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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【魔王生誕祭編】
22/122

13.5 人間界にて①【番外編】

今回は番外編になります。

13話の後のお話……レイドが人間界を出る時に闘った、あの人のお話です。

______薄れゆく景色の中、彼は己の不甲斐なさを心の底から悔いていた。

 敵わない敵に挑み、味わう敗北。その回数を数えるには、片手の指だけで事足りる。

 しかしそのほぼ全てを同じ相手から受けたという事実は、彼にとって己の『弱さ』の証明になる事に他ならない。


 おのれ、次は負けぬ……!

 次こそは必ず勝つ……!!


 上には上がいる_____そんな言い訳を彼はつかない。己が『ヤツ』より劣っていると、認めてしまう事になるからだ。

 いずれ超えるべき目標として、今はただ、その目をゆっくりと閉じるのだった_____。



_________


「…………む」

 彼が次に目を覚ました時には、別の場所にいた。

 背中を優しく受け止める様な暖かいベッド。上半身を起き上がらせると、怪我をした箇所が包帯によって丁寧に巻かれていることに気が付く。

 近くの壁には自分の荷物と剣が立て掛けられ、どこか見覚えのある部屋の内装。

「ここは……城の兵舎か」

 彼……ハイガーがそう呟くと、1人の兵士がドアを開けて入ってきた。

「あっ、ハイガー隊長。目が覚めたんですね!」

 安堵の顔を見せながら、その兵士はハイガーに駆け寄る。

「具合は大丈夫ですか? 自分がセトルの森での業務を終え、荒野へと戻ってみたら隊長が倒れていて驚きましたよ。何にせよ、ご無事で何よりです!」

 その言葉でハイガーは思い出す。

「荒野……そうか、私は勇者に闘いを挑み、そして負けたのだったな……」


 荒野での闘い____魔物と結託した勇者と闘い、再び味わう敗北。そして、勇者が魔物達と共に魔界へと向かう事を阻止できなかった事……全て己の弱さが招いた事態だった。

「……隊長? どうかされたのですか?」

 ハイガーの深刻な面持ちに、兵士が心配をする。

「イヤ、なんでもない。済まなかったな……私をここまで運び、手当てをしてくれた事、感謝する」

 その言葉に、兵士は慌てて言葉を探した。

「あ、いえ、そんな! それに手当てをしたのは自分ではなく……」

「あ! とーちゃんが目を覚ましたー!」

 兵士が言いかけたところで、賑やかになる兵舎。2人が声の方___入り口に視線を向けると、10歳くらいの元気な少年が入ってきた。

「……ターク」

 ハイガーがその少年の名前と(おぼ)しきものを声に出す。その少年とのやりとりを聞く限り、2人は親子ということで間違いなさそうだ。

「すっげぇ心配したんだぜ、半日も目を覚まさないんだからさ!」

 そこでタークはドアの外に向けて、誰かを呼ぶように手招きをする。

「母さん、早く! とーちゃんが起きたよ!」

「あらあら、ちょっと待ってターク、今行くわ」

 タークに呼ばれて入ってきたのは、礼儀正しそうな1人の女性。タークの母でハイガーの妻、ユミナだった。

「ユミナ、お前まで……一体どうしたというのだ……?」

「あら、人に心配かけておいてその言い草ですか。貴方が心配だったから、ここまで駆けつけたというのに……」

 ユミナはタークと共にハイガーの正面に立ち、ため息をつく。それと同時に兵士が空気を読んだのか、その場を離れてドアまで向かった。

「あ、じゃあ自分はこれで失礼します。隊長が目を覚ましたと、他の者にも伝えねばなりませんので」

「兵士さん、本当にありがとうございました。お体には気をつけてくださいね」

「あぁいえ、こちらこそ!」

 ユミナが深くお辞儀をし、兵士もそれを真似する。

「ばいばーい、兵士のにーちゃん!」

 手を振るタークに笑顔で返すと、兵士は兵舎を後にした。

