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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【勇者探索編】
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3. それは勇者な誕生日①

ベゼルたち悪魔の寿命はだいたい10000年くらいです。


明日面接なのに、何で小説書いてんだ俺…。

 窓から差し込む柔らかな光が、一日の始まりを告げる。

 ここは魔王城。いつものようにベゼルは、元気いっぱいの声と共に城中を駆け巡った。

「リリー! リリー!」

「はーい、なんですか? ベル様」

 ベゼルが来るのを読んでいたのか、リリがひょこっと食堂から顔を出す。右手に持ったおたまを軽く上げながら、メイド服にエプロン、三角巾を着けている。その姿から察するに、どうやら朝食の準備をしているようだ。

「もう少しで朝ごはんできますから、待ってて下さいねー」

「ねぇリリ、来週は何の日か知ってる?」

 厨房に引っ込もうとするリリの服の裾を、ベゼルはグイグイと引っ張る。嫌な予感がするリリを、ベゼルはキラキラした目で見上げていた。

「さ……さぁー? 何の日でしたっけー?」

 何も知らない風にとぼけながら、リリはベゼルと顔を合わせようとしない。なぜならその「来週」には、リリにとって良くない事があるからだ。

「えー? ほんとに忘れちゃったの?」

「そ、そうですねー」

 吹けていない口笛を吹きながらとぼけるリリの前に回り込み、ベゼルは得意げにニヤつく。そして、その口から悪魔の様な言葉が放たれるのだ。

「来週はねー……僕の誕生日があるんだよ!」

 その途端、リリの心臓の鼓動が早まる。流れ出そうな汗を根性で抑え、必死に平常心を保った。

 そう。来週…正確には8日後、暦では5月19日にあたる祝日『魔界記念日』は、ベゼルの912歳の誕生日。この日は毎年、ベゼルを祝うべく、城でパーティーを行うのだ。

 しかし、それ自体はリリにとっては大変喜ばしい事である。子供のベゼルが日に日に成長していくのは、みていてほほ笑ましい。問題はその先。誕生日といったら必ずついてくる、アレだ。

「楽しみだなー。早く誕生日プレゼントが欲しいなー、ふふふ」

 誕生日プレゼント……!! それが、リリの毎年1番の苦悩なのである。もはや走馬灯の様にリリは思い出す。3年前から続く、あの苦悩を……!



〜〜〜3年前〜〜〜

「ベル様、今年は誕生日プレゼント何が欲しいですか?」

「うんとね、勇者の剣!」

「ゆ、勇者の剣ですか?」

「うん! パパを倒した勇者の剣が欲しいな!」

「え、ええ〜〜〜……?」



〜〜〜2年前〜〜〜

「ベル様、お誕生日おめでとうございます! プレゼントのびっくり箱ですよ。どうぞ、開けてみて下さい!」

「違うよ、僕が欲しいのはこれじゃない!」

「え……じゃあ、何が欲しいんですか?」

「勇者が活躍するマンガ、『勇者大冒険』が欲しい!」

「マンガ、ですか?」

「うん、1巻から346巻まで全部!」

「え、ええ〜〜〜!?」



〜〜〜1年前〜〜〜

「リリ、はいこれ! 誕生日プレゼント!」

「え……私にですか? 私の誕生日はもっと先ですけど……」

「ううん、僕の誕生日プレゼントだよ! たくさん作ったから、リリにもあげる!」

「? どういうことですか? えーと、『勇者一周旅行券』……?」

「うん、勇者の冒険した場所を冒険しに行くんだよ!」

「え、え〜〜?」

「早く行こ、今から!」

「い、今からって、えーーーっ!?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「どの年も勇者、勇者、勇者! ベル様が欲しいものを世界中探し回ったり冒険したり…! 今年くらいは楽させて下さい!」

 ……とは言えず……。リリは口を結んで、耐える様に上を向いて一粒の涙を流した。

「どうしたの? リリ」

 その一部始終を、ベゼルは不思議そうに見上げていた。

「あぁ、いえ、何でもないですよ」

 リリは咳払いをし、覚悟を決める。自然な作り笑顔で、ベゼルに祝いの言葉を贈った。

「そうでしたね! お誕生日おめでとうございます、ベル様!」

 そして、もはや逃げられないと悟ったリリは、自分から聞いた。心の中で微かな奇跡を祈りながら。

「それで、今年のプレゼントは何が欲しいんですか?」

「うーんとね、勇者……」

 そこでベゼルは言葉を切り、手をもじもじさせて俯く。

 やはり勇者関連ですか……。と、リリの祈りは儚くも砕け散った。しかしここまでくるともうヤケだ。勇者の髪の毛? 靴下? 何でもこい! と言わんばかりに、リリの目は燃えていた。

「ねぇリリ、聞いてた?」

 はっと、我に返る。ベゼルは眉を(ひそ)め、リリを見上げていた。どうやら、いつの間にかベゼルは欲しい物を言っていたようだ。

「あ、すみませんベル様。途中までしか……」

 そして、リリは再度ベゼルに質問する。

「それで、勇者の……何ですか?」

「うん、だから勇者……」

「勇者の……?」

「ううん、勇者。」

「はい?」

 イマイチ理解出来ていないリリ。いや、本当は理解したくないのかもしれない。事実その優しい笑顔からは、とてつもなく嫌な予感を察知したのか、湧き出る様に汗が流れていた。ベゼルは両手を広げ、リリにトドメの言葉を刺す。

「僕ね……、勇者が欲しい!」

 予想だにしない……いや、予想はしていたのだが……その無邪気な注文に、リリは暫く固まった笑顔のまま動かなかった。『勇者』……その単語が巨大な岩の文字となり、リリの頭にゴツンと落ちる。もちろん、そのような感覚に陥っただけだが。

 いずれにせよ、リリは今年も世界中を探し回る。それが逃れられない事実だということは、間違いないだろう。

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