

_______________


「……いや、そこはそっとしといてやれよ……。てか誰だジョンって」

 玉座の間から聞こえる(とき)の声に、一人冷静にツッコミを入れるレイド。彼は今、食堂でお茶をしていた。

 彼の今のマイブームは、コレだ。『地獄煮込みエスプレッソ』。ほのかな苦みが特徴の、魔界特有のコーヒー。インスタントだ。

「このほのかな苦みが特徴的だ。クセになるな、インスタントにしては上出来だ」

 地の文そのままの感想を放つあたり彼のコーヒーに対するにわか臭が半端ないが、それは察してほしいところ。彼なりに平和なひとときを満喫しているのだ。


「ゆうしゃー! なにしてるのー!?」

 しかしこの声が聞こえてくれば、レイドのコーヒーブレイクタイムも終了である。

「せっかくいい天気だし、あそぼ! 勇者!」

 今日もベゼルは元気いっぱいだ。

「……あのな、ベゼル。俺は今、優雅なティータイムを……」

 ふと、レイドは言葉を止める。

 陽気なベゼルの隣に、見知らぬ少年がいるからだ。

「やあ勇者、はじめまして。」

 少し大きめな三角帽子に黒マント。中性的な顔立ちと声でレイドに面と向かうその姿は、実に凛としている。

「お、おう。えーとベゼル、こいつは……?」

「魔法使いのマーシュだよ! マーシュも勇者と『勇者ごっこ』で遊びたいんだって!」

 そう言ってベゼルはマーシュを見上げる。だがしかしマーシュは帽子のツバを触りながら異論を唱えた。

「違うってば魔王様。僕は只、勇者がどんな奴なのか前から知りたかっただけさ。別に遊びたいわけじゃない。」

 人間の年齢的に見ればこのマーシュ、だいたい14〜15歳くらいだろうか。言うなれば、反抗期真っ只中のかっこつけたがりである。

「それに僕はもう『ごっこ遊び』なんてトシじゃないからね。そんな事したら、『エリート魔法使い』のこの僕の名にキズがついちゃうし。」

「エリート……て事は、魔界でもちょっとした有名人なわけか?」

 レイドのふとした疑問に、マーシュは微笑して答える。

「まあそれなりにね。一応、魔法学校では常に成績トップだし。魔法の腕もこの辺りで僕に勝てる同年代の子はいないんじゃないかなあ。」

 自慢話が始まったかと思うと、マーシュは帽子のツバをつまみながらレイドに一歩詰め寄る。

「ところで勇者。君、人間だよね? 年齢いくつ?」

 唐突な『君』呼ばわりにレイドは若干違和感を覚えながらも、

「年齢……? 22だが、それがどうかしたのか?」

 そう返すレイドに対し、今度は鼻で軽く笑う。

「あ、そう。僕は1457歳だよ。人間年齢で換算するなら確かにまだ子供だけど、それでも君より何十倍も生きてるんだ。僕はたとえ魔王様が相手でも年下には敬語を使わないから、そのあたりよろしくね。」


 マーシュの言い分も分からなくはないことである。ただ、惜しむらくは彼に『相手によって言葉を選ぶべきだ』という教訓が無かったことだろう。

「ていうか、勇者。むしろ君の方が僕に敬語を_____」

「てめコノヤロ、ガキがさっきからくだらねー理屈ペラペラ並べてんじゃねー!」

 突然マーシュを襲うコメカミぐりぐり攻撃_____。

「うっぎゃああああ!!」

 マーシュの上から目線の言い方が、血の気の多いレイドに耐えられるわけもなく……。

「ゆ、ゆうしゃー! マーシュが痛いよ、やめてよー!」

 見かねたベゼルの制止がなければ彼に軽いトラウマを焼きつけていた事だろう。


「いたたた……! な、なんて野蛮な人間だ! 本当に勇者かお前!?」

「生意気なガキには容赦しねーんだよ、人間はな」

 それは大変な誤解だが、マーシュもやられっぱなしではいられない性質(たち)

「あぁそうなのか。だったらこっちも容赦しないよ!」

 マントに忍ばせていた白い杖を取り出し、構える。

「お、やる気みたいだな。悪いが手加減しないぜ」

「ふん。そっちこそ、泣きベソかいても知らないからね。」

 一触即発な雰囲気の2人。ベゼルがそんな2人を交互に見渡すが、

「お〜〜、かっこいい……! これが『けっとう』かぁ……!」

 どうやら心配する気はなく、ベゼルもノリノリのようだ。


 だがしかしここは食堂。幸い今は飯時ではない為ほとんど席はガラ空きなものの、ここでケンカをしようものなら必ず誰かが止めに入る。


「お前みたいなガキ、素手で十分だぜ!」

「なにを! なら受けてみろよ、この幻術魔法_____」


「ちょ、ちょっと何してるんですか2人とも!」


 止めに入った人物_____。それは言わずもがな、ベゼルの世話役、メイドのリリだった。

「こんな所でケンカはやめてください! 散らかったりしたらどうするんですか!」

「り、りりりリリさん!?」

 リリを見た途端、異常なまでの反応を見せるマーシュ。

「こら、マーシュくん! ケンカ目的で魔法を使っちゃダメですよ!」

 リリの言葉に、マーシュは手と首をブンブン振って否定の意思を見せる。

「い、いやああああの、ケンカとかじゃなくてあのその……!」

 その様子に当然ながらレイドは疑問を感じる。

 先ほどの生意気さとはまるで別人のようなマーシュ。呂律が回っておらず、リリの顔を真っ直ぐ見ることなくやや視線をそらしながら話している。そして何より……マーシュの顔は真っ赤だった。


