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Stage4:必殺汚職人

皆様お久しぶりです。滅茶苦茶遅くなってしまい、本当に申し訳ございませんでした。

 基本的に屋上は、立ち入り禁止です。危ないので。だから立ち入り禁止の区域に入った人間は処罰されちゃう訳でして。


「大雅さん、この学校って屋上行けるんですか?」

「ん~、………バレたら殺される」

「ぇ」

「鷹觜はホラ、エアーマンだから」

「…ご飯どうしましょうか」

「ど~するっつっても、誘ってきたのが鷹觜エアーマンだしな。流石にノープランで誘ってはこないだろうけど、さ」

 ―――呼んだ~?

「「ぅわあっ!?」」


 【悲報】耳元で鷹觜がにこやかに笑っている件【ビビった】。


「あれ、私にも見える…?」

 ―――出力調整してあるからな~。今はオマエラにしか見えてないんじゃね?

「鷹觜、顔が近い。笑顔がウザい。早々に消え去れ頼むから」

 ―――んんっwwwwwwwウザいは誉め言葉ですぞwwwwww

「鷹觜さんちょっとキモいです…」

 ―――ファーーーーーーwwwwこれは予想外www…っと」


 鷹觜が再度イラつかせてくれたところで、空気化を解除した。何してんだろうコイツ。


「で、屋上にゃどうやっていくんだ?先生は屋上行きたがるだけでしばらく説教かましてくるだろうし」


 昼飯程度で捕まりたくねえな~。怖いんだよな生活指導オシオキ担当の先生。っていうか担任教師。


「大丈夫大丈夫。五分ぐらいしたら屋上の扉前に来い」 

「ん。りょーかい」


 直後、鷹觜が消えた。本当に何がしたいのだろうアイツは。


「鷹觜さんって、忙しい人ですね」

「理由はくだらないことが多いけどな」


 屋上までの道をてくてく歩く。途中ぶつかりそうになった先生を避け、


「あら、大ちゃん?」

「んあ?」


 ものすごく親近感に満ちた呼ばれ方をされてしまった。


「うぁ、お義母かあさん」

「こんにちは。御来屋先生」


 噂をすればなんとやら、クラス担任にして生活指導部長、そして俺の義理の母親、『御来屋(みくりや) 櫻子(さくらこ)』が降臨していた。これはアレだ。逃げられないパターンってヤツだ。


「そっちは屋上よ?チョキで死にたいの?」

「鷹觜に誘われたんだけど」

「死刑ね」


 逃げられないなら道連れにしてしまえ。さらば鷹觜。君の事は忘れ鷹觜って誰だっけ。


「…で、お義母さんはなんでここにいんの?」


 たしか職員室からは反対のはずなんだが。


「こら、学校では『先生』でしょ?」

「先生迷子ですか?」

「否定しないわ」


 俺達の学校は先生すら迷子になるくらい広いです。


「まったく、どうして危ない場所にわざわざ行こうとするの大ちゃん?有栖ちゃんも、いくら学校に来てないからって屋上の噂くらい聞いたことあるでしょう?」

「………噂?有栖、何それ」

「いや…、わたしにもさっぱりです」

「屋上ってことは…、ベタな話だと不良でも溜まってるとか?そんなバカな」

「そ。タバコに飲酒、全く困った子達だわ」


 そんなバカな。


「最近じゃ恐喝とかケンカとか、もう色々やってるみたいなのよ。数にして約30人くらいかしら」


 それはまた…、愚かというかなんというか……。

 俺は一瞬バカバカしいと呆れたが、そんなバカらしい話に過敏に反応した人間がいた。有栖だ。


「…そういう人も………クラスメイトなんですか?」


 有栖の声は震えていた。


「可能性が無いとは言えないわね。ちょっとやりすぎなあなたのファンだっているし、そうでなくともこの学校自体が穏やかじゃないから」

「……怖いです…」


 すぐ近くにいるかもしれない『悪』に怯える有栖。そんな有栖に義母さんは、大丈夫よ、と優しく声をかける。


「大ちゃんがあなたの傍にいる間は、あなたは絶対安全よ。ね、大ちゃん?」

「………あ~、ぇーっと」


 鷹觜の時もそうだったが、アリスが極端に怯えるのには、他人には理解され辛い理由がある。

 銀の髪に白い肌、三ノ宮有栖という少女は、ただでさえ人目を引く容姿をしている。有栖の特殊な才能故に変化してしまった色素はまだ精神が幼かった同年代の悪ガキや、事情を知らない周囲の大人たちに多大な誤解と偏見を与え、有栖の精神に大きな傷を残した。当時才脳者に対する偏見が根強く残っていたことも、原因の一つだろう。 自宅に引きこもることでどうにか精神状態を保っていた有栖だったが、それが逆にあらぬ誤解を加速させた。それでも尚、有栖は自分を守るために閉じこもるしかなかった。


