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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【魔王生誕祭編】
17/122

15. 魔王と勇者

今回から第二章の始まりです。

うーん、それにしても……ベゼル動かしにくい(笑)

一応主人公の1人なのになぁ……

_____魔界。

 青い空が何処までも広がる平和な世界。

 勇者レイドを人間界から連れ出し、リリたちは魔界へと帰ってきた。

「ここが魔界……」

 やはり想像していたのとは違う風景を、ゲンさんの上からレイドは物珍しそうに見下ろしていた。

「ほんとに平和っていうか、のどかだな。人間界以上じゃないか……?」

 風車、草原、小さな村……。田舎というか何というか、少なくとも人間界の王都よりも遥かに静かで、住みやすそうな所だ。

「何だか新鮮な反応をしてやすけど……勇者さんは1度魔界に来た事があるんじゃないんですかい?」

 レイドの初めて見る、というような表情をゾン吉は疑問に思った。

「まぁ、あるけどさ。3年も前だし、あの時は魔王を倒すので頭がいっぱいだったからな」

 それに魔王を倒したら速攻で人間界に帰ったしな、と付け加えたレイドは、遠くに見える一際大きな城を指差した。

「お、あれだよな、魔王城。あの禍々しい外観は覚えてるぜ」

 その言葉にリリがこくりと頷く。

「はい、あれが魔王城です。ゲンさん、スピードアップお願いできますか?」

『あいよ。しっかり捕まってな』

 リリに従い、ゲンさんは速度を上げる。突然勢いづく風に一瞬吹き飛ばされそうになる一行だが、やがてあっという間に魔王城へ到達した。



『到着じゃ。長旅お疲れさん』

 ゲンさんがゆっくりと下降し、魔王城の入り口前で着地する。

「ゲンさん、ありがとうございました」

 リリがお礼を言った。

『なぁに、ワシも楽しかった。こちらこそ礼を言うよ』

 ゲンさんも頭を下げると、突然商売人の顔になり、両目を鋭く輝かせた。

『それで料金の方じゃが……』

「はい、分かっています。カードでいいですか?」

 リリがポーチの中の財布から一枚の金色カードを差し出す。それを受け取り、何かの機械を操作したあと、ゲンさんはリリにカードを返した。

『あいよ、ありがとさん。んじゃあワシはこれで失礼するよ』

 ご満悦のゲンさんは、満面の笑みで遠い空へ帰っていった。

 レイドたちはその後ろ姿を見送り、改めて魔王城に視線を向ける。

「しかしこうやって見ると、改めてでけぇな……」

 レイドが唾を飲み込む。

 魔界の特別な岩石を加工したと思われる物をベースに作り上げた外壁。その薄青色の外壁を飾る赤い布。中央及び左右には小さく飛び出る塔がそびえ立ち、それらを円錐状の屋根が禍々しく飾っている。

____まさに圧巻、だった。

「かつての偉大な魔王様が住んでいたお城ですからね。当然、これくらいのお城でなければですよ」

 リリが自慢げに語る。その一言に、レイドはどうしても腑に落ちないことがあった。

「偉大な魔王様、ねぇ……。それにしては、あっけなさすぎたが……何であんなヤツが魔王だったんだ? 下手したらお前の方が強かったくらいだぞ、ゾンビ」

「え、えっあっしがですかい? いやぁまぁ、そんな、そんな事……」

 予期せぬお誉めの言葉に、ゾン吉はくねくねしながら喜んだ。その姿は正直気持ちが悪い。

「その姿は正直気持ちが悪い」

 レイドも何かに釣られてポロっと口に出してしまったようだ。

「……そんな……!!」

 ゾン吉に衝撃が走り、落ち込んで座り込んでしまう。その姿は正直面倒くさい。

「正直面倒……じゃない、悪かったよゾンビ! ウソだ! 強かったっていうのだけが真実だ!」

「うう……本当ですかい……?」

 ゾン吉が涙目でレイドを見上げる。

「当たり前だろ……! あの時は、マジで負けると思ったんだからな……」

 レイドが手を差し伸べ、その手をゾン吉が掴んで立ち上がった。2人の間には、いつの間にか小さな友情が芽生えているようにも見えた。

「……一体何をやっているんですか……」

 リリがため息交じりに呆れると、城の入り口の大きな門が大きな音を立てて開き、城の者がリリたちの帰りを出迎えた。

「あ……皆さん、入り口が開きましたよ。」

 リリがレイドたちに声を掛ける。全員で入り口の方を見ると、2つの人影があるのが確認できた。そのうち1つは子どもの影。そう、それは紛れもない『彼』____魔王ベゼルだった。


