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永遠の戦士  作者: ブラック無党
美女と野獣
12/125

道中にて―対峙―

サブタイトルめんどくさい・・・・・・

「おいおい、こりゃちょっと数が多すぎるんじゃないのかね……」


 アキムは思わず呟くと、はっとしてシドに目をやった。

 聞こえなかったようで、シドはアキムと同じように木に姿を隠し無言で下を見下ろしている。

 アキムは視線を戻した。目下では森林迷彩を施した革鎧の兵士たちが事後処理に当たっている。

 死にきれない騎士たちに止めを刺して回っているのだ。

 シド一行がいるのは崖のように高くなった森の中腹である。敵が待ち構えていた場所に潜伏し、襲撃の機会を狙っているという皮肉にアキムは可笑しくなった。

 改めて数え直して見ると、敵は三十人はいる。死体の数から最初は五十人以上はいたようだ。騎士の数が三十だったので妥当なところだろう。問題があるとすれば――

 アキムは襲う側である自分達の数を思い浮かべ、暗い気持ちになる。減ったとはいえまだ三十人も残っている敵とシド率いる自分達。三十対五である。シドを敵兵にぶつけ漁夫の利を得ようとした、寸前までの自分を殴りつけたくなってくる。

 

「あの一人だけいる女が伯爵か」

「あ、ああ。奴等の狙いは彼女だろうから殺されることはないと思うが、もしかしたら人質にとってくるかも」

「その場合は無視して敵を殲滅する」

「え? いいのかよ……」

「まず水。その次に伯爵とやらだ。優先順位を間違えるなよ」


 普通逆じゃないの? とアキムは思ったが口には出さない。付き合いといえる程のものではないが、この短時間でシドという男がだいぶ変わり者だというのはわかっていた。


「あの生き残っている捕虜共は?」

「捕虜?」


 アキムが視線を凝らすと、まだ生き残っている味方が目に入った。武器を奪われ両手を頭の後ろに回し跪いている。


「――げぇ。アトキンスの野郎もいるじゃないか」


 その中に隊長の姿を見つけてそう漏らす。


「アトキンス?」

「俺達の指揮官だ。護衛の騎士のな。嫌な野郎なんだが……まさか生きて降伏するとは」


 普段のアトキンスの様子からすると死ぬまで抵抗してもおかしくなさそうなんだが……。やはり伯爵を人質にとられたのだろうか、とアキム。

 シドはそんなアキムを見て、捕虜の命にはこだわる必要がないと結論を出す。 


「魔法士というのはどいつだかわかるか?」

「勿論だ。――あの、背の低いローブを着た奴だ。間違いない」


 アキムが指す方向には伯爵がいる。そしてその傍に数人の兵士達と共に云われた通りの格好をした背の低い男がいた。


「ここから槍を投擲すれば殺せるが……」

「そいつはダメだ。角度が悪けりゃ伯爵も串刺しにしちまう。できるなら助ける方向で頼むよ……」

「まぁ、いいだろう。そろそろ向かうぞ」

「お、おい。まさかこのまま行くのかよ!? もうちょっと作戦とかないのか!?」

「ないな。――お前にはあるのか?」

「いや……俺にもないけど……」

「俺が魔法士とやら。お前が伯爵。オーガ達が敵兵。それで良かろう」


 シドはそう云うとオーガ達を呼び集めた。そして敵を指し示し、


「あいつ等が見えるな。――ここから見える緑色の鎧を着た人間を皆殺しにする。逃げる者を追うよりも多く殺す方を優先しろ。いいな?」


 オーガ達が喉で唸り声を上げながら嬉しそうに頷く。

 アキムはそれを恐ろしげに見ながら、


(――ホントに大丈夫なのかよ、こいつ等。俺ってもしかしてとんでもない事態を引き起こそうとしてるんじゃ……) 


 そう思う。しかし既に賽は振られている。このまま突き進むしかない。


「アキム、お前は最後尾を付いてこい。まずは俺が敵の初撃を引き受ける」

「引き受けるってアンタ……。弩をどうやって引き受けるんだよ」

「見ていればわかるさ。もし俺がそれで死ぬようならお前は逃げても構わんぞ」


 シドはそう云うと下に下り始める。その後ろをオーガ三体が忠実な番犬のように付き従った。


「……マジかよ」


 アキムは溜め息をつくと、云われた通り遅れて下り始める。どうせ選択の余地はないのだ。逃げるにしてもシドが死んでからである。

 ――視線の先では、敵兵が弩をシドに向かって構えていた。

 