 そんなこと、ぼくが一番知っているんだ。


「そうだ、あなた達、これから一緒に屋上まで来なさい。ちょっとしたお手伝いをしてもらうわ。才能(チカラ)を借りたいの」

「手伝い…ですか?それって何の…?」


 担任教師はにっこり笑って、


「『正義(笑)』よ♪」



  *  *  *


 憧れだろうがなんだろうが、危ないから屋上は立ち入り禁止なんだよ。


「…む~」


 だから私はちゃんと屋上の扉の前で止まってるんだよ。ルールを守ることは立派なお姉ちゃんへの一歩だと思います。


「ママ遅いな~」


 だけど女の子は待たせたいけど待たされたくないワガママさんだから待ってるのはニガテです。

 まだかなー。


「ちーっす」

「うぇぬ?……あ、鷹觜くん!」


 いいこで待ってると筆箱とお弁当持った鷹觜くんが来ました。


「まどっち先輩も御来屋先生に呼び出されたんスか?」

「うぇぬぅ…鷹觜くんもってことはあんまりいい予感しないんだけど」

「ラクな内容だとイイっスね」

「だね~」


 まだまだ長い昼休みは終わりません。


「お~、もう来てたか」

「古川に埜村…ってことは」

「血みどろランチタイムなんだよ……」


 しばらくしてやって来たのは、『古川 琢人(ふるかわ たくと)』くんと『埜村 隆司(のむら たかし)』くん。二人ともたーくんのお友達です。


「あれ、ママは?一緒じゃないの?」

「途中ではぐれたんで、もう少ししたら来るんじゃないですかね?」

「かもな。御来屋誘っておいたし、多分回収されているころだろうな」

「グッジョブ鷹觜」


 救急箱を下げた古川くんと鷹觜くんがお話していると、ママとたーくんともう一人、ありすちゃんが来ました。


「ままー、こっちなんだよー」

「あらまどか、早いわね〜♪」


 ぎゅーってするんだよ。

 お母さんっていうのはとってもあったかい存在だと思います。


「おかーさんおかーさん、ちょいと状況が呑み込めないんだけども。なんで古川埜村鷹觜が屋上の扉前にお姉ちゃんといるの」

「察しなさい」

「あっ…(察し」

「いや有栖、そうじゃないと思う」


 たーくんとありすちゃんも楽しそうです。


「御来屋くん、アナタ先生から何も聞かされて無いの?」

「何もっていうか、屋上の不良がどうたらって話は聞いたけどさ」

「そうですか。まぁ簡単に言うと、俺達でその不良どもをボコそうって集まりなんですよ」

「因みに誰からの依頼?」

「アナタのお母上」


 今埜村くんが言ったとおり、今日はママからお願いされて集まっています。普段ならこういう依頼は一人とか二人とかでこっそりやるんだけど、今回は相手がいっぱいいるから私たちも集まらなきゃなんだよ。


「えっと、あの御来屋先生、これは一体……?」

「古川君、説明お願い」

「あ、ハイ。」


 古川くんは有栖ちゃんに向き直り、少しだけ細かく説明し始めました。まず、この学校が東日本中の全ての才脳者を集めた国家が運営する学校だということ。未だに残る才能者に対する差別や誤解、偏見によりこの学校を快く思っていない人間が少なからずいること。そういった人達に批判材料を与えないように、学校としては内部の問題はあまり公表したくないということ。そして、その問題解決のために学校長(パパ)が強力な才能を持つ才脳者(ギフテッド)を選び内密に動かしていること。今回、屋上の不良たちを最重要問題として認識し、これから掃討に向かうことなどなど。


