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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【魔王生誕祭編】
18/122

16. 温度差と昔話

【番外編】で登場したエリスさん、再登場です。

え、忘れた? 思い出して下さい。


え、読んでない? じゃあ読んでみて下さい!(切実)

 魔王城、城内。

 ゾン吉を案内役に迎え、レイドは観光にでも来たかのように城内を見て回る。

 城の悪魔たちが、レイドという見知らぬ人間を見ては「アイツ勇者じゃね?」と怪しんでいた。

「ここが食堂で、こっちが大庭園です」

「へぇ、やっぱり魔王城ってだけあって豪勢な造りだな」

 しかしレイドは悪魔たちに対して全くの無関心。その口ぶりから、本当に魔王を倒すためだけに昔この城を訪れたのか、とゾン吉は悟った。

「……それにしても、この世界の奴らは皆アイツに甘いのか?」

 レイドが声を小さくする。ゾン吉も誰の事か分かっていたが、一応聞き返した。

「……アイツって、ベル様の事ですかい?」

「そうだ。子供だからっていうのも分かるが、ちょっと行き過ぎじゃねーか? 入り口にいたあの女だって、相当アイツを溺愛してるよな」

「入り口にいた女……エリスさんの事ですかい?」

「そうだ。そいつだ」


 ____つい先程の事だ。城の入り口をくぐる時、ボブカットでメガネの女悪魔……エリスがレイドの胸ぐらを掴み、

「あなた……ベル様に何かしたら、死刑にしますわよ……?」

 とガンをつけてきたのだ。


「正直、初対面の女にあんな事言われたの初めてだから、ちょっとビビったよ」

「まぁ、エリスさんはベル様の事となると豹変しますからね……いつもは優しいんですけど……」

 するとレイドは足を止め、目の前にある階段に視線を向けた。

「どうかしたんですかい? 勇者さん」

「この階段の先……確か魔王の玉座の部屋じゃなかったか?」

「ああ、そうですよ。今は先代魔王様がいなくなってから使われてない部屋ですけど……」

「そうなのか……なあ、行ってみていいか?」

「え? ええ、多分大丈夫ですよ」

 レイドたちは階段に脚をかけ、玉座の間へと進んで行った。


 _______


「ベル様! ご無事ですか!?」

 リリと手を繋いで歩くベゼルを心配するのは、魔界法律家のエリス。

「うん、エリス。大丈夫だよ」

 ベゼルは表面上ではそう言うが俯いており、明らかに元気を失っていた。憧れていた勇者に厳しい言葉をかけられたショックは、まだ拭いきれていない様子である。その様子は勿論エリスにもひしひしと伝わってきた。

