30. ほんのささいな
この章から本編開始みたいな、そんな感じ。
「大魔王……サルタン……!!」
レイドの頬を一筋の汗がつたう。
前方の敵から感じられる気は、ジワリと滲みよるような黒い威圧感。間違いなく、彼がこれまで対峙してきた敵の中で圧倒的な強さを持っているだろうと、その肌で感じていた。が……
「なんか……思ってたよりマヌケな名前だな。サルタン……」
レイドはつい、心の中で密かに思っていた事を口にしてしまう。そしてそれは当然、大魔王の耳にも入る。
「なんだと、貴様……!! このワシの名を『マヌケ』と申すか……!?」
「え? あ、いや……!」
レイドが思わず口に手を当てる。しかしもう遅い。口は災いのもとだ。
「ぬううううん……!! キサマァァァ……!!」
大魔王は椅子から立ち上がり、顔に怒りを混ぜてワナワナと震えだす。
その気に当てられてか、城全体が地震でも来たかのように揺れ始める。城の床や、あちこちに建てられた堅固な柱さえ、一部が破片となってピシピシとこぼれ落ちる。一部の悪魔たちは大騒ぎだ。
「マズイ……!! このままじゃ城が壊れちまう……!!」
レイドも城の崩壊を懸念しだすが、その前に自分の身の危険を感じないあたりが彼の強さを裏付けしているかのように思える。
「ぬうううううん!!」
だがしかし、残念ながらこうなってしまってはもうおしまいだろう。城も魔界も全てがメチャクチャになってしまう。
レイドの一言は、大魔王の逆鱗に触れ_____
「ぬうううう…………んーーー!! そうじゃろう! 我ながらマヌケな名をしておる!!」
_____てはいなかったようだ……。
「…………は?」
レイドも思わずマヌケ面をする。大魔王の返答は、それ程理解しがたいものであった。
「ふははは! まこと、サルのような名でのう! じゃが大魔王! ワシは大魔王じゃ!」
そこにはすでに、レイドが感じた威圧感も怒気も消え去っていた。
そこでレイドはふと思い出す。3年前、大魔王と初めて相見えたときも、こんな雰囲気だったと。
「そうだよ、勇者! 僕のパパは大魔王なんだよー!」
大魔王の肩からひょっこりとベゼルが顔を出す。おもちゃの剣を背中に携え、大魔王の腕をすべり台のようにして降りてきた。
「ベゼル……。お前、いつの間に……」
「えへへ。パパと勇者ごっこをしてたんだよ」
ベゼルは剣をブンブン振り回す。一番初めの大魔王の高笑いは、ベゼルと勇者ごっこをしていたときに出たのだろう。
「そうか、勇者ごっこ……」
ベゼルの楽しそうな姿を見て、レイドは複雑な気持ちになる。
大魔王はベゼルの父親。再び倒したところで、ベゼルが悲しむのではないか_____いや、そもそも、この平和な魔界において、その王を倒す必要があるのか……?
「…………」
レイドの頭の中で、何かが張り巡らされる。
自分が思う疑惑の、パズルのピースが揃う感覚_____。
「ほう、主が勇者か? 久しぶりじゃな」
しかしそれは、大魔王の一言によって中断される。
レイドは我に返り、大魔王を見据えた。
「……ああ、そうだ。覚えていたんだな、魔王」
少しでも余裕を見せるため、笑う。が、何故か大魔王はそれに対し、
「ぬうううううん!!」
突然咆哮を始めた。
「な、なんだ!? どうしたいきなり!!」
レイドは驚きながらも戦闘態勢をとる。だがしかし、大魔王の怒りはとてつもなくしょうもないことであった。
「ワシは魔王ではない! 『大』魔王じゃあーーーー!!」