「因みにチーム名は、『必殺汚職人ひっさつおしごとにん』な」


 いろいろ台無しでした。



  *  *  *


 昼休み、ぽかぽかお日様の下、屋上扉前。


「タモっちゃんさ〜、次の授業どうするよ」

「え〜次って生物だろ〜?サボろうぜー」

「ポンちゃんは?」

「俺パース」

「じゃ〜俺もサボるわ。ツカやん代わりに返事しといて」

「は?俺出ること確定かよ」

「いーじゃん別に。あ〜、御来屋マジウザいわ。先公の子供とかマジうぜぇ」

「御来屋先生自体はまだいいじゃん。綺麗だし、おっぱいデカいし」

「あぁ、あのおっぱいは奇跡だわ。たしか先輩もデカかったよな、御来屋のアネキの。」

「見た目はロリコン御用達なのにな〜、人間って神秘だわ」

「な〜」


 非常に低俗な会話が、漂う煙と共に溜まっていた。


「今日三ノ宮が登校したじゃん」

「来たなー、マジ美人だったわ。先生に先輩に三ノ宮に囲まれるとか、御来屋死なねーかな」

「いっそカメラの無い場所とかでボコらねぇ?あいつ金持ってそーだし」

「あいつ不可能現象系才脳者ストレンジだろ?勝てんの」

「え、オレ脳力系才脳者アビリティって聞いたぜ?」

「どっちにせよこの数なら勝てんべ?30人よ、30人」

「あの姉とか三ノ宮とか人質にすれば、御来屋だって先生にゃいわね~だろ」

「マジで?じゃあ手始めに三ノ宮襲わねー?」

「いいなそれ、ヤっちまうか」


 ギャハハハハと下品な笑いを交わすのは、東神宮寺学園の制服を着ながらもタバコを片手に話す男達。彼等の傍には数十を超えるタバコの吸い殻があり、彼等が昼休みが始まる前からこの場にいることを示している。 東日本全域に存在する才脳者を集めた巨大な校舎の広大な屋上には、4月だというのに初々しくない、とても日々に期待をしているとは思えない雰囲気の学生達が(たむろ)していた。その数、およそ30人。みなまともな学生でないことは、明らかである。


「てかよー、俺ら『烈怒保印蛇亜頭(レッドポインターズ)』に目ェつけられるとか、御来屋終わったんじゃね?」

「しばらくは金に困らなそう『てやっ』だっバァァ!」

「「「タモっちゃあああん!?」」」


 突如、一人の男子生徒が鼻血を噴出して倒れた。


「………御来屋くん、アナタいくら相手がアレとはいえ凶器ジーニアスを顔に投げるのはマズいだろどう考えても」(隆司)

「いや待て埜村、こう考えるんだ。辞書ジーニアス不良バカに知識を叩き込もうとしたと」(琢人)

「叩き込む(物理)ですねわかります」(聖斗)

「違う、ジーニアスは英語だ」(大雅)

「たーくん、辞書は投げたらあぶないんだよ?」(まどか)

「大丈夫よまどか。大ちゃんはちゃんとわかった上で投げてるわ」(櫻子)

「それはそれで大丈夫とは言わない気が…」(有栖)


 倒れた生徒の傍には、血で赤黒く変色した英和辞典ジーニアス。そして屋上と校舎内とを繋ぐ扉には、先程名前の挙がった大雅、まどか、有栖、あとプラスα。誰もみなこの場にいる誰とも交友関係になく、突如現れた彼らに対し、状況の飲み込めない不良男子生徒達は数秒固まることとなった。


「おい、アイツ等固まっちまったぞ。どうすんだ古川」

「とりあえず、話しかければいいんじゃないか?」

「なるほど」


 大雅は近くにいた目をぱちくりさせている不良(ツカやん)に向き直り、


「こんにちはァァ!!」

「ぐああぁぁぁっ!?」


 思いっきり鈍器ジーニアスを叩きつけた。


「ちょっ、テメェ!!よくもツカやんを!」

「うっわ、そんなセリフを本当に聞く日が来るとは思わなかったわー。マジないわ~」

「すまん御来屋。その辺にしといてやれ」


 調子乗ったらドクターストップがかかりました。


「何だテメェ等ァ!俺たちを『烈怒保印蛇亜頭(レッドポインターズ)』とわかっててヤってンだろォなコラァ!!」

「あ~うん、『成績不振者赤点留年予備軍レッドポインターズね。知ってる知ってる』」

「ンだとオイ!」


 それを聞いた直後、屋上に溜まっていた不良たちの顔が怒りに染まり。やがて赤くなったかと思えば、今度は青くなり。最終的には冷や汗の量と相俟って、まるで病人のような白っぽいアブナイ顔になった。当たり前といえば当たり前なのだが、よほど自分たちを馬鹿にされるのが嫌いなのだろう。こういう人間は総じてプライドが高いもので、普段見下している(というより、自身を見下してると思ってる奴を逆に見下すことで謎の優越感を得ている)存在に現実を突きつけられると自身のプライドなどを守るためにより一層のフィルターを精神にかけ、自己を守ろうと相手を排除する本能が働く。つまり、舐められるとキレる。