「……さて」

 ユミナはそれまでの態度に区切りをつけ、険しい顔でハイガーを見る。

「だいだいの話はお城の人達から聞きました。また仕事で無茶をしたそうね。まぁ、それはその怪我を見ればわかるけど」

「……ぬ、むぅ……」

 城の兵士達からは専ら、『鬼隊長』と呼ばれる程厳格なハイガー。だがこの時ばかりは返す言葉もなく、ただ小動物のように縮こまってしまっていた。

「アナタの仕事だもの。それについてあれこれ言うつもりはないけれど、あまり無茶をして欲しくないの。言ってる意味、分かるわよね?」

「ぬ、しかし勇者がだな……」

 イマイチ理解を示さないハイガーに、ユミナはズイッと一歩詰め寄った。

「わ・か・っ・た?」

 まるで子供を叱るようなユミナの態度。ハイガーはしょんぼりと俯いた。

「……すまぬ、いや、わかりました……」

 それを聞いて、ユミナはニコリと笑顔を見せた。

「分かれば宜しい」

 ユミナの話が一段落し、タークはふと入り口のドアを見る。

 先程兵士が出て行った時に閉じられたそのドア……。タークは何となく、近づいてドアを開けた。

「……あ……!」

 するとそこには、ユミナとハイガーの会話を盗み聞きするように耳を立て、呆気に取られた顔をした3人の兵士がいた。

「なにやってんだ? にーちゃんたち」

「あのいや、これはその……!」

 真ん中の___先程の兵士が慌てて口を開く。事情を説明するより先に、ハイガーが声を上げていた。

「お前たち、まさか……今の会話を聞いていたのではあるまいな……!?」

 多少の怒気を含んだ声色。部下に格好悪い所を見られては、上司として示しがつかないと思ったのだろう。今にも立ち上がり、斬りかかりそうだ。

「いっいえ! 決してそのような事は! 国王様が隊長をお呼びしていたのを思い出しましたので、その……!」

 その言葉で、とりあえずは落ち着くハイガー。

「……国王様が?」

 やや疑問を含めて返したものの、その本意は分かっていた。

「はい。勇者の件について、お話があると……」

 やはりか、という風に目を閉じるハイガー。しかしハイガーは、その先に疑問を感じていた。

_____私が目覚めてすぐ話を聞きたいとは……何か急ぎの用でもおありなのだろうか……?_____

 やがて目を開けると、兵士たちに指示を出す。

「わかった、すぐ行こう。お前たちは下がっていいぞ」

「はっ、承知しました! 失礼します!」

 そそくさと立ち去る兵士たち。お咎め無しでホッとしたのか、安堵の顔を浮かべながら歩いて行った。

「では私も行かなくてはな……」

 痛む身体に鞭をうち、ハイガーはベッドから足を下ろす。そのよろよろした姿を見て、ユミナは心配した。

「アナタ、今行くのは無茶よ。折角手当てもしたのに……国王様には、もう少し待ってもらうように私から……」

 ユミナの言葉をハイガーは途中で遮る。

「大丈夫だ……私が犯した失態なのだから、この程度の怪我など、なんとも……」

 しかしベッドから降り、一歩歩いた所で全身に激痛が走った。

「……っぬ……!!」

 その場に片膝をつき、汗がぶわっと吹き出す。1人で歩ける状態ではなかった。

「アナタ!」

「とーちゃん!」

 ユミナとタークが駆け寄り、心配そうに見つめる。

「やっぱり無理よ、大人しく寝てなきゃ……」

「そうだよとーちゃん、無茶しないでよ」

「し、しかし……」

 依然として2人の忠告を聞き入れぬハイガー。そんな時、何処からか男の声が聞こえた。

「大変そうだな。何なら俺が運んで行ってやろうか?」

 3人がドアの方に視線を向ける。そこには1人の男が壁に寄りかかり、腕を組んで佇んでいた。

「よう、ハイガーさん。またレイドの奴に派手にやられちまったみたいだな」

 組んでいた腕をとき、意味深に笑みを浮かべながらハイガーたちに近づく。金色で肩までかかるくらいの少々長い髪を後ろで結い、整った顔立ちの如何(いか)にもな優男。彼が誰なのか、ハイガーは知っていた。

