ミルバニアにて―設営―
その年、ガードル城近辺の村々は、火事の炎に包まれた。
――しかし村人達は、死滅していなかった。
「ギャッハー!」
エルフの駆る荷馬車の後部に乗っているゴブリンが、頭上で投げ縄をグルングルンと振り回す。
街道には大勢の避難民がいたが、爆走する馬車群は容赦なくその中に突っ込む。そして蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う人々に対し、後ろに乗ったゴブリン達は縄の先に作った輪を投げつけた。
「魔物だぁ!」
「逃げろぉっ!」
「きゃあああっ!?」
老若男女問わず逃げ遅れた者を輪に引っ掛けると、その縄は馬車に固定して別のを取り出す。そして次から次にと捕獲した。
「ハイヤッハイヤッ!」
重くなっていく馬車にエルフが手綱で馬を叱咤する。避難民の群れを横断仕切った時には、馬車一台の後部には十人近い人数が引き摺られていた。
「馬車を止めろ! オーク達は追跡だ!」
響き渡ったベリリュースの声に、バラバラと降り立ったオーク達が一斉に街道を外れて散っていく。その狙いはいうまでもない。
体力ない老人や子供から捕まり、次に若い女、男と続いた。抵抗する者は殺され、歩けない者は引き摺られる。そして馬車に連れて行かれると、先に捕まっていた者達同様縄で馬車に括りつけられた。
「よぉーし! そろそろいいだろう! 帰還の合図を出せ!」
ベリリュースは時間と人数を考慮に入れ、終了することに決めた。今から帰っても次の襲撃の時間は残らないだろう。エルフに呼び笛を鳴らすよう云い、集めた避難民をざっと眺めると、その数は軽く百を超えている。
「今日の仕事は終わりだ! 野営地に戻るぞ!」
馬車の向きを変えて来た道を戻る。元々長かった馬車の列はさらに長くなっていた。
捕まえた避難民の持ち物は全て取り上げ、道中倒れても放置して馬車は進む。
彼等は日が暮れる前に拠点へと辿り着いた。
「お疲れ様です」
ターシャがやってきて人数を数えながら避難民の受け渡しを行う。
「そろそろ範囲を拡大しないといけないようだ。もう近辺ではなかなか獲物に出会えなくなってきた」
「そうですか。ならこの後は――」
「今日はもう無理だろう」
「わかりました。伝えておきます」
ベリリュースはターシャと別れると野営地を横切り、自分の天幕へと向かう。彼は普段はあまりここで過ごしていない。大抵外で避難民狩りをしているからだ。しかし毎日あれだけ連れてきても、ここの野営地は決して人で溢れるということがない。
彼は足を止めると首を傾げながら働いている様子を眺めた。
「ゲャッハー!」
革紐を捩り合わせて作った鞭が、足を止めて休憩していた老人の背に容赦なく振るわれる。
「ああっ」
打たれた老人は肩に担いでいた土砂の入った袋を取り落とし、それを見て目つきを険しくしたゴブリン監督官は再度鞭を当てる。
「ぐっ」
老人は膝をついてしまった。振るわれる鞭から身体を庇おうと弱々しく手を翳す。
その態度が癇に障ったのか、ゴブリン監督官は三度、四度と続けざまに鞭を振るった。
「あつっ。お、お許しを――」
汗と埃で汚れた服が裂け、皮膚が弾ける。肉が割れて血が滲んでも鞭を振る腕は止まらなかった。
周りにはたくさんの人々がいるが、誰も止めようとはしない。目を背け、自分の番がこないことを祈りながら黙々と命じられた仕事に没頭する振りをしていた。
老人が地面に倒れ伏し、鞭が当たってもピクリとも動かなくなるとゴブリンは首から下げた笛を咥えた。
甲高い音色が現場に響き、それを耳にした者達はまた哀れな犠牲者が出たことを知って恐々とする。
笛の音が響き渡ってしばらくするとぎらぎらと輝く鎧を着たオークがやってきた。手には鈎のついた棒を持っており、それを倒れた老人の身体に引っ掛ける。
「――ぐぅ」