「ブッ殺すぞコラァ!!」

「どうせ後でヤるつもりだったんだ!構うこたぁねぇ!殺っちまえ!!」


 うぉぉぉぉ!!といった感じでバットや木刀片手に迫りくる28人。対して大雅たちは5人と非戦闘員(有栖)1人。相手も不良とはいえ神宮寺の生徒である以上全員が才脳者ギフテッドだ。どう考えても大雅たちの方が不利である。


「…アレ、お姉ちゃん、義母さんは?」

「さっき『おべんと忘れちゃった♪』って言って戻ったんだよ!」


 会話しながらも、不良からの攻撃をいなしていく。知らずにつれて来られた為、大雅は素手だ。それでも慣れた大捌きで相手の攻撃を避け、可能な限りで相手にダメージを与えていく。

 一方のまどかは、手にしていた可愛いクマ柄の小さめのバッグから取り出したエプロンを装着し、同じく小さめのバッグから取り出した麺棒片手に奮闘していた。一部を除いてロリなまどかは、細かく動き回るために狙われることも攻撃が来ることも少ない。ただ、男子高校生の手や頭を叩くには身長が足りなさ過ぎるため、足などの直接行動にかかわる部分を狙い攻撃していく。それでも時折相手からの攻撃が来るときは、


「オラァッ!」

「うぇぬっ!!」


 これまたバッグから取り出したまな板でガードする。関係ないが、まどか自身はまな板ではない。大玉ビックバンである。


「ぇ、あのあの、いったいなにがどうなってるんですかなんでこうなってるんですか怖いよぉ大雅さぁん……!」

「あ~っと、とりあえず三ノ宮さんはこっち来ようか」

「えっと…?」

「埜村です」

「うぅ……すいません」


 隆司が上手く有栖を屋入り口付近の陰に隠していた。


「古川くん、一応倒れた相手の手当てお願いします」

「あいよ、了解」


 付近に倒れていたジーニアス被害者二人を回収し、乱闘に背を向け治療を開始する琢人。世間でも需要の高い『医術』の技術的才能(スキル)を持つ彼は、手早く止血と診察を2人分終わらせ次の患者へとかかる。


「骨折とまではいかないが、最悪ヒビ入ってんじゃね?」

「まぁ加速パンチと麺棒だしなぁ…」


 力とは、物理的に言えば質量と向きを持った加速度の積である。加速度を自在に操ることのできる大雅にとって、パンチやキックなどの威力を上げることは造作もないことなのだ。


「ッ!危ない!!」

「うぉっ!?」


 有栖の叫びに、琢人は持っていた救急箱からハサミを取り出して頭上に掲げる。おそるおそる見上げると、背後から狙っていた不良が持つ木刀をハサミが受け止めていた。しかし、体勢では完全に座っている琢人が不利。また、相手は彼の後ろを取っているということが尚更彼を不利にした。


「舐めやがって…死ね!」

「ヤベっ、ハサミが!」


 再度振り下ろされた木刀によりハサミがはじかれた。丸腰になった彼に木刀を持った不良は迫る。


「―――な~んてな♪」


  シュゥゥゥゥゥ!


 一定の間合いまで入ってきたところで、救急箱から取り出したアイススプレーを相手の目に当てる。怯んだところを直接救急箱で殴り、ふっとばせば終了である。これぞ荒療()。荒事の合間に治療を入れるスタイルである。


「はい、終わり」

「さすが古川。面倒臭さは学園一だな」

「ど~も。って、どういう意味だ御来屋コラ」

「褒めてんだよ、一応な。あ、埜村、義母さんにもうすぐ終わるって連絡しといて」

「え、もう終わり?」

「あぁ。最初にいた30人の内2人をジーニアスして、あとの28人の内4人が校舎に逃走。残った24人は木刀持った7人、素手の12人、バットが5人。お姉ちゃんがバット2、素手8、木刀2を倒して、古川が木刀1、俺はその他」

