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永遠の戦士  作者: ブラック無党
美女と野獣
18/125

王都にて―地下道・侵入―

何故かコメディー成分が多くなる・・・・・・

 上から降ってきた身体に両手を差し伸べる。背中と膝裏に腕を当て、地面スレスレまでの距離を使い、自身の腕と膝を曲げながら骨と内蔵に問題が起きない範囲で衝撃を吸収した。

 機械の精確さで一連の行動を四回。最後の一人――レントゥス――を下ろしたシドは降ってきた先を見上げた。

 大きなドーム状の空洞の天辺辺りに穴が空き、さらにその奥にも同じような穴がうっすら見える。

 どうやら、宿の地下室をブチ抜いた先には地下空間があったらしい。

 埃っぽく空気が冷やりとしている。長いこと使われていないようである。


「ちょっと……お姉ちゃんどこ……?」


 サラが震える声で云う。

 光が差し込まないここはひどく暗い。さしものシドの光学センサも光を一切拾うことのできない状況では物を見ることはできない。探知する波長を切り替えるとエルフ達の姿がぼんやりと浮かび上がるが、それだけでは周囲の様子はわからない。

 超音波センサを使用して立体図を組み上げ、エルフのデータをそこへ投影する。詳細な部分はわからないが、一応、動くぶんには問題ないだろう。


「まったく見えないのですが……」

「……困った」


 エルフ四人はシドの外套を掴んでいる。こう暗くては文句を云う気力も湧かないのか、サラも大人しくしていた。

 この空洞は分岐点になっているらしく、四方に道が伸びている。


「道が四つある。一本は真っ直ぐに街の外へ向かっているようだが、外に出てしまえば入り直すことは難しい。そちらの道は論外だ。残りは城の方へ一本。どこへ通じているのかさっぱりなのが二本だ」


 街の方角と自分の向いている方角から道の伸びる先を予測する。


「アンタ見えてるの? ……どういう目をしてるのよ」

「……とりあえず灯りが欲しい」

「魔法で何とかならないのか?」

「――あ。……そうだった」


 うっかり忘れていたミラ。すぐに、


「『器に満ちるマナよ、我が意志の元に闇夜を照らす灯火とならん――【永続光(エターナルライト)】』」


 唱えると、掌の上に輝く球体が滲み出てきた。

 闇が一気に払われる。砕けた石の床の上、シドの外套を掴む四人の姿が白日の元に晒された。


「……ゴホンっ」


 ターシャが気まずそうに手を離す。残りの三人も後に続くと、そっぽを向いた。


「それはどのくらい持つ?」

「……これは簡単だから、他の魔法を使わない今だったら気にしないでいい」

「便利な物だな」


 シドは感心する。これなら科学技術が発達する余地はなかっただろう。今だ蝋燭で生活しているのも頷ける。


『これって呪文は適当に決めていいんでしょうかね?』

「(……何故そう思う?)」

『いえ、さっき上で固有魔法がどうのこうの云っていたもので』 

「(……聞いてみるか) ――その呪文は何でもいいのか?」

「そんなワケないでしょ。ちゃんと練習した言葉じゃないと無理よ」

「練習すれば誰でも使えるわけか?」

「はぁ~? アンタってばホント何にも知らないのね」


 サラがやれやれと首を振る。


「身体に魔力を蓄積する才能と、イメージ通りに変換して外に出す才能がいるのよ」

「……成程。それで?」

「……お姉ちゃん、パス」


 ミラに説明を丸投げするサラ。

 シドがミラに顔を向けると、


「………」

「……それで?」

「……教えて、欲しい?」


 瞳の中にそこはかとない嗜虐心が透けて見えた。


「……さて、そろそろ行くか」


 シドは四本ある道のうち、城の方へ向かう道を選び取った。

 ミラが後ろを小走りでついてくる。


「……嘘、教える」

「……さっさと云え」


 シドは歩みを止めない。残りのエルフ達も来ているようなので、このまま進みながら聞くことにした。

 どうやってくり抜いたのか、滑らかな質感の壁がずっと先まで続いている。別れ道はたくさんあるが、突き当りにぶつかるまでは直進する。


「――ゴホンッ。……魔法士が呪文を使うのは、小さい頃から練習して、言葉とイメージを関連付けてるから。そういう意味では呪文はなんでもいいと……云える」

「身体に覚え込ませるというやつか」

「……そう、その組み合わせでイメージを確定する。でも結局はみんな同じ呪文。それが杖のせい」

「ふむ。……で?」

「杖に嵌め込んである魔導石には呪文が刻印してある。……それに魔力を放出すると、変換を石が代わりにやってくれる。……でも、自分が使ってる呪文と違う言葉だと、石と同期できない。だからイメージを代わりに変換できない」