背中に深々と突き刺さった鈎に、老人が意識を取り戻して呻いたが、オークはそれに一顧だにせず鉤に引っ掛けた老人をずるずると引き摺って運んでいく。
「ぐぁぁっ」
爪が割れ、肉が見えても、痛みなど感じていないかのように老人は地面を引っ掻いた。彼が引き摺られた後には十本の線が描かれ、それは処分場まで続いた。
目的の場所に着くとオークは老人の背中に足を載せ、鉤を無造作に引き抜く。そうして、息も絶え絶えな老人を穴の中に蹴り落とした。
オークが穴の底を見下ろすとたくさんの死体や遠からず死体になるであろう人間達が折り重なっていて、落とした老人がその一番上で羽をもがれた蝶のようにもぞもぞと動いている。
オークは満足そうな笑みを浮かべ、穴の縁を見やった。そこでは他の同族達が同じように引き摺ってきた人間を穴に捨てている。中にはゴブリンやオークの死体もあった。調子に乗って鞭を打ち過ぎたものの末路だ。
――その時、遠くから笛の音が聞こえてくる。
穴の底を見ていたオークははっとすると慌てて仕事に戻った。
つい先日まで、他よりも少し大きな村に過ぎなかったこの場所は、今や血と汗、暴力と死、規律と狂気が渦巻く野営地へと生まれ変わろうとしている。
村の周囲は空堀と土塁、そしてその頂点に設置された逆茂木で囲まれ、監視台ではエルフが目を光らせている。辺りに点在する森や林は伐採され、馬で引き摺ってきた木材は計算された長さに切り揃えられる。岩石は砕かれ、不要な鉄は目的の形へと整えられた。
「シド! 大変だ!」
一番大きな建物で木の板に図面を引いていたシドは顔を上げ、駆け込んできたキリイに、
「どうした?」
「鍛冶師共が仕事を放棄しやがった!」
カリカリと木板を削っていたシドの手がピタリと止まる。
「奴等との交渉は済んでいる」
と、シド。家族や自身の命と引き換えに鉄を鍛つ。それがシドと彼等との間で交わされた約束だった。
「い、いや。それには文句を云ってないんだが……」
「さっさと云え」
「や、休みが欲しいと云ってる」
「寝る時間なら与えている」
「それはそうなんだが……」
シドは木板を手に立ち上がると、キリイにそれを押し付けた。
「次の材料だ」
「あ、ああ」
キリイが受け取ると天幕を出る。
「ライルにそれを渡した後、鍛冶師共の身内を連れて小屋にこい」
「了解……」
キリイは嫌な予感がしたが、云われた通り村長だったライルに木板を渡し、ゴブリン達を連れて一件の家に向かった。そこはエルフの見張り付きで、それだけでも鍛冶師達の存在の重要性がわかるというものだった。
「シドの命令で鍛冶場に連れて行く」
云うとエルフ達は気の毒そうな表情を浮かべる。何が起きるか理解している顔だ。
キリイがドアを開けて中に入ると、子供が三人と女が二人、老人が二人いた。二人の鍛冶師の妻と子供、その親だ。
「出ろ」
キリイは言葉少なに告げる。
「………」
しかし鍛冶師の家族達は動かなかった。子供は母親にしっかりと抱きつき、老いた親は憎々しげにキリイを睨みつける。
「俺は出ろと云ったんだ。自分達の立場がわかってるのか?」
キリイは苛ついた声を出した。こいつらは馬鹿だ。状況が全然わかってない。権力を持つ者の中には全く譲歩する気がない者がたまにいるが、キリイの知る限りシドはその最たる存在だ。出会ってからこっちシドはいろいろな人種、地位のものを敵に回してきたが、その間一度も譲歩したことがないし、敵を敵のままで逃したこともないのだ。
「云っておくが、あんた達大人の行動で割りを食うのは子供かも知れないぞ。女だから助かる。子供だから大丈夫だろう、などとは考えないことだ」
「お前達はそれでも人間か!」
年老いた男がいきなり怒鳴った。
「魔物に与するどころか人を家畜のように扱う! とても人間のすることではない! お前にだって産んでくれた親がいる筈だ! 両親にいまのその姿を見せられるのか!?」
「勿論だとも」
キリイは平然と返した。既にそのような葛藤は乗り越えているのだ。