「………毎度思うんだが、アナタの才能って便利だよな」

「《加速》か?」

「いや、もう一つの方。ったく、なんでアナタは二個持ってんだ?生身の脳なんて、才能一個でさえ《ブレイン》使わないとヤバいのに」

「…なんでだろな。俺にもわかんねぇよ」


 才脳者の持つ才能は、人間の脳全部の領域を使って発現する。しかし、人間は普段から100%脳を使っているわけではない為に、才能の覚醒とともに絶望的な痛みを伴う頭痛や神経伝達に障害が発生したりと脳の100%に対する体制がない。超高速小型情報処理端末ブレインは、そんな才脳者の脳に対し外付けのハードディスクの役割を果たした。才脳者は一つだけもう一つのブレインを持ち歩けるようになり、才脳者はデータ化した自身の才能をブレインに移し、管理することができるようになった。

 才能一つでさえ人間を苦しめ、脳の領域をゼロにしてしまう。二つ目の才能の覚醒は、有り得ないことだった。


 しかし、


 御来屋大雅には、才能が二つある(・・・・・・・)

 一つは、不可能現象的才能(ストレンジ)である、《加速》。大雅自身の触れた物の受けている加速度の増減を操ることのできる才能。

 そしてもう一つが、脳力的才能(アビリティ)の、《理解》。これは現象を観測しただけで、それに関する情報を正確に理解することのできる才能だ。朝の帽子の時や、先ほど不良たちの正確な情報をすらすらといえた理由もこの才能があってこその結果だった。

 大雅自身、なぜ才能が二つあるのかはわかっていなかった。ごく自然に発現し、大雅はそれを当然として受け入れた。疑問に思ったのだって、最近である。


「………主治医として言っとくけど、あんまり乱用するなよ?」

「わかってるよ。古川」

「たーくん!一人そっちにいったんだよ!!」

「えっ、きゃあっ!?」

「ありす!」


 まどかの仕留め損ねた一人が、戦闘に関わってこなかった有栖を背後から締め上げていた。


「来るんじゃねェ!コイツ殺すぞ!」


 手には、ナイフが握られていた。


「ぇ…あ、ああぁ………」

「落ち着けありす!」


 不良、有栖双方が、パニックに陥っていた。現実味のない現実に頭がついてこれず、自分が今何をしているかすらわかっていない。なぜこうなったのか。どうして自分が。尽きない疑問に処理が追いつかない。

 そんな中で一番最初に冷静に対処したのは、《理解》、つまり情報処理の才能を持つ才脳者、御来屋大雅だった。


「加速!」


 自身を加速し、懐に入り込み、顔面に一撃。拘束が緩んだところで有栖を抱え、軽く回転し完全に不良から逃れる。不良は、そのまま倒れていった。


「ありすちゃん、だいじょうぶ?」

「たいがくん…怖かったよぉ……」

「もう大丈夫だからね。なかないで?」

「ん…わかった」


 加速を解除。加速中はゆっくりに感じた周囲の風景が、元の速さを取り戻していく。


「乙。今何話してたんだ?」

「いや?べつに?」

「そうか」


 まどかも合流し、鎮圧を確認。これでようやく昼食となった。


「それじゃぁみなさんごいっしょに」

「「「いただきます!」」」


  *  *  *


 不良がゴロゴロ倒れている中での昼食が終わった。

 有栖も落ち着き、義母さんへの連絡も完了。昼休みの終了まであと10分位は時間があるため、それぞれがゆっくりすごしていた。俺の膝の上に座って日向ぼっこしているお姉ちゃんに話しかける。


「あ、そういえばさ、今日放課後なんだけど特売行けないかも」

「え~、お姉ちゃん明日は卵焼きの気分なんだけど」

「ごめんってば。さっきいきなり学級委員の選抜が入っちゃったの」

「む~」


 お姉ちゃんのほっぺがぷく~って感じで膨れた。優しく両手でつぶし、引っ張ったりなでたりしてあげる。すごいもちもちしていた。


「なぁ御来屋、その話なんだけどさ、どうにかならねぇ?」

「はい?」

「いや、今日埜村とゲーセン行く約束しててさ。新しい機体が今日の放課後入荷だから混む前に行きたくて」

「どうにかって、どうすりゃいいんだよ」

「先生に相談とか?」

「ままはそういうのいいよっていわないよ?」

「「ですよね~」」


 有栖をみると、少し気まずそうにしていた。大丈夫だよ有栖。ちゃんといい案はでるさ。


「…じゃあ、《ギフトデュエル》を悪用つかうのは?」


 埜村の口からな!