「自分の身体に覚え込ませた呪文を刻めばいいんじゃないのか?」

「……それは無理」


 ミラはふるふると首を振る。


「魔法士と魔導士は同時になれない。そして魔導士は魔法士個人に雇われるのを嫌うから……」

「魔導士?」

「刻印する人をそう呼ぶ。そして……刻印するとき、呪文を魔力で固定化する。けど、呪文とイメージを関連付けてる魔法士がやると、刻印じゃなくその魔法が発動する」

「ということは……自分が使えない魔法なら刻印できるわけか」

「それは、そう。……でも誰もそんなことやらない。刻印してしまうと、その人はもう二度とその魔法が使えなくなるから」

「うん? ……刻印とやらをした後、その魔法を身体に覚え込ませればいいのではないか?」

「……云った筈。変換を肩代わりさせる時、石と同期すると。同期すると、固定化してる魔力も変化する」

「……つまり、使えなくなるっていうのは、実際に使えなくなるのではなく、使ったら刻印が駄目になるから実質使えないということか」

「そう、それがいいたかった……」

「個人的に雇われるのを嫌うというのは?」

「……そんなことをするのは、大抵が戦いに魔法を使う魔法士。昔、そういう人達は、刻む呪文から効果がバレるのを嫌って――」

「魔導士を処分したか」


 コクリと頷くミラ。


「……ちなみに、身体に魔力を蓄積するのはどうやるんだ?」

「それは気にしなくていい。……呼吸だから」

「…………」

『……マスターって呼吸していませんよね』


 つまり、シドは魔法を使うことが出来ない。その背が、心なしか落ち込んだように見えた。

 しかし――シドは胸のつかえが取れた気がした。これでこの世界の最大の謎である魔法についてだいぶ理解が進んだと見ていい。残るは魔力とやらの正体だが、これはこの世界の住民でもわかっていない可能性もある。地球人ですら、空気が何でできているのかなど、かなり後になってわかったことだからだ。 


「そろそろ授業は終わったかしら~?」


 サラが頭の後ろで手を組みながら、からかうように云う。


「――チッ」

「――ちょ、ちょっとアンタ! 今舌打ちしたでしょ、舌打ち!! 折角人が教えてあげてんのに、なんて態度よ!?」

「教えたのはお前ではないだろう。――ミラよ、お前には最高の杖を買ってやろう」

「うっわあ……、コイツ最っ低!」

『……マスター』


 少女の甲高い喚き声が、地下道に反射して大きく響く。

 喚いている本人とシド以外の三人は迷惑そうだ。


「ところで、何故こっちの道を選んだんでしょうか?」


 そう、ターシャがシドに訊ねた。


「この都市は城へ近づくほど住人の身分が上になっているようだからだ。もし奴等が俺達を追ってくるとしたら、この道以外からだろう」

「でも、一体何の目的で造られたんでしょうね……?」

「さあ、な」


 それきり誰も口を開かなくなる。コツコツという五人分の足音だけが響く。

 しばらくして、誰からともなく足を止めた。

 ――分岐点だ。

 右と左へ、闇がポッカリと口を開けている。ミラが灯りで左右を交互に照らすが、まだ先は長いらしく奥を窺うことはできない。


「さて、どうしたものか……」


 首を(ひね)るシド。


「迷うことないわ。こういう時は多数決よ!」


 自信満々に云い切るサラ。シドはそれを冷たい目で見た。


「そうか。ではまずお前から選ぶがいい」

「えっ、私から? ――そ、そうね、私は右がいいと思うわ。な、なんとなくだけど」

「……なら俺は左だな」

「では私も左で」

「……僕もそれでいい」

「……左で」

「――え?」


 皆の言葉に、口を開けポカンとするサラ。

 