「俺は家族のためにやっている。俺は俺の家族に幸福をもたらすため、他の家族に不幸を与えている。もし俺があんた達のことを考えて行動すれば、俺は二度と家族に会えなくなるし、家族は金に困ることになるだろう。それともなにか、あんたは自分達の家族のために俺の家族が不幸になってもいいっていうのか?」
「その言葉はそっくりそのまま返すわ!」
「全くその通りだな。お互い様ってやつだ。だから、俺が家族のためにできることをやっているように、あんた達も家族のためにできることをやるべきなんじゃないのか? そしてそれは俺達に大人しく従うこと思うぞ。少なくとも今の状況ではな」
キリイはゴブリン達に顎をしゃくった。
「連れて行け」
命令を受けたゴブリン達が七人に襲いかかる。
「離せ! わしに触るな!」
「きゃあああっ!」
「お母さん!」
ゴブリン達は七人を殴る蹴るした後、紐で縛って引き摺っていく。
キリイとゴブリン達は小川の横の水車に寄り添うように立てられた鍛冶場に向かった。
「遅かったな」
キリイは入った途端シドにそう声をかけられ、
「すまん。抵抗しやがったせいで」
シドは云われ、ゴブリン達が引き摺っている七人に顔を向けたが、問題ないという風に頷いた。
「お前達!」
鍛冶場に中にいた筋骨隆々の男二人が七人に気づくと急いで駆け寄る。
二人は鍛冶師で、室内にはその他に徒弟が四人いた。全員丈夫そうな革の手袋を嵌めており、槌ややっとこを持っている。木炭の汚れで全身煤に塗れていた。
鍛冶師の二人はゴブリンを押し退け紐を解こうとし、それに対してゴブリンが殺意を向けるが、シドはそれを手で制す。
「――さて。役者が揃ったところで始めるとしようか」
何を――とは誰も訊かなかった。人質が連れて来られた時点で皆、理解していた。
「この中に、最初の取り決めを破って職務を放棄しようとする輩がいる」
シドはゆっくりと顔を動かし、舐めるように室内を見渡す。そして――
「俺が実際に行動に出ることはないとタカを括っているのか……。愚かなことだ」
「違う! そうじゃない! 俺達はきちんと働く気はある! ただもう少し休憩時間を――」
鍛冶師の一人がそう云った。
「食事と睡眠の時間はちゃんと与えている筈だ。これ以上何を望む」
「それだけじゃないか! それ以外は全部仕事だ! もう気が狂いそうだ!」
「別に永遠に続くわけではない。もうしばらくの辛抱だ。それともお前は俺の下にいながら楽に生きようと思っているのかね? ――もしそうだとしたら大いなる間違いだぞ、それは」
シドは鉄の箱に入った浸炭用の木炭をスコップでザクザクと掻き回し、それを三掬いほど炉の中に放り込んだ。開口部からふいごで風を送ってやると炉は真っ赤な明かりを放ち、ムッとする熱気を放出する。
「弱い者達はいつだって我慢をして生きなければならない。周りに怯えながら巣穴から出、己より強いものが来たら道を譲る。時には飢えていても獲物を諦めねばならない。動物、植物問わず皆そうしているだろう? お前達は何故自分だけが特別だと思うのか。俺は非常に理解に苦しむぞ」
「お、俺達のことを、もっと考えてくれ! 鍛冶師が必要なんだろう!? 他の奴等より待遇を良くしてくれてもいい筈だ!」
シドは馬鹿を見る目で相手を見た。
「第一に、俺はまず自分の事を考える。主観を持った存在が他者のことを第一に考えることができるわけがあるまい。もし自分よりも他の生物を優先する奴がいたとしたら、そいつは自殺するしかない。第二に、鍛冶師はいたほうがいい。だから人質を取っている。そして最後、お前達の家族は仕事をしていない。これは十分好待遇だ。それとも外で鞭に打たれながら肉体労働をさせるのが好みか?」
「俺達の休みじゃないじゃないか! 死んだら元も子もない! ちゃんと協力してるんだ! もう少し労働時間を減らしてくれたっていい!」