「貴様……アルフか」

 ハイガーが邪険そうにその男の名を呼ぶ。しかしそれとは正反対に、タークはアルフを見て喜んだ。

「アルフにーちゃんじゃん! ひっさしぶり!」

「おー、ターク。相変わらず元気だな、お前は」

 そのまま2人がハイタッチをする。

「こら、ターク! 仲良くしてはいかんぞ、勇者の一味なんぞに!」

 それを面白くないと思ったのか、ハイガーが声を荒げた。

「えー、いいじゃん別にー。アルフおもしろいし」

「そういう問題では……」

「そうそう。俺別に悪い奴じゃないしー」

 舌を出し、手をピロピロさせてハイガーをおちょくるアルフ。

「貴様は黙っていろ! 一体なにしに来た、さっさと話せ!」

「いや矛盾してんだけど、それ」

 相変わらずのハイガーにやれやれとため息をつき、アルフは話を進める。

「まあもう一度言うけど、俺が一緒に王様のとこへ行ってやるよ、って事」

「……何だと? どういう風の吹き回しだ?」

 ハイガーが片眉を上げる。アルフは自分の髪をいじりながら続けた。

「いや、実際俺も気になってんだよね。兵士から話を聞く限り、あんたを助けた時にはレイドの姿はなかった。でもさ、有り得ないんだわ、それ。アイツはここ3年荒野から離れてない。あんたを倒した後で、何処行っちまったんだろうな、って思ってさ」

 アルフは先程までの、おちゃらけた顔つきから真面目な顔つきになり、ハイガーを見る。

「今ここであんたに聞いても答えてくれるとは思わないし、だから一緒に王様の所へ行って事情を聞こうと思ってな」

 その話を聞いて、ハイガーは目を閉じ、首を横に振った。

「……フン、誰が貴様の力なぞ借りるか。話す事も何もない、早く立ちされ」

 しかし当のハイガーを無視し、話は進んでいた。

「すみません、アルフさん。夫をお願いします」

「任せてくださいな、ユミナさん」

「帰ってきたらあそぼーぜー!」

「おー。しょうがねーな、コイツは」

 そのやり取りで、ハイガーはずっこける。同時に傷も痛んだ。

「痛たたた……! おい、勝手に話を進めるな!」

「いいじゃないかよ、少しくらい。それに『前賃』は払ったんだし」

 アルフの言葉にハイガーは疑問を浮かべる。

「『前賃』? 何だそれは」

「俺がさっき話した、あんたに手を貸してやる理由。あれ『前賃』ね。こっちが正直に話したんだから、今度はあんたが素直に俺の手を借りる番だ」

 そう言ってアルフはハイガーに手を差し出す。しかし当然の如く、ハイガーはその手を振り払った。

「ふざけるな! そんなものが理由になるか!」

 ハイガーの態度に肩をすくめ、アルフは渋い顔をする。

「あーはいはい。分かりました。そう言うと思って、最終手段を用意しました」

「最終手段? 何だそれは」

 アルフはニヤリと笑い、ハイガーをヒョイっと持ち上げた。

「うおわ!?」

「勿論、実力行使!」

 まるで荷物扱いの様にハイガーを両手で持ち上げるアルフ。ハイガーは怪我のせいで、ロクにあがく事が出来なかった。

「くそっ、アルフ貴様離せっ! 降ろせ!」

「はいはい、あんまり動くとお体に障りますわよー」

 上手い事ドアをくぐり、廊下に立つアルフ。ハイガーを上に持ち上げたまま、ユミナとタークに頭を下げた。

「んじゃ、少しだけお借りします、ハイガーさん」

「ええ、気をつけてね」

「とーちゃん頑張ってねー!」

 2人に見送られながら、アルフたちは国王の所へ歩を進め始めた。


「くそっ、おのれ勇者の一味めぇーーー!!」

 ハイガーがそう叫んだのは、最早言うまでもないだろう……。

<作者の余計な後書きコーナー!>(読み飛ばし可)


今回新キャラが結構出ましたので、簡単に説明を。


【ターク】

ハイガーの息子。10歳。

【ユミナ】

ハイガーの妻。礼儀正しい……?

【兵士】

兵士。

【アルフ】

レイドの仲間。ヤサ男。


次回も番外編が続きます。ここまで読んで頂き、ありがとうございました。

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