「決まりだな。俺達は左。お前は右だ。死なないように頑張れよ」


 そう云って左に歩き出すシド。エルフの三人も従いてくる。

 一人立ち尽くしていたサラが、


「ま、待ちなさいよっ! どっち行くか決めるんでしょ!? 二手に分かれるんじゃないでしょ!?」


 そう叫ぶが、シド達は止まらない。


「――ま、待ってよ! やっぱ私も左にするわ! と、止まりなさいよ! ていうか止まって! 置いてかないでよっ!!」


 最後には涙目になって云う。

 シドは立ち止まるとゆっくりと後ろを振り返った。そしてサラと目を合わせ、


「――フ」


 と笑う。見れば、ターシャとレントゥスの顔がヒクついている。そしてミラに至っては完全に隠す気がない。

 サラの顔が真っ赤に染まった。


「あ、アンタってヤツは……」


 ぎり、と歯を食いしばる。拳を握り締め大きく振りかぶると、


「死ねえぇぇぇーっ!!」


 シドに向かって駆け寄り、叩きつける。

 危なげなく躱すシド。勢い余ったサラはバランスを崩し、前に倒れ込んだ。


「――いっつう~……」


 うつ伏せに転んだサラは、顰めっ面で床に手をつき、起き上がろうと力を込める。

 ――ガコン

 手元から妙な音が聞こえてきた。


「――へ?」


 右手を見ると石でできた床が正方形に沈み込んでいる。

 ――なにこれ、と首を伸ばし後ろを見る。

 サラの目にとんでもないものが飛び込んできた。


「――あ」


 天井が下に向かって開き、その中に半月型の巨大な刃が見える。

 見ている間にもそれは枷から解き放たれ、重力の導きに従い大きく半円を描き下りてきた。

 瞳を大きく見開いて固まったサラに、足でも抉いたかと思ったシドが声をかける。


「どうし――」


 ――ドゴォッ、と、シドの後頭部に巨大な鉄塊が直撃した。

 不意を突かれたシドは前のめりに倒れる。


「……え」

「――ッ!? キャーーーッ!」


 不思議そうな声をあげたのはレントゥス。悲鳴をあげたのはターシャだ。ミラは目を丸くしている。

 エルフの三人は慌ててシドから離れた。

 地下道の真ん中を、不気味な風切り音をあげ巨大な刃が前後に揺れる。

 

「……嘘」

 

 間違いなく死んだ――エルフの誰もがそう思った。

 

「……ぐ」


 呻きながらシドが上体を起こした。

 エルフ達は一斉にさらに距離を取る。


「……生きてる」

「嘘でしょ……」


 シドは手を伸ばし、刃を止めるとサラを睨み付ける。


「……おまえ」


 サラの身体がビクンと跳ねた。

 睨むシドから視線を逸らす。冷たい汗が背中を伝い落ちた。


「――お」


 ――お? 

 一体どんな云い訳をするつもりなのかと、皆が耳を傾ける。


「怒っちゃいやん」


 ――バカ、とミラが小さく呟いた。









「急げぇっ! さっさとせんか貴様等ぁ!!」


 アトキンスの胴間声が夜の静寂を打ち破る。

 横で小さくなっているのは、恐らく二等街区の巡回兵長だろう。さすがにその程度の身分では、貴族の子弟であり百人長でもあるアトキンスには逆らいづらいのか、云うがままに兵を動かしている。

 ランタンや松明を掲げ持った兵士達が、封鎖された格子扉をこじ開け、口を開けた入口にどんどん突入していく。

 アキムが見ている間だけでも、百人を越す兵士がその中に入っていった。下手をしたら巡回兵全てを呼び集めた可能性もある。


「こんな大事になってしまうなんて……」


 建物の陰に座り込んだキリイが頭を抱えている。

 もうこれは、騎士が宿舎を抜け出したとか、一般人に手を出したとか、そんなレベルの話ではない。


「アトキンスは間違いなく死刑だな」


 アキムがそう断言する。例えシドやアキム達に殺されなかったとしてもアトキンスの命はない。あの中に兵士や騎士を突入させるということはそういうことなのだ。

 アキムは、帷子(かたびら)と鉄兜、鉄で補強された丸盾という軽装で送り込まれる兵士達に同情した。

 本好きの妹の影響で、アキムもたくさんの本を読んできたが、その中の一冊に王都の地下道について記された物があったのを覚えている。   

 記憶が確かならば、あの先に続く地下道が造られたのは五百年以上前だ。大戦直後の、まだ高地(ハイ)エルフ達の脅威が身近に存在した時代である。

 王都に侵入された時の為、当時の魔法技術の粋を凝らし掘られた地下道は、信じられない長さと複雑さを持つ。そして問題なのは、当時の仕掛けの大半が未作動のまま残っていることだ。今は当時と違い、そこを守る兵士はいないが、それでも攻略するには千単位の数が必要になる筈である。

 もはや魔窟といってもいいそこへ、アトキンスは無造作に兵を送り込んでいるのだ。

 アキムはゴクリと唾を飲み込んだ。あの地下道ではこれから、シドやエルフ達――暴れん坊(グランド)ヴェガスとその手下達――そしてアトキンスと奴の送り込んでいる兵士達――の三者が、致死の罠の中で殺し合いを始めるのだ。

 

「今ならまだ間に合う。部屋に戻って寝てしまおうぜ」


 キリイの言葉に頷きたくなる。だが、アトキンスの死を確かめねば枕を高くして寝ることなどとてもじゃないができない。


「――ダメだ。アトキンスは始末する。俺達も行くぞ」

「……勘弁してくれよ、ホント」


 渋るキリイを引き連れて、建物の陰から陰へ移動する。

 向かった先は通水路だった。地下道の一部を再利用して造られたここからなら侵入できる筈だ。

 錆びた格子の鍵に剣を差し込み捻る。

 壊れた鍵を捨て、鎖を引き抜くとゆっくりと扉を押し開いた。

 腰に下げたランタンに火を灯すと、石の壁に二人の影が浮かび上がる。


「……俺、なんでこんなとこにいるんだろう」

「ぐだぐだ云うな。俺だってチビりそうなくらい怖いんだよ。お前は俺より年上だろうが」

「こんな場所で年なんて関係あるか。……今度、息子が寝る時にここの事を話してやろうかな」

「……お前最悪だな」


 家族思いなのか、そうじゃないのかよくわからないキリイの呟きにそう返すアキム。

 

 ぼそぼそと話しながら歩く二人の声が、闇の中に消えていった。


次回更新は、おそらく水曜日です

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