鍛冶師達は一日の三分の二を働いて過ごしていた。食事と排泄以外、途中休憩はなしだ。
「このままじゃくだばっちまう! 俺は決して大袈裟に云ってるんじゃないんだぞ!」
「食事と睡眠がとれていれば大丈夫だ」
「そんな馬鹿な! 普通に考えればわかるだろうに!」
「ゴブリン達だって死ぬ危険があるのに文句を云わずに戦場に出ている。鍛冶師にも死の危険があってもバチは当たるまい。俺はこれでもお前達のことをちゃんと考えているのだぞ? 倒れたら働く時間を減らしてやろうと思っているのだ」
「た、倒れてからじゃ遅いんだよ! わかるだろう!?」
「お前のほうこそわかるべきだ。俺はお前達を死ぬ寸前まで働かせたい」
「そ、そんな……」
鍛冶師は呆然となった。なんでこんな簡単なことがわからないのか、といった風だ。
しかしそれはシドの側も同じで、両者は互いにわからず屋を見る目で相手を見る。
「戦場では犠牲が出る。なるべく犠牲が減るよう作戦を立てるが、だからといってそうしなければならない時に躊躇ったりはしないものだ。ならば鍛冶もまた同じだ。二人しかいないのだから死の危険があるのはおかしなことではない」
兵士という仕事は命を失う時とそうではない時がある。戦時と平時だ。そして鍛冶師にもそれがある。つまり今は鍛冶師にとっての戦時で、死の危険性はあって当たり前なのだ。それでもシドは別にわざと死なせようとするつもりはないので、倒れたら柔軟に対応する予定である。
だが鍛冶師はどうしても納得出来ないようだった。
「死んだら余計に仕事が捌けなくなるぞ! 長い目で考えてくれ!」
「お前は阿呆かね。働き過ぎたからといって即死する奴がどこにいるというのか。倒れさせて限界を見極めようとする俺のやり方が何故わからん」
「回復できなくて死んだらどうするんだ!? その時は!?」
「よく考えろ。倒れるかもしれないから休ませろというのを許してしまっては、最終的に誰も彼もがそう主張する。そしてそいつのことはそいつ自身にしかわからんのだ。倒れるかもしれないから休む、ではない。倒れてから休め。それが俺のやり方だ」
「………」
「最後に機会を与えてやる。倒れるまで働くのだ。――いいな?」
シドはそう云うと黙って返事を待った。待つのは肯定の返事だ。
例え相手がどのような手札を持っていようとも、シドは生殺与奪の権を握っている相手と交渉する気はない。にも関わらず機会を与えた。それこそがシドがいかに彼等を大切にしているかという証だ。
だが鍛冶師はシドの優しさを踏み躙った。答えなかったのだ!
シドは迷わず襲いかかる。――年老いた親にだ。
「な、なにを――」
ガバッと鍛冶師の父親を持ち上げたシドは彼を炉に投げ入れた。
「ぎょぇあああああああっ!」
炉の中で破滅的な舞踏を踊る老人。外に出ようとすることさえ考えられずにその場でのたうち回る。
「あなたぁっ!?」
「親父っ!」
「お義父さん!?」
老人の妻と息子夫婦が血相を変えて駆け寄った。だがあまりの熱さに手を差し伸べることすらできない。
「お、親父……」
燃料が燃え尽きたようにあっという間に動かなくなった父親を前に、鍛冶師は絶句して立ち尽くす。自分を育ててくれた父親が、老いてなお矍鑠としていた父親が、目の前で燃えているのにそれを見ていることしかできないのだ。
「わああああっ!?」
「お義母さん!?」
続く悲鳴に鍛冶師は慌てて振り向く。
――そこにあったのは、父親に続き炉に投げ入れられようとしている母親の姿だった。
「かか、母さん!? 止せっ! 止めろぉっ!」
シドは老いた女を炉にぶち込んだ。
女もまた死の舞踏を踊る。
「――よっ、よよ、よくも……。よくも親父達を……」
ふた親を燃やされた鍛冶師は鬼の形相でシドを睨む。そして絞り出すように、
「こんなことをされて俺が大人しく云うことをきくと思ったら大間違いだぞ。誰が親を殺した奴のために働くか」