 木々の間から出てきたシドの姿を捉えると、敵の兵士達がいっせいに弩のハンドルを巻き上げ始める。そして巻き終えた者から順次矢を番えた。

 シドは弩の射線上に身を置きながら、悠然と足を進める。

 敵の狙いが、シドとオーガの間でふらついているのがわかった。

 オーガの肉体が頑強とはいえ、弩を受ければただでは済むまい――そう思ったシドは敵の狙いを自分に集中させる為、ある程度の距離まで詰めた後いきなり走り出した。  

 まずは伯爵の元へ――

 シドの向かう先を見て取った敵の誰か――指揮官だろう――が叫ぶ。


「射殺せ!」


 その直後、シドの元に数十本の矢が殺到した。

 シドは高耐久を極限まで突き詰められて設計された兵士だ。重要な部分の殆どは分厚い体殻の内側にある。眼球である電子センサは唯一といっていい露出部分だが、それを科学者が考慮しない筈がない。センサそのものを覆う特殊偏光ガラスはダイヤモンド並の硬度を持ち、傷ついた部分はナノマシンで自動修復される。だが、それも外皮と同じで再生には時間が掛かる。

 シドは眼球のある顔を腕で覆うと、重戦車のように突き進んだ。

 矢が外套と外皮を突き破るが、その下にあるコーティングで弾かれる。外皮と違い純機械的なナノマシン群体で構成されたそれは、もとは粘着破砕弾や磁気地雷による吸着を防ぐ為のものだ。外界からの応力に対しナノセコンドで反応、分析し、構造を変える。それに覆われていないのは関節や掌、足の裏くらいである。

 

「――バカなっ!」


 敵がどよめく。

 一斉射が終わったと判断したシドは向きを魔法士と思われる人間へ変えた。弩を捨て剣に持ち替えた兵士が間に立ち塞がる。

 足を止めず、走りながら射撃槍を突き出す。貫通した槍が敵を縫い止めた。


「――チッ」


 槍に纏わりつくそれを鬱陶しそうに見やり、右手を振る。敵の身体が水平に飛んでいった。

 突くのではなく薙ぎ払うようにする。前方に立つ者は何人(なんびと)であれ、平等に肉を潰し骨を砕いた。大振りになった槍を抜けてきた敵がいても足を止めない。斬りかかる剣を無視して一トンを超える重さで弾き飛ばす。

 そもそも弩の矢を受けて平然としている者に剣が効くわけがない――そのことに兵士達が気付き、立ち塞がることを止めた時、シドの通った跡には十人近い犠牲者が転がっていた。

 そしてシドは――


「――よぉ」


 息のある敵兵の呻きや嘆きを聞きながら、目の前の老人に声を掛ける。

 後ろでは、オーガ達が喜悦の雄叫びを上げながら敵に襲いかかっていた。






「……これって現実か?」


 アキムは呆然と呟いた。

 目の前ではシドという名の男が、弩の矢を弾き、敵を弾き、遂には魔法士と相対している。その一部始終を目にしたアキムは、先だっての自分がどれほどの化物を斬ろうとしていたのかを悟り青くなった。同時に、その時死ななかった事を神に感謝する。

 どちらにせよこれで自分が死ぬ確率は低くなった。アキムは軽やかに駆ける。目指すは伯爵である。

 まだ二十近い敵兵が残っているが、殆どがシドに目を奪われている。冷静さを失わない兵士もいるが、彼らはそれ故にオーガから目を離すことができない。アキムの目には伯爵へと至る道程がキラキラと輝いて見えた。

 暴れまわるオーガの間をすり抜け、シドの後ろを通る。気づいた兵士が一人、アキムを止めようと襲いかかった。他はシドに近づくのを躊躇している。

 

