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永遠の戦士  作者: ブラック無党
美女と野獣
6/125

鎮守の森にて―待伏―

いい加減森から出たいこの頃


時間軸がサイドによって多少前後しています



『――いいかぁ、シド! 戦争ってのは穴を掘ることに始まり、穴を掘ることに終わるんだ。つまり! いい兵隊ってのはいい穴を掘れるヤツのことをいうんだぜ!!』


 昔、トトが言った言葉が不意に頭を横切ったシドは、自ら掘った穴の中に身を沈めながら小さく笑った。

 あの男は――恐らく古い時代の戦争映画でも観たのだろう――穴を掘ったことなど無い癖にそんなことを言っていた。 

 あの時は随分馬鹿にしたものだったが、こうなってみると確かに一理ある。現にこうやってシドは穴を掘って隠れているのだから。


『マスタぁ、もうこないんじゃないんですかぁ? もうすぐ日が沈んじゃいますよぅ』


 待ち疲れたドリスが情けない声を出す。


「(こなければそれでいい。暗くなったら出発する)」

 

 シドとしてはむしろこないでくれた方が助かる。追っ手が追いついてくるというのは、いくつもの仮定を重ねた結果の最悪の予想だからだ。

 明るいうちに捕捉されれば叩く。もし夜になっても誰も追ってこなければその間に追跡を振り切る方法を探せばいい。シドにとっては昼夜の区別はあってないも同然だが、生身の生き物にとっては違う。追っ手がいた場合、昼間に行動していると考えて問題ないはず。

 日が沈み切るまで残り一時間もない。これまでずっと船の中で過ごしていたのだ。あの物音一つしない船室で待ち続けることに比べれば如何程のことがあろうか。

 それに、何故だろう。狭い穴の中に潜んでいると理解できない感情が湧き出す。

 古代地球で洞穴に住んでいた名残が遺伝子に刻まれているのか、人間は穴の中に入ることに奇妙な安堵感を抱くというが……。 

 シドが感じたそれはもっと下卑たものだった。敢えて言葉にするなら昏い快感というべきか。

 

『エルフの二人、大丈夫でしょうかね……』

「(周囲の木々はワイヤだらけだ。無傷で通り抜けるのは豚共には無理だ)」

『でも、他のが空から来るかもしれませんよ』

「(その時はお互いいろいろと諦めることになる)」


 あいつらはおもにその命だが、とシド。


「(俺にも出来ることと出来ないことがあるんだぞ)」

『え~。私、いろいろ話がしたいんですけど……』

「(……あの二匹しかエルフがいないわけではなかろう。それより、初日は準備で出来なかったが、日が落ちたら星図で現在地を確認しろ)」

『アイアイサー、船長(キャプテン)


 時折頭を出し、偽装ごしに周囲を観察する。

 現在地は空き地からほぼ南東だ。追っ手が存在していたとしても東方面からくることはほぼないとの考えからである。


『ねー、マスター。言葉が話せるようになったらどうしますかー?』

「(……さぁ、な。帰れるようなら帰るが)」

『帰るんですか!? この星で暮らしたほうが絶対幸せですよ!』

「(幸せの定義など人それぞれだ。それに、この星でどうやったら俺が幸せになれるんだ?)」

『どうって……。それを探すのを目的にすればいいんですよ。ここにいれば自由なんですから』

「(性欲も睡眠欲も食欲もない俺が溶け込めるわけがない。……少し黙っていろ)」

『……は~い』


 それきり二人は静かになった。

 時たま、遠くで絶叫のような何かの鳴き声が響く。

 時間だけが過ぎていった。

 