「ああ、おいたわしやベル様……! かくなる上は、あの憎き人間を血祭りにあげるしか……」

 エリスはそう言うと、懐から銃を取り出した。

「エ、エリスさん! あの人は勇者様なんです! だからあまり危害を加えては……」

 慌ててリリがエリスを抑制する。

「何ですって……? あの人間が勇者……?」

 一瞬動きを止めたものの、それでもエリスは止まらなかった。

「関係ないわ。『魔王様を悲しませた者、泣かせた者は死刑』……私が定めた法律の下、私の手であの無礼者を裁いてあげますわ」

 銃の弾が入っているのを確認すると、エリスはレイドたちの元へ走って行ってしまった。

「ああ、もう! ちょっとエリスさーん!」

 リリは左手で額を抑え、ため息をつく。

 魔界へ帰って来てから1時間と立たずに波乱の展開が続き、リリは頭を抱える。

 それを察したウル太郎は、親指をグッと立てて声を出した。

「リリさん、自分に任せてください! 自分がちょちょいと止めて見せますから!」

「えっ?」

 リリの返事も待たずに、ウル太郎も城へと走って行った。

 しかしその行動は、リリにとって不安の種を増幅させる要因にしかならなかったようだ。

「え……ウル太郎さん……まで行ってしまったら……余計ややこしくなるんじゃ……」

 最早ウル太郎にリリの声が届くわけもなく、消え入りそうにそう呟くのだった。


 ________


「こうして見ると懐かしいな。ここで俺は魔王と闘ったんだ」

 玉座の間へに到達したレイドとゾン吉。3年前と変わらぬ部屋の内装に、レイドは『あの日』の事を思い出す。

「ここで……俺の旅は終わったんだ。魔王を倒し、人間界を平和に導いた。あの日から……俺は『勇者』になったんだ」

 胸に手を当て目を瞑る。思えば、この3年間で本当に色々な事が起きた。

 数々の仲間や敵と出会い、共に闘い、笑い合った日々。楽しかった思い出だったからこそ、胸の奥が苦しくなる。

 もう、あの時間は二度とやって来ない。レイドがかつて思い描いていた未来と今……それは、彼の生き方や考え方までもを変えてしまった。

「……あの、どうかしたんですかい?」

 かつての記憶を巡るレイドは、ゾン吉の声で目をすっと開ける。そして、ふと頭によぎった事を口に出した。

「なあゾンビ。お前たちは、俺の事を何とも思わないのか?」

「……はい?」

 突拍子もないその問いに、ゾン吉は思わず素っ頓狂な返事をした。

「俺は魔王を倒したんだぞ? 復讐しようとは思わないのか?」

 何かを恐れながらゾン吉を見るレイド。その声が僅かながらに震えていた事に、ゾン吉は少し口を(つぐ)んだ。

「……復讐なんか、しやせんよ」

 やがて口を開いたゾン吉は、ほんの少し笑顔を見せて続ける。

「城の悪魔たちは勇者さんを恨んでなんかいやせん。むしろ、感謝しているくらいです」

「は……? 何で……?」

「ベル様は、昔はいつも哀しそうにしていたんです。表面上では笑顔を見せていても、その奥にある寂しさは城の皆が知っていました……勿論、先代魔王様もです。ですがそんなある時、勇者さんが来てくれやした。そして、ベル様に生きる目的を与えてくれたんです」

 レイドがゾン吉の言葉を復唱する。

「生きる、目的……?」

「はい、それが『勇者になること』……。勇者さんが先代魔王様を討った時から、ベル様は目的に向かって前を見るようになったんですよ」

「……そうなのか」

 レイドは、そこで一つ疑問を感じる。

「でも俺はアイツの父親を倒したんだぞ? それで勇者に憧れるものなのか……?」

 ゾン吉は、分かってない、とでも言いたげに人差し指をチッチッと振った。

「我々悪魔はそういう生き物です。人間から見れば、『狂ってる』とでもなるんですかね」

「は……」

 レイドは返す言葉が見つからなかった。

 これが悪魔……。自分たち人間とは、根本的に考え方が違っていた。レイドはただ、そう思っていた。

「だから勇者さん、これからもベル様の目標になってくれやせんか? ベル様、勇者さんに会えて本当に嬉しそうでしたよ」

「……!!」

 ゾン吉がベゼルを思って口にした言葉。

 それは何よりも、レイドの心に一番響いた。

「俺は……」

 レイドの冷えた心に、暖かいものが灯る感覚。それは少しだけ救われたような、そんな感覚だった。

「俺は_____」

「見つけたわ、勇者ァァ!!」

 突然玉座の間の扉を蹴飛ばして開き、豪快に部屋に入り込む女性。

「エ……エリスさん!? どうしたんですかい、血相変えて!」

 慌ててゾン吉が叫ぶ。何よりも、エリスの手に銃が握られていた事が驚きだった。

「ゾン吉、どきなさい! そこの勇者ァ、私がハチの巣にしてやるわ!」

「俺!? 何なんだいきなり!?」

 さすがのレイドも驚く。さらにその直後、ウル太郎まで勢いよく入ってきた。

「オラァァァ!! 俺も混ぜろーー!」

 闘う気マンマンのウル太郎。リリと約束を交わしたあの時の彼は何処へやら、という感じである。

「どうしたんですかウル太郎さんまでーーー!」

 ゾン吉はもう、終始慌てっぱなしだった。

「やっぱり全員ぶちのめした方が手っ取り早く止められると思ってなぁ! そっちの方が楽し……覚悟しな、お前ら!」

「今本音出かけてましたよ!?」

 ゾン吉がツッコむと、今度はリリが息を荒げて入ってきた。

「ぜぇ、ま、待ってください皆さん……!」

「リリさんまで! 何が起きてるんですか一体!」

 そう叫ぶゾン吉の一方で、レイドは状況が飲み込めず、ただただ立ち尽くしていた。

「ベル様が見ている前で、闘いなんてさせませんよ……!」

 リリが息を整える。その後ろには、勇者を警戒しているのかベゼルが隠れていた。

「く、確かにベル様の前で発砲なんてできないわね……」

 エリスは少し冷静さを取り戻し、銃を懐にしまう。

「でもどうするの? 一体何で勝負する気?」

「勝負するのは決定事項なんですね……」

 リリがため息をつき、続ける。

「いいでしょう。どうせでしたら、皆が参加できる平和な勝負にしようじゃありませんか」

 話がよく分からない方向へ進んでいる気もするが、そんな事はハイテンションのエリスたちには気にならなかった。

 そしてリリが一拍溜めたあと、大きな声で宣言した。

「勝負内容は……これです!!」



 リリが選んだ平和な勝負……驚くべき、その内容とは一体____!?

 軌道修正……波乱の展開を迎え、物語は次回へ進む!

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