「みんな、お帰り!」

 ベゼルが笑顔でリリたちの所へかけていく。そんなベゼルをリリが抱き寄せると、そのままぺこりと頭を下げた。

「ただいま帰りました、ベル様。突然2日も出掛けてしまい申し訳ありませんでした」

 その言葉でリリから離れたベゼルは、頬を膨らませて少しふてくされた。

「ほんとだよ。人間界に行くなら、僕も連れて行って欲しかったのにー!」

「まぁまぁベル様、そこは一つ多めにみてくださいな」

 軽く流すウル太郎とゾン吉に気づき、ベゼルはそちらへ歩を進める。

「ウル太郎もおかえり! あと、ゾン吉も久しぶり! 冬眠から起きたんだね!」

「へい、お久しぶりですベル様」

 ひらひら手を振るゾン吉。

「あとは……」

 ベゼルがくるりと後ろを向き、おそるおそるレイドを見つめる。何処かで見た顔……いや、そんなものではない。ベゼルはハッキリと『彼』の顔を覚えているのだから。

「もしかして、……勇者?」

 これまたベゼルはおそるおそる口を開き、リリがニッコリとそれに答える。

「そうですよベル様。正真正銘、本物の勇者様です」

 するとベゼルは、徐々にその顔を喜びの顔に変化させ、勇者に抱きついた。

「わーーい! 勇者だ、勇者にまた会えたーー!」

 しかしベゼルの反応とは対照的に、自分の左足にしがみつくその子供を無表情で見下ろすレイド。

「…………なにコイツ」

 状況が飲み込めないレイドは、人差し指をベゼルの頭に向け、リリにそう聞く。

「この方こそが現魔王様……ベゼル様ですよ」

「え……」

 その言葉を聞いて、レイドはリリとベゼルを交互に見た。

____コイツが魔王……!?____

 思えばリリたちと出会ってから驚きが続いているが、レイドにとって今この瞬間が1番の驚きだった。

「ウソだろ……!? こんなガキが……!?」

 確かに魔王の息子が現魔王になった事は聞いていた。しかしまさか、こんなに幼い子供が魔王になっているとは思いもしなかったようだ。

「なんか頭がこんがらがってきたぞ……」

「ねえ勇者、お願いがあるんだ」

 そんなレイドの混乱などお構いなしに、ベゼルはどこから出したのか一枚の色紙をレイドに差し出す。

「……あ? 何だこれ」

「サインください!」

 目を輝かせるベゼル。しかしレイドは少し沈黙し、やがて言ってはいけない言葉を放った。

「断る」

「えっ……」

 レイドの冷めた眼差しを見て、色紙を差し出したままベゼルは固まってしまう。慌ててリリがベゼルを抱き上げた。

「ベル様! 大丈夫ですか!?」

 そのままリリはレイドを咎める。

「なんて事言うんですか、勇者様! 相手はベル様……魔王様ですよ!」

「そうか、そうだったな」

 そこでレイドはかしこまり、あくまで無表情で言葉を改めた。

「お断り申し上げます、魔王様。」

「そういう問題じゃありませんよ!」

 声を荒げるリリに対して、至って冷静のレイド。おまけに耳までほじり出した。

「何をそんなに怒ってるんだ? 俺はただ、礼儀のなってないガキに少し強くあたっただけだぜ」

「そんな言い方……」

 リリの言葉を遮り、レイドはベゼルに近づく。

「おいガキ。名前は?」

 ベゼルはレイドに少し恐怖を覚えながら、小さく呟いた。

「……ベ、ベゼル……」

「そうか。俺はレイドだ」

 真っ直ぐベゼルを見ながら、レイドは続ける。

「いいか、サインを貰うだのなんだのする前に、まずは名乗る事が大事だと思うぜ」

 ベゼルが少し考えた後、その言葉に小さく頷く。それを見たレイドは、ベゼルの頭を優しく叩いた。

「……あれ? でも俺たちが勇者の家に行った時、名乗らなかったよな? あれはいいのか?」

 ウル太郎がふと思い出した様に切り出す。

「アレはお前らが悪魔だって分かってたからな。もっというと、初めは敵だと思ってたし、最後には名乗っただろ」

「あー、まぁ確かにな……」

 レイドの言葉にウル太郎は手をポンと叩き、納得した。

 そこでレイドはひとつ息をつくと、もう一つベゼルに質問をする。

「で、何で俺のサインが欲しいんだ?」

 今リリに抱きかかえられているベゼルだが、その質問には身を乗り出して答えた。

「勇者のファンだから! 僕、勇者に憧れてるんだ! だから将来は立派な勇者になりたくて……」

 ベゼルはそこで口を紡ぐ。何故なら、ベゼルの目の前にいるレイドの顔が、悲しそうな顔になったからに他ならない。

「……勇者?」

 思わずベゼルは呟いた。

「やめとけ、勇者になるのなんて。……そもそも、魔王が勇者になんてなれるワケないだろ」

「…………!!」

 レイドの非道な一言。憧れの人からのその一言に、ベゼルは強くショックを受けてしまう。リリは仰天し、ベゼルをゆさゆさ揺らしながら声を掛ける。

「べ、ベル様! しっかりしてください!」

 そしてリリはレイドをキッと睨んだ。

「勇者様! あなた……」

「事実だ!」

 しかしまけじと叫ぶレイドに、リリは気圧される。

「勇者は俺1人で充分だ。そいつに勇者になるのなんか……早いとこ諦めさせろ」

 勇者はその言葉を最後に、城の入り口を目指して歩き出した。

「おーい、ゾンビ。城の中案内してくれよ」

「え、あ、はい、わかりやした……」

 レイドに呼ばれたゾン吉は、その場を動こうとしないリリ達とウル太郎を横目に、通り過ぎる。


 やがてベゼルがショックから少し立ち直り、リリの胸に顔の右半分をうずめながら口を開いた。

「ねえリリ……あの人ほんとに勇者なの……?」

 悲しげに俯くベゼルのその言葉が、リリの胸に静かに突き刺さった……。

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