「おや、これは……」

 自分の顎に触りながらニヤニヤするレイド。

「レイドさんも何笑ってるんですか? マーシュくんみたいなおとなしい子相手に……」

 リリがマーシュ越しにレイドに怒る。一転して大人しくなったマーシュを見て、レイドはこの場を平和的に解決する方法を思いつく。

「いや違うって。さっきのはケンカしようとしてたんじゃない。ただ単にコイツの魔法を見せてもらおうと思ってな。な? マーシュ」

 そう言ってマーシュの肩に手を回し、あたかも仲良しであるように見せつけるレイド。

「おい、何してるんだ気持ちわるい。離せよ」

 リリに聞こえないように耳うちするマーシュ。するとレイドも同じように言葉を返した。

「まァ聞け。これでリリも、俺たちがケンカしてたなんて思わなくなる」

「それがどうした」

「逆にここでいいとこみせれば、リリの好感度もグッとアップだぜ?」

「な、何が言いたい?」

 うすらと冷や汗を垂らすマーシュ。レイドはニヤっと笑みを浮かべる。

「好きなんだろ? リリのことが」

「ばっ……!」

 喉まで出かかった声を殺し、小さく修正してからマーシュは発言する。

「ばかか、そんなわけないだろ何言ってるんだお前は」

「ほほう。さっきとは随分落ち着きがなくなったなあ?」

「……!!」

「別に好きじゃないなら続けようぜ? ケンカ。リリには嫌われちゃうけどなあ」

「〜〜〜〜っっ!!」

 マーシュはなんともいえぬ表情をし、俯く。レイドに反抗する言葉すら見つからないようだ。


「あの、さっきから何2人でぽそぽそ話してるんですか?」

 リリが怪訝そうな顔をし、レイドたちを見る。彼女はその間ベゼルと遊んでいたようだ。

「いやいやなんでも。なあベゼル、お前も見たいよな? マーシュのカッコいい魔法」

 レイドがマーシュの肩に回していた手を離し、ベゼルにそう告げる。

「マーシュの魔法! みたい、みたい!」

 ベゼルは嬉しそうに両手を上にあげ、リリを見上げる。

「あのねリリ、こないだマーシュとあそんだとき、たっくさん魔法をみせてくれたんだよ! すごくおもしろかったんだぁ〜」

「まあ、そうなのですか。マーシュくんが……」

 リリが感心してマーシュを見やる。

_____ナイス、魔王様!!_____思わぬ所でリリの好感度が上がり、マーシュは隠れてガッツポーズをした。

 するとレイドが肘を小突いてマーシュに促し、またもや内緒話が始まる。


「な、なんだよ勇者」

「なんだよじゃねーよ、ここでお前が誘うんだよ。『リリさんも良かったら見ていきますかー』って」

「なっ! なんで僕が! そんなこと言えるわけないだろう!」

「バカこういうのはな、他人(ひと)任せじゃ駄目なんだよ。ほら、勇気出して言ってみろ」

「…………う……」


 ここで作戦会議_____もとい内緒話終了。

 いつの間にかこの2人の間にあった溝も、少しばかり埋まったようだ。

 そしてマーシュは勇気を出し、顔を赤らめながらリリに言った。

「…………り、リリさんも良かったら、見ていきますか……?」

 帽子のツバで目を隠しながら言うその姿は、こう言うのも何だが、中性的なその顔立ちから非常に可愛らしい。

 対するリリの返事は_____

「そうですね、折角ですから是非(ぜひ)_____」

 ぱっと顔を上げるマーシュの顔に浮き上がる、幸せそうな表情。ついに憧れのリリに自慢の魔法を見せることが_____



「_____見ていきたいのはやまやまなのですが、すみません。これから用事がありますので、失礼します」



「・・・・・・!!」



 一転して、マーシュの残念そうな顔。目を丸くし、空いた口が塞がらない状態だ。

 だがしかし、こればっかりは仕方がない。用事があるわけなのだから。そう、仕方がないのだ。



「では、失礼しますね」

 そのまま背を向けて過ぎ去っていくリリ。

 レイドはマーシュの肩をポンと叩き、賞賛の言葉を贈る。

「ま、こういう時もあるさ。気を落とすな、お前の勇気は俺に伝わったぜ、マーシュ」

 マーシュにとっても、もうこの場所にいる意味などないと思われたが……。

「あ、そうだ、マーシュくん!」

 突然振り向いてマーシュの名を呼ぶリリ。

「え!? あ、ふぁ、はいっ!」

 それに慌てて、リリのいる方向へとマーシュは向き直る。

 そしてリリが言葉を続けた。

「またベル様と遊んで下さいね! 『勇者ごっこ』、楽しいですよ!」


 その言葉を聞いて、だんだんとマーシュの瞳に光が戻ってくる。

「……は、はい! 喜んで!」

 マーシュの返事にリリはニコリと笑い、手を振ってからまた背を向けて歩き出すのだった。




「勇者ごっこ……。」

 リリの姿が見えなくなった後で、マーシュはポツリと呟く。

「は?」

 レイドとベゼルもキョトンとするが、マーシュは突然テンションを上げて2人に言った。

「なにボーッとしてんの、やるんでしょ!? 勇者ごっこ! 一足先に外に行ってるから、早く来てよね!」

 そのままマーシュは「勇者サイコー!」とか何とか言いながら、外まで走って行くのだった。


「……わかりやす、アイツ」

 そしてレイドもまた、小さくそう呟いた。

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