 しばらくすると、気温が徐々に下がり、虫の音が変わる。鳥たちは巣に帰り、夜行性の生き物が目を覚まし始めた。

 日没である。


『来ませんでしたね……』


 ポツリ、とドリス。 


「どうやら取り越し苦労だったようだな」

『出発しますか?』


 シドは肯き、念の為完全に暗くなるまで待ち、穴から立ち上がった。


「まず仕掛けを回収して――」


 と、シドが言いかけた時、


 ――爆発音が鳴り響いた。





「お――らぁぁぁぁ!!!」


 雄叫びと共に振り下ろされたナグダムの剣が、オーガの顔面を切り裂いた。

 仰け反ったオーガに止めの矢が突き立つ。

 ナグダムはすぐ次の敵に対処した。

 初めは散発的だったのだが、倒している内に数が増え、今ではひっきりなしにオーガが姿を見せるようになっていた。

 あの連続した爆発音の直後、ミラが咄嗟に使った【永続光(エターナルライト)】の灯りが頭上を漂っている。

 

「いったいどうするのよこれ!!」

「……数が多すぎる」


 灯りはミラの真上に浮かんでいる。五人はそれを中心とするこれまでと同じ形だ。完全に日が沈み、追跡を断念、野営しようと集まったタイミングだったのは不幸中の幸いか。もしこの暗さで分断されていれば狩人達は厳しかっただろう。


「いったいどこの馬鹿だ!? 森に火を放ったのは!!」


 北の方では森が赤々と燃えていた。そちらからオーガが押し寄せてきている。

 元来、森の中において中、大規模の群れといきなり遭遇戦になる機会は稀である。群れには総じて知能の高い統率者(リーダー)がおり、周囲に絶えず警戒線を敷く。特に人型の魔物はその傾向が強い。

 矢が突き立っても怯まず向かってくるオーガは、オークやゴブリンより遥かに危険度が高い。魔法は使えず膂力頼みだが、数の暴力で接近を許してしまえば熟練の魔法士でも命を落とす。

 狩人の三人は無言で矢を射続けた。会話をする余裕がないのである。一撃で命を奪うか機動力を削がなければ距離を詰められるからだ。

 視界が悪く、【永続光(エターナルライト)】の範囲外を視ることができない環境が本来の戦い方を許さなかった。

 腰布だけを身につけた巨躯が、地響きを立てて迫る。手に持った棍棒や手斧、錆び付いた大剣が当たれば、鍛えているとはいえ元々華奢なエルフの身体など木の葉のように宙を舞うだろう。

 

「撤退しよう、ナグダム! このままじゃジリ貧だ!」


 リードが提案する。

 

「そんな!? 捕虜はどうするんですか!?」

「こだわれば俺達の方が命を落とす!」

「……私とサラは生け捕りかも」

「ちょっと! 私は死ぬのも捕まるのもイヤよ! なんとかしないさいよ、ナグダム!!」

「静かにしろ、お前達!」


 押し付けられたナグダムはオーガの棍棒を受け流し、がら空きになった脇腹に剣を叩きつけて怒鳴った。


「――ミラ! 魔法で保護をかけたとして火の中でどれくらい保つ!?」

「……あの勢いだったら三十分くらい」

「サラ! 左右後方の足止めをできるか!?」

「私を誰だと思ってるのよ! まっかせなさ~い」

「合図をしたら前方に矢を集中しろ! サラはその間の足止めを! 正面を一掃したら突破する! ミラは状況を見て火耐性の魔法をかけろ! いいな!」 

「は!? 突破ってアンタ――」


 前から三匹が同時に向かってきた。

    

「――ああもうっ! 【空刃(エアスライサ)】!」


 高密度の鞭状の衝撃波がオーガの眼を潰す。

 

「――今だ!!」


 ナグダムが叫ぶ。

 リード、ポーマック、レントゥスの三人は次々と矢を放った。右往左往する目前の三体は無視し、そのさらに後方を狙い打つ。


「【樹縛(バインドツリー)】! ――いつでもいいわよ!」

「全員走れ!!」


 その言葉に六人が走り出す。

 リードとレントゥスは弓を背に掛けると短剣を手に持った。行きがけの駄賃とばかりに、目の潰れた三体をすれ違いざま斬りつける。

 後ろでは土から伸び出てくる木の根にオーガ達が行く手を遮られていた。


「それでどうするのよ!? 前は火の海じゃない!」

 

