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勇者魔王の日常冒険譚  作者: ゆーひら
【三界戦争編】
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104/122

99. そして魔王は

_______




「急げ、みんな! なんかヤバそうだぞ!!」


 サルタンとアドネーの決戦の場所から、ひとつ離れた浮遊島を駆け抜けるアルフ一向。


 彼らが目指すのは、今まさに激闘が繰り広げられているアドネーのいる場所。


 先陣をきって突っ走るアルフのすぐ後ろには、杖に乗って空を移動する賢者ミレトス。次いでロゼ、リリたち悪魔勢だ。


「わーっとるわい! この魔力……まさかあやつ……!」


 ひとり楽そうに魔法の力で空を飛ぶミレトスが、何かを感じたように前方を見上げる。それは『賢者』と呼ばれる彼にしか感じ取れない何かなのか、或いは単なる直感か……兎に角彼の頬につたうのは、およそ穏やかとは言えない嫌な汗。両の拳をぎゅっと握り、ミレトスはより一層杖に魔力を込めた。


「ウル太郎、ごめんね……大丈夫?」


 その後ろに続くウル太郎。そして彼の背にまたがるベゼル。ウル太郎は今、自らの持てる最高速の4足歩行で走っていた。


「問題ねーっす! それよりもしっかり掴まっててくださいね、ベル様!」


 自分の足が遅いことを気にしているベゼルを労うウル太郎。そして彼もまた、他の者と足並みをそろえるようスピードを調節している。


「うん!」


 ベゼルはウル太郎の背中の毛を決して離すことなく握った。


 目指すはレイドのいる場所……目の前にどんどん迫ってくる、白い浮遊島だ。



 そして、彼らはまだ知らないでいた。

 レイドとアドネーがいるその場所に、大魔王サルタンがいる事を。


_____いや。もしかしたら、彼女だけは知っているのかも知れない。


「レイドさん……。……サル様……」


 魔王城のメイド、リリ。ベゼルの世話役である彼女。ぼそりと2人の身を案じ、ひたすらにその足を動かしていた。


 そして全員の足は、ある一点にたどり着いたのち、止まる。



「よし、着いたぜ! ここがこの浮遊島の端っこだ!」


 アルフがみんなを手で制す。

 これより先に道はない。レイドのいる浮遊島まで行くには、その道なき道を____つまり、『空』を進むほかない。


「って……どうやって向こうまで行くんだァ!? やっぱし空でも飛んでかねーと行けねーじゃねーか!」


「へ、心配すんなって! 俺を誰だと思ってんだ?」


 ウル太郎の言葉に「待ってました」と、アルフは周囲に自慢の魔法____白い球体を展開させた。


「『重力奏(グラビテット)』!」


 人間界において、瘴気の男『ジン』を退ける時、魔界でアインス以外の天使兵を一掃する時に役立っていた重力魔法、『重力奏(グラビテット)』。

 今回におけるその用途は、ただひとつ。


「さぁ、みんな……」


 白い球体がしぼんでいくと同時に、その場にいる者全てに白い光が付与されていく。


 恐らくそれは、星の重力に逆らうことのできる『反重力』の付与。今アルフたちは、各々にかかる重力の調節を可能にする魔法を纏っているわけだ。


「思っきし、翔べぇーーー!!」


「うおおおおぉぉ!!」


 そしてアルフの掛け声とともに、全員は浮遊島から身を乗り出す。

 フワッと半ば宙を浮いているような感覚の中で、そのまま目的地へと確実に進んでいくのだった。



________



 かたや、同じ頃。

 サルタンとアドネーの取っ組み合いが勃発する。

 互いに手を合わせたまま、その力の拮抗は続いている。


 しかし、それよりも。

 サルタンが口にした一言が、アドネーの脳裏に疑問を浮かばせていた。


「なァ、アドネー……。お前は涙を流したことがあるか?」


 それはサルタンの、アドネーを救いたいという意志。これまでの闘いからは想像もできないようなその言葉に、アドネーは僅かながらに片眉を動かした。


「涙……? 急に何を言い出すかと思えば……」


 ほんの少しばかり思いとどまるアドネー。

 しかし次の瞬間には嘲笑うかのように、アドネーはサルタンの顎に向けて蹴りを繰り出した。


「っ!!」


「そんなもの、ないね!」


 顎に直撃を受けたサルタンは仰け反り、アドネーは手を離して距離を取る。


「そして____なんと言った? この私を、救う……?」


 距離を取ったのは、サルタンの得意とする接近戦から逃れるため。そして……自らが最も得意とする遠距離戦へと再び持ち込むためだ。


 アドネーの周囲の瓦礫は、カタカタと揺れていた。

 それはアドネーの次の攻撃による振動ではなく____。


「世界の創造主たる私に対し、『救う』だと……!? 自惚れも大概にする事だな……!」


 彼に宿っていた、怒りの感情によるもの。その感情に作用されて、瓦礫は次々にチリとなって自壊していく。


 そして、同様にして。


「っぐふぅ……!」


 サルタンが胸のあたりを押さえながら、尋常でない程の汗を滲ませて片膝をついた。


 それはアドネーの攻撃によるものではない。


 自らの捨て身の技……『猿鬼王尽(えんきおうじん)』のタイムリミットが迫ってきているのだ。


 サルタンの身体には少しずつ、白い煙が(くすぶ)り始めている。


 そんなサルタンを見て、アドネーは半ば勝利を確信したかのように勝ち誇った。


「くく……救って欲しいのはお前の方なんじゃないのか? もってあと5分といったところだろう。……どうだ? 泣いて頼めば、或いは私ならばどうにかできるかも知れないが____」