「へっ。――邪魔すんなっ!」


 走りながら剣を突き出す。敵兵は上手く躱し、斬り返してくる。

 ――だが、遅い。アキムは打ち合わずそのまま後ろも見ずに走り抜け、


「――任せたっ!」


 シドにそう叫んだ。

 アキムを追おうと背を向けた兵士が、ぎょっとして後ろを振り返る。その顔に槍が突き刺さった。

 

「――ヴィダレイン伯!!」


 もう伯爵はアキムの目の前だ。伯爵は後ろ手に拘束されている。そしてその前にいる敵兵は二人。たった二人だ。あとたった二人倒せばアキムは大手柄とともに胸を張って王都に還れるだろう。

 最後の二人がアキムの前に立ちはだかる。

 片方がヴィダレイン伯爵の喉元に剣を突き付け、


「――動くな! そこまでだ小僧」


 立ち止まったアキムは歯噛みした。こうなってはアキムに出来ることは少ない。何か手はないものか……。そう思って辺りを必死で見渡す。

 伯爵の側に拘束されているアトキンスが目に入った。敵でも見るような眼つきでアキムを睨んでいる。


(くそったれのオーガもどきめ。本物くらい働いてみろってんだ!)


 敵兵の一人が近づいてくる。ジリジリと距離を取るアキム。


「動くなと云っているだろう! 伯爵がどうなってもいいのか!?」

「……くそっ」


 アキムがいよいよ覚悟を決めたその時、視界の端に立ち上がろうと力を蓄えるアトキンスが目に入った。

 敵兵が剣を振りかぶる。アキムが反撃することなど予想もしていないのか隙だらけだ。

 アキムは、しめた、とばかりに剣を向け、体ごとぶつかる。刃がぞぶりと肉体に沈んだ。


「――がっ!? ……ぁ」

「――貴様っ!?」


 仲間が殺されるのを見て、残りの敵が伯爵を手にかけようとした。――が、直前、アトキンスが拘束されたまま体で突き飛ばす。

 

「おらぁぁ!!」

「――ぐはあっ!?」

 

 吹き飛ばされる敵。アキムは敵が態勢を立て直す前に伯爵と敵の間に割って入る。


「貴様等ぁーっ!!」

 

 怒りで形相を歪ませ、敵が斬りかかってくる。アキムは咄嗟に剣で防いだ。


「へっ。こうなっちまえばこっちのもんよ。せいぜいお祈りでもするこったな!」


 今度はアキムが斬りかかる。相手は弾くと間髪入れずに斬り返した。

 アキムが受け、斬りかかる。敵が斬りかかり、そして受ける。一見互角の攻防に見えたが、打ち合う内にジワジワとアキムの身体につく傷が増えていった。

 打ち合いながら、どうやら相手の方が剣の腕が上らしいと気づいたアキム。まともにやりあっては勝ち目は薄い。意表をつくしかないだろう。 


「――こなくそっ! これでも喰らいやがれっ!!」


 剣で相手の手を狙う。敵は剣をその場に留めたまま、一瞬だけ手を離しそれを躱すと、すぐに持ち直しアキムの喉に剣先を走らせた。


「ヤベッ」


 態勢を大きく崩しながら回避するアキム。隙だらけのそこへ蹴りがとんでくる。

 ぐはあっ、と涎を流しながら転がる所へ、敵の追撃が来た。

 アキムは尻を地面についたままなんとかそれを受ける。


「どうやら祈りが必要なのはお前の方だったらしいな」


 敵はアキムを見下ろし、ニヤリとしながら剣で威嚇する。

 アキムは立ち上がろうにも立ち上がれない。だからといって、このままではいずれ剣の餌食となってしまうだろう。

 

「止めだ!」


 突き出された剣を力いっぱい弾く。弾いてもすぐに次が来る。上半身だけの防御はアキムの体力をあっという間に奪う。

 アキムが助かる道は一つしかなかった。

 休みなしに繰り出される敵の剣を受けながら、


「シドォーー! こっちだ!! こっちにきてくれ!!!」


 アキムは思いっきり叫んだ。





「――任せたっ!」


 そう云って伯爵の元へと一直線に駆けるアキム。

 シドはそれを追おうとした敵の顔面に槍を突き刺した。

 足を体にかけ、引き抜く。そのシドの背に、


「ひょっひょっひょっ。戦場で敵に背を向けるとは、まだまだ青いのう」


 そう、声が掛かった。

 シドが振り向くと、ローブを着た老人が嗤っている。


『うえぇ。これはまた……』


 絶句するドリス。

 老人は黄色い歯を見せ、敵意に鈍く光る瞳を細めてシドを睨めつけている。その皮は皺だらけで、シドもこれほどまでに醜い人間を見たのは初めてだった。顔の造り云々ではなく、内面が滲み出ている。