 走りながらサラが言う。


「死中に活あり! 現場に向かう! 捕まったエルフもそこにいるはずだ!」

「……【永続光(エターナルライト)】」


 ミラが進行方向に魔法の灯りを投げかけた。

 何体ものオーガが浮かび上がる。


「この作戦でホントに大丈夫なんでしょうね!?」

「泣き言ばかり言うな! 一撃当ててすり抜けろ! 足はこっちが上だ!」

 

 オーガが手に持った武器を振り下ろしてくるが当たる者はいない。ナグダム、リード、レントゥスは僅差で躱しながら眼や足先を狙った。

 しばらくすると周囲の温度が上がり始めた。反比例するように襲い来るオーガの数が減っていく。

 

「……【火竜の恩寵(バーングレース)】」


 ミラが耐性向上の魔法を唱えると、六人は火の海に突入した。

 そこかしこにオーガが倒れている。生命力が強いせいで肺腑が焼かれているにも関わらずまだ生きているようだ。

 パチパチと生木の爆ぜる音が聞こえてくる。


「――やはりな。オーガ共も分断されている」

「どういうことよ?」

「這いずっているオーガ共の向かう方向を見ろ。もしあの爆発を起こした敵が北にいるのなら奴等は南へ逃げようとするはずだ。だがこいつらは北へ向かっている。――つまり、ここにいる奴等にとって爆発は南で起こった」

「……でも私達のいる南へ逃げた集団もいる。つまり――」

「戦闘は群れの中程で始まったって事だ」

 

 その時、オーガの生き残りを警戒していたレントゥスは妙なことに気が付いた。


「ナグダム。あれを見てください。炎で死んでない」

 

 指し示す方向を見ると身体が分断された死体がある。それも一つや二つではなかった。

 何かが引っかかったナグダムは死体を調べにいく。


「ちょっと! そんなことしてる暇あるの!?」

「……サラ、ちょっと我慢」

「う……、お姉ちゃんがそう言うなら……」


 見れば見るほど綺麗な死体だった。切り口が、である。長年の戦場経験を持つナグダムでもこれほど綺麗に切断された死体を見るのは初めてかもしれなかった。

 同じような死体が周りに転がっている。

 何が、とは説明出来ないが何かが頭に引っかかる。

 

「レントゥス、何か違和感を感じないか?」

 

 様子を見に来たレントゥスに訊ねる。


「う~ん……。どれも同じような切り口で同じような場所を切られてますね」

「同じような場所……か。この死体とあっちの奴は微妙に違うみたいだが……」

「……いえ、そっちの意味ではなく、位置的な意味のです」

「どう言う意味だ?」

「この死体は腹部が切断されていますが」レントゥスは離れた所にある死体を指差す「あっちの死体は腰の少し上です。こちらにある死体の方が少し大きいようなので場所は違いますが高さ的には同じかな、と」

「高さだと?」


 ナグダムは他の死体も観察した。成程、確かに身体的な意味ではズレがあるが、大きさを考慮するとほぼ同じ高さで切断されている。

 剣士であれ魔法士であれこのような無駄なことをするだろうか?

 個体によって大きさが違うならそれに合わせて攻撃する場所を変えるのが一般的である。これではまるでどこを狙うか最初からきまっていたようだ――


「――まさか」


 切断箇所の高さをつぶさに調べる。死体の真横に行きその高さにゆっくりと腰を落とした。

 じっと目を凝らす。

 ――うっすらとだが何かが見える。すごく細い。ただ歩いているだけでは絶対に気づけないだろう。


「なんだこれは!?」


 手を伸ばそうとしてやめる。死体の状態を思い出したからだ。


「一体なにしてるのよ? 状況わかってるの、あなた達!」

「――俺の前の空間には絶対くるなよ。死ぬぞ」


 無造作に近寄ってきたミラとサラに警告する。


「……どういうこと?」

「ここに何かある」

「何かって。……何もないじゃない」

「レントゥス、矢を」


 矢を借り受けたナグダムはリードとポーマックも呼び寄せ、五人の前でオーガの死体の上に手に持った矢を振り下ろした。

 矢が中間程で綺麗に分断される。


「……なにこれ」

「見えにくいがここに糸のようなものがある。オーガの肉体を簡単に真っ二つにするくらい鋭いものだ」

「なんでそんなものがあるのよ?」

「誰かが仕掛けたんだろう。暗殺者が使う鋼糸に似ているがこれはより細い」

「それで、これを仕掛けた奴が森にも火を放ったってワケ?」

「……恐らくな」


 ここからは罠を警戒しながら進まなければいけないだろう。見落とせば即、死に繋がる。

 