 アドネーの言葉の途中____。

 サルタンは自らの拳に風圧を乗せて、衝撃波としてアドネーに放つ。


「っ!!」


 アドネーはそれを左方に避けると、サルタンが苦痛を浮かべながらも笑って答えた。


「心配すんなよ。俺が死ぬ時……それはお前を倒した時なんだからよ」


 その一貫性のない行動と言動。アドネーの疑問は拭いきれない様子だ。


「貴様……一体何を考えている……?」


 そう問いただしても、サルタンは唇から血をツゥ、と流すだけで返答しない。


_____あとほんの僅かな時間で死に絶えるその命。そのリミットまで、逃げ回る事など容易ではあるが……_____


 アドネーがふと、そんな事を脳裏に浮かべる。しかしその考えはすぐに彼自身によって否定された。


 アドネーとサルタン。

 互いに1000年前より続く宿敵。

 その敵を前にして、『逃げる』などという選択肢は存在しないのだろう。たとえその結果『勝利』したとしても、それは望んだ勝ち方ではない。


 互いの全てをぶつけ合い、どちらが『上』なのかを証明する。これがアドネーにおける『勝利』という意味なのだ。


 そしてタイムリミットがある以上。その時が訪れるまで、もしくはその前に、大魔王を打ち倒す_____それがアドネーの考える『勝利』だった。


 そしてアドネーは目を一度見開く。

 その黒い意志を宿した瞳で、創造神は前方にたたずむ大魔王を見据えた。



「____ならば、今すぐ死ぬがいい!!」


 アドネーは地に手をつけ、その名を叫ぶ。


「『天喰(ブラッグ)』!!」


 大地を()い、ピキピキと亀裂を創りながら『それ』サルタンに向かう。


 そして地の底から湧き出るように出現した巨大な口が____サルタンを今一度飲み込もうと襲いかかった。


「おおぉ!!」


 正面から迫り来るその攻撃。

 しかし、パワーアップした今のサルタンにそれが防げぬ筈もない。


 サルタンは真っ向から拳を振るい、『ブラッグ』の喉を貫通____。『それ』は、光となって跡形もなく消え失せた。


____しかし、サルタンはここで違和感を覚える。


 光となって消えていくその中で、所々紫がかった『何か』が漂っているのだ。


 その違和感の正体____。サルタンが気づいたと同時に、アドネーは髪をかきあげて答えた。


「……大したものだよ、大魔王。拳ひとつで、私とここまで張りあえるのは……世界中探してもお前だけだろう。だが……それ故にお前は、こんな単純な手に引っかかるんだ」


「!? ごはぁ……!!」


 サルタンは突然、地面に向けて吐血する。それを見て、アドネーはサルタンに近づきながら続けた。


「『天喰(ブラッグ)』の中に潜ませていた、身動きを封じる麻痺毒だ。そのまま意味もなく突っ立ったまま……()くがいい」


 サルタンはガクリと、再び膝を折る。そんなサルタンを、アドネーは見下ろした。


「ぐ……あ、アドネー……!」


 自分の首元を必死に抑えて、サルタンは苦しそうに見上げる。


 それは最後の悪足掻き____。


 そう。


『最後の悪足掻き』が、サルタンには残っていた。

 そしてそれはまだ、終わっていない。

 アドネーはその意志を感じ取り、刹那。


 戦慄した。




「舐めるなよ……! 悪魔(オレたち)の底力を……!」




 苦しみの中で口角を上げるサルタン。


 身動きは出来ない。


 出来ない筈。


 それなのに____彼の左腕は、アドネーの首元を掴んでいた。



「っ!!?」


 流石のアドネーも、これには動揺する。

 全くもって、彼にとって予想外の事態なのだから。


「何故だ……!? 何故動ける、動かせる!?」


「元より死を覚悟している悪魔(オレたち)が、ンなモンに屈服してたまるかってんだ……!」


 足掻くアドネー。だがその力の前には____己の力よりも遥かに強いその力の前には、どうする事もできない。


「それによぉ……。出来ちまったんだよ、こんな俺にもよ」


 サルタンは笑っていた。


「…………!?」


「守るべきもの、ってやつが……。こんな事、1000年前の俺からは想像もできなかったぜ。くくく……」


 もうすぐこの世を去る者。

 逃れられないその事実を受け止めながらにして、尚且つ穏やかに笑っていられる者。

 そんな者が、かつてこの世に存在しただろうか。


 アドネーにも、もうどうしようもなかった。


 防げない。


 逃げられない。


 侮っていたのだ。


 目の前の悪魔を。


 言葉では『宿敵』と定めながらも、創造神である自分が負ける筈などないと。


 その時点で、既に決着はついていたのかもしれない。



 サルタンは自らの笑い方をふと修正するかのように、そして壊れてしまった右腕をパキリと構えた。



「……ふははは。さて……貴様も、『覚悟』はいいか……?」



 最後の一撃。


 アドネーに浮かぶのは、これまでにない表情。




「…………ま____」




「おぉぉぉぉおおおぉぉ!!!」




 幾度目(いくどめ)かの揺れが。



 最後の振動が。



 浮遊島に響き渡る。



 サルタンの拳がアドネーを貫いた時_____。






「サル様!」


「大魔王!」


「パパ_____」



 到着した『彼ら』。


 そして、下を向くレイドの姿。


「大魔王……っ!」





 そんな彼らを見て、サルタンは。




_______みんな。

 これで……。お別れじゃ_______



 いつものように、笑って______




「……パパ……?」






_____魔界歴12576年。





 今、この時。





______ひとつの時代が終わった。

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