 

「なに、お前如きに後ろを見せたからといってどうということもあるまいよ」


 その言葉に老人は醜悪な顔をさらに歪めた。


「最近の若い奴等は礼儀がなっとらんな。私はそういう輩を躾けるのが大好きでなぁ」


 カッカッカ、と嗤う老人。


「そんなに余裕ぶっていていいのか? 周りはどんどん死んでいるぞ?」


 シドは周囲を見回してそう云った。魔法もなく、圧倒的な数の利もない。統率された戦術もなければ人並み外れた身体能力もない。周りの兵士達はオーガを相手にみるみる数を減らしている。人並みの剣技だけを武器に個人で殺り合うにはオーガは重すぎた。

 

「別に構わんよ。あれは私の部下ではないのでね。ただの兵士の代わりなどいくらでもおるわ」

『感じ悪いですねぇ、この猿』

「(どうでもいい。どうせ今から始末するんだ)」


 シドは左手を前へ出すと掌を上に向け、人差し指をクイクイと曲げた。


「――かかってこい、老いたの。お前の代わりなどいくらでもいるということを俺が教えてやろう」

「――ほざけっ若造が! 貴様など挽き肉にして豚の餌にしてくれるわ!!」


 吠えた老人はねじくれた杖を突き出し、

 

「――【穿つ風(ヴォイド)】」 


 圧縮された大気が螺旋を描きながらシドを襲う。

 外套を引き裂き、外皮が捲れた。腰部のオートジャイロが、体躯のバランスを維持するためシドに腰を落とさせる。

 圧力に耐えたシドは一足飛びで老人の目前へ到達する。いつものように右手の射撃槍を、目を見開いて驚く相手に突き出した。

 

「なっ!? ――【鏡蜃(ミラージュ)】!!」

『――えええっ!?』


 いきなり老人が二人に分かれる。シドは驚くことも迷うこともなく、強引に軌道変更し右側の老人へ槍を突き刺す。穂先が相手を突き抜けるが、手応えがない。

 無言で懐に手をいれるシド。それに老人が――


「馬鹿めっ! そっちは幻影じゃ――わわわっ!?」


 左手で振り抜かれたヒートナイフを上体を仰け反らし辛うじて躱す老人。喉元にうっすらと赤い線が入っている。


「……浅かったか」


 老人は慌てて距離を取る。シドは追撃しなかった。右手に槍を、左手にナイフを持ち、悠然と相手を見下ろす。二メートルを越すシドと並べば、老人はまるで子供のようだった。


「ぐぐ……貴様、絶対に生かしては返さん」

「御託はいいからさっさとかかってこい」


 だが、老人は動こうとはしない。杖を構えながら慎重にシドの動きを窺っている。


『……どうして魔法をつかわないんでしょうかね?』


 ドリスの言葉に、かつてオーガとエルフが戦っていた時のことを思い出す。あの時もオーガ一体を相手に何故か膠着状態に陥っていた。もしかしてあれはエルフ達の不手際とかそういうのではなく――


「(試してみるか)」

『試すって何をです?』


 シドはいきなり駆け出すと槍で殴りかかる。老人の目が嗤った気がした。


「――【巨人の嘆き(タイタンズグリーフ)】」

「――!?」


 いきなり射撃槍の重さが増す。二人に別れてもまとめて薙ぎ払えるよう大振りにしたのが裏目に出た。

突然増大した重量にバランスが崩れる。持ち堪えることは出来るが、体躯の重量との対比を考え敢えて手放した。

 重さの余り、飛距離が出ず地面に落下する槍。

 バランスを崩したシドの肩に、老人がそっと手を置いた。そして――


「中々頑丈なようじゃが、これはどうかね。――【紫電衝(ライトニングサージ)】」


 ――シドの体躯(カラダ)から凄まじい光が弾けた。 



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