「こんなことをやりそうなのは人間くらいだが……」

「なんであいつらがこの森にいるのよ?」

「俺に訊いてもわかるわけなかろう」

「……でもなんでオーガの群れに攻撃を?」

「エルフを助ける為……とか?」


 レントゥスの言葉に全員顔を顰めた。


「あいつらがそんなことのために命をかけるワケないじゃない!」

「……奴隷にするため」

「考えてもわからんことに時間を使うのは止せ。ここからは俺を先頭に一列で、剣を身体の前面に立てて持ちながら進む。列を離れるときは矢や杖でそれぞれ代用しろ」

「杖がなくなったら詠唱が省略できないじゃないのよ!」

「……サラ。死ぬよりはマシ」

「ううう……」

「先に進むぞ。あまり時間がない」

「急いだら死ぬじゃないの!」

「サラさん……」


 レントゥスが困った顔をする。ミラは苦笑してサラの頭を撫でた。

 

「……まったく。とんだ貧乏クジだ」


 溜め息をつき、剣を捧げ持って歩き出すナグダム。五人はその後ろを恐る恐るついていく。

 そして――


「見て! 火が回ってないわよ!」


 ――森の中に突如現れた場違いな空き地のような場所に出た。







「GURAAAAAAAAAAA!!]


 吠えながら手に持った棍棒を叩きつけてくる人型の生き物。

 身の丈は二メートルを越すシドよりもさらに頭二つ三つ大きい。筋骨隆々の身体に申し訳程度の腰布を巻き、赤茶けた肌をしている。

 種族名は――オーガ?

 ドリスの早い仕事に苦笑が湧く。

 躱した棍棒が地面を叩く。土がえぐれ、穴が空いた。見掛けにふさわしい力を備えているようだ。

 喉元に向けた槍を軽く突き出す。

 物体のエネルギーは速度と質量に比例する。そしてエネルギーを接触面積で割った数値が貫通力になる。非常に大雑把だが、これに彼我の強度や歪曲率を加え比較すれば破壊できるかわかる。

 ――喉を貫かれたオーガが血を撒きながら倒れた。

 重いということはそれだけで脅威足りうる。

 シドは突如として現れたこの敵の重量を三~四百キロ前後だと目算していた。自身の半分以下である。

どんなに上背があろうとも質量が伴っていないこの敵は、シドにとってみればスポンジと同じだ。

 焼夷手榴弾によってあがった火の手から逃げ出そうと走り回るオーガを、見つけ次第仕留めていく。

 

『これが追っ手ということはないですよね……』

「さあな。どちらにしろ大した頭は持ってなさそうだ」

『罠なんか仕掛けるからですよ。「とりあえず融和政策でいく」なんていってたのはどの口でしょうか』

「兵士の言う融和政策なんてそんなもんだ」


 シドは倒したオーガが取り落とした武器を拾う。ほとんどが打撃武器だがたまに剣を使っている個体がいる。これはツーハンデットソードといわれるものだろう。

 左手で何度か振ってみる。


『剣なんて使えるんですか?』

「使うだけならな。船のデータベースから動きをダウンロードしてマクロを組めばいい」

『行いますか?』

「……いや。自分の体躯が勝手に動くのはあまり好きな感覚ではない。それに頼りない感じがするな、これは」

 

 剣で敵を斬りつける時、使用者の振り下ろす速度と力が強いほど、剣に掛かる負担が増す。対象を切り裂ければ問題はないが、対象が頑強でそれが不可能だとしたら剣は停止するか使用者の手から弾かれる。

 だが、もし使用者が握り込んだ手を振り切ったら? 弾こうとする反力を力任せに押さえ込んだら?