云われたシドは鍛冶師を無視した。そしてもう一方の鍛冶師へと話しかける。
「お前はどうだ? 俺のために死を覚悟して働く気はあるかね?」
「あ……ああ! 俺は働くとも! この生命尽きるまで! あんたのために働くとも!」
鍛冶師は腕に抱いている妻と二人の子供を見た後そう答える。
シドは満足そうに頷いた。
「お前は長生きするタイプだ。弱い生物は周囲の環境に敏感でなければならんからな。この男のように――」
と、語りながら、最早殺す予定の鍛冶師を指さし告げる。
「この男のように、感情に任せた行動をする奴は長生きできない」
その後、ゆっくりとした動作で炭を炉に補充した。
その姿に不吉な予感を感じた鍛冶師は、
「逃げるんだお前達ぃ!」
と、妻と息子に叫ぶ。
だが小屋にはキリイやゴブリン達もいるのだ。二人はたちまち拘束されてしまう。
「ま、待ってくれ! 俺が悪かった! 死ぬ気で働く! だから二人は!」
のっそりと女に近づくシドに、鍛冶師はそう云った。
「その二人は無関係だ!」
シドはそれを聞き流した。無関係などということがある筈がない。そんな理屈が通じるならこの世から誘拐はなくなるだろう。
ゴブリンから女を受け取ると炉の前まで引き摺っていく。
「こうなることは予測できた筈だぞ。お前は頭が悪すぎる。そして頭が悪い生物は子孫を残せない。淘汰されるのだ」
「働くと云っているじゃないか!」
「そう云えば俺が許すと本気で思っているのか? 救いがたい愚か者め」
反抗しても改心したら許されるという前例はあってはならないものである。そんなことをすれば試しに反抗する奴が腐るほど出る。
「理由次第では失敗は許そう。戦力次第では敗北も許そう。だが一度頭を垂れてからの反抗はどんな理由があろうとも許さん」
「――あなたっ! 助けてぇぇぇっ!」
「止めろぉーっ!」
鍛冶師は駆け寄ろうとする。――が、寄ってたかって押さえこまれた。そしてそんな彼の目の前で、シドは抵抗する女を炉に押し込む。
「ぶぅえあああああっ」
「あああああーっ!」
鍛冶師は妻である女と同じく叫びをあげた。――否、叫ぶことしかできなかた。その瞳は、この信じられない状況と己の運命を受け入れることを頑なに拒否している。
「――さ、次はお前の番だ」
シドは子供の肩に手をおいて炉の前まで押しやる。
子供はなんでこうなるのか全くわかっていない顔でシドを見上げていた。
「お前自身には別段含むところはないが、お前の父親がいけないのだよ」
シドが放り込むと、それまで大人しくしていた子供は陸に打ち上げられた魚のように跳ねた。
「………」
父親である鍛冶師の瞳からは炉の熱でも蒸発しないほどの涙が流れ、放心したようにブツブツと呟いている。
「こんなことが許される筈がない。これは夢なんだ。起きればまた家族に会えるに違いないんだ」
「いや。これは現実だしお前はもう二度と誰にも会えない。お前の思考はこの世から消え去る」
「――っあっづぅえああああ!」
シドは鍛冶師を炉に入れた。五人の人間を飲み込んだ炉は赤々とした光を放ち、何かが生まれてきそうな感じだった。覗き込んで中を確認し、
「この炉を使って武器を鍛つといいものができそうな気がするな」
そう云ってすっくと立ち上がる。
「冗談だ」
「………」
「………」
「これにて一件落着とする」
用を済ませたシドはそう云い残し外に出た。キリイに人質を戻しておくよう云うのも忘れない。
「たたた、大変です! マスタァァ!」
そこへドリスが飛んできて云った。
「なんだ」
「ヴェヴェヴェ、ヴェガス達が戻ってきましたよ!」
「うん?」
「ルオスの町にいる筈のヴェガス達が戻ってきてるんですってば!」
「そうか。とりあえず案内しろ」
「はい!」
先行するドリスの跡を追うシド。
野営地の一端までいき、ドリスと共にしばらく待つと、遠くにこちらへ向かってやってくる集団が見えた。
新作もよろしくねっ(/・ω・)/