 その時、剣は折れるだろう。特にこのタイプは斬るのではなく叩き潰す使い方をすると記憶にある。

 シドは剣を放り投げると別のを探す。


「あれが良さそうだ」


 そういって拾ったのは棍棒の先に刺付き鉄球がついた武器だ。


星球武器(モーニングスター)ですね』

「これが頑丈そうでいい。どちらにせよ叩き潰す使い方をするのなら太いほうが折れにくいだろう」

『でもどうして武器を拾うんですか?』

「射撃槍は威力が高すぎるからな。いざという時はこれを投擲する」

『ケチらないで銃を持ってくればいいのに……』

「切り札は最後まで取っておくものだ。……試しに使ってみるか」


 手頃なオーガを探す。来なくていい時は襲ってくるが、襲って来て欲しい時には来ない。


「……人生とはままならんものだ」

『使う場面が全然違います!』


 そういえば……、とシドは思い出した。


「エルフのことをすっかり忘れていた」

『あーっ!!』

「もしかすると巻き添えで死んでいるかもしれん」

『私のエルフがぁ!』

「そう喚くな。今から向かう」


 空き地に足を向けるシド。そこに横手からオーガが飛び出した。火によって森全体の温度が上昇しているせいで熱源探知が効をなさない。

 ギリギリで躱せると判断。左にステップする。オーガは振りかぶった手斧(ハンドアクス)を力任せに軌道修正し、シドの頭に振り下ろす。


「――チィッ」

 

 右手の射撃槍で受け流す。火花を散らしながら斧が滑っていく。

 微かに驚いた顔をするオーガ。手斧(ハンドアクス)から手を離し、裏拳(バックナックル)でシドの顔面を狙う。

 シドは上に掲げていたモーニングスターを、頭ではなく向かってくる敵の右手に叩きつけた。


「GA――!!」


 悲鳴を咬み殺すオーガ。右手がほぼちぎれている。

 シドは射撃槍の穂先を腹部に突き立てようとし、そのオーガが鎧を着ていることに気付いた。

 殺すのをやめ、右足で鎧の上から蹴る。巨体が十メートル先に飛んでいった。 

   

「GUUUUUUU!]


 のろのろと起き上がるオーガ。シドは泰然とそれを眺めた。このオーガは腰布だけの個体とは大違いだ。要所要所をしっかりと革製の防具で覆っている。

 オーガの視線が横に微かにずれた。咄嗟に後ろに飛び退くと、直前までシドがいた地点に棍棒が振り下ろされた。

 左手のモーニングスターを下からカチ上げる。棍棒を振り下ろしたオーガの顎を粉砕し、顔が半分になった。

 その一部始終に、鎧を着たオーガは毒のこもった視線を投げかける。シドが一歩前に歩くと、よたよたと逃げていく。方角は空き地の方だ。


「後を追うぞ」

『なんで逃がすんですか! エルフの方にいっちゃったじゃないですか!』

「知恵がありそうだったからな。生きて捕まえられそうならそうするつもりだ」

『あんなのよりエルフを優先してくださいよ!』

「そのエルフが死んでいる可能性が高いからだろうが」

『私のエルフがぁ!』

「それ、さっきも聞いたからな」

『馬鹿ぁ!』


 空き地に近付くと、身体が切れて死んでいるオーガの数が増える。火で混乱をきたしたのだろう。かなりの数が罠にかかっていた。

 

『GOAAAAAAAAA!!』


 前方から巨大な雄叫びが聞こえてきた。


『……なんかいるみたいですよ、マスター』

「らしいな。オーガ共のボスかな」

『だからやめようっていったんですよぉ』


 シドは溜め息をついた。


「――なぁ、ドリス」

『なんですか?』

「あの空き地が誰かが造ったものだろうが、椅子がオーガのものだろうが、明日になれば全ての問題は片付いてるさ」 


 右手に射撃槍(スピアーガン)を、左手に血の滴るモーニングスターを持ち、オーガ共の死体の中を歩きながらシドは続けた。


「――俺の邪魔をする奴は皆殺しだ」






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