「ちょっとそれ詳しく」

「だから、学級委員やりたい奴でバトって勝ったらソイツにやらせればいいじゃん」

「でも、やりたがる人っているんですかね?」

「その辺は大丈夫だよ三ノ宮さん。学級委員とかそういう人の上に立つ系が大好きなヒト、クラスにちゃんといるからさ」

「ああ!《犬馴れ》か!」

「そ、彼女をうまく使えば、さっさと帰れるよ?」

「流石だ埜村」

「ど~も。じゃ、帰りますか」


 いまだに倒れたままの不良たちを放置し、入り口へと向かう。ドアに手をかけ、重い扉をゆっくりと開き―――


「やべっ!」

「死ねぇぇぇぇっ!」


―――ナイフを持った彼らの仲間と思わしき人間が、俺目がけて飛び込んできた。

 体をねじって回避するも、深くない程度に切られシャツを赤く染めた。


「痛ってぇ…」


 さらに三人が続き、囲まれる。全員が刃物をもっていた。


「ありすちゃんは動かないで。埜村くんはありすちゃんの傍にいて。古川くんはたーくんの止血!」


 お姉ちゃんが指示をだし、それに従う埜村達。しかし、出入口が塞がれたために動けなくなっていた。

 打開策を考える間にも、新たな不良たちはじりじりと迫ってくる。今唯一戦えるのはお姉ちゃんだが、下手に動くと俺や有栖から離れてしまうために攻められない。

 かなり、難しい状況だった。ましてや脱出など、不可能である。―――はずだった。


 奴が来るまでは。


 ―――メイクイットパッスィボゥ!!

「ぐあっ!」


 出入口を塞いでいた一人が、いきなり校舎の中へと吸い込まれていった。扉のすぐ前は階段となっている。吸い込まれていった不良がゴロンゴロンと転がり落ちていく音が聞こえた。何事?


「ん、今の声って」

 ―――チーッス

「「「鷹觜!?」」」

「え、鷹觜くん?」

「あれ、そういえばいつからいなかったんですかっ!?」


 ピンチを救ったのは、鷹觜だった。本当にいつからいなかったんだ鷹觜。


 ―――マジレスすると御来屋が二回目のジーニアスしたところから」

「序盤かよ…どこ行ってた」

「それがさ~、逃げてった奴ら追いかけてたらもっとこういうのが集まってる場所見つけたんだよ」

「まさか…」

「あぁ、潰してきた」


 そういって金属製の30cm定規をどこからか取り出す鷹觜。一見普通の定規に見えるが、一方の端が丸みを帯び、目盛りのある部分の坂になっている所は鋭く砥がれている。逆手に持つ鷹觜の姿勢もあり、定規のはずなのに短剣のように見えた。

「んなっ、テメェ!まさかさっきの爆発も」

「そうだよ。俺だ」

「は?爆発?」

「うん」


 ポケットから筆箱を取り出し、さらにその中から消しゴムをいくつか取り出す。大手メーカーの白い消しゴムの枠に入っているが、そのすべてが黒色をしていた。


「これ、火薬」

「「「マジで!?」」」

「で、こんな小さめのボールペンを雷管に改造して-――っと!」


 実演していた鷹觜が、ボールペン雷管付き消しゴム爆弾を不良めがけて投げた。


  ドガァァァァァァン!!!


 って感じの爆発音がした。怖い。しかも傷に響いて痛い。泣きそうになった。


「はい、あと2人~」

「チィッ!」


 鷹觜の言葉通り、爆発の衝撃で一人が倒れていた。いきなり出てきた訳の分からない奴の圧倒的な力により徐々に戦況が覆されていくという感覚は、たとえ凶器ナイフという優位性を持っていた彼らであっても屈せざるを得なかった。それでも降伏しないあたりが、不良バカ不良バカたる所以なのだが。


「ふっざけんじゃねぇぞこらぁぁぁぁ!」

「ほいっと


 やみくもに突っ込んできた一人を避け、空気化。《理解》の才能を持つ俺以外の人間からの認識を回避し、立ち尽くすもう一人に足払いをかけ転倒させる。さらに倒した不良をコンパスで服と屋上の床を縫い付けた。

 最後に残った、俺を傷つけた奴の目前へと走り、空気化を解除。振るわれたナイフを定規で受け止め、受け流し、バランスを崩す。そして、


「―――ッ!」

 ―――m9^д^)m9^д^)m9^д^)ジェットストリームプギャー


手にした改造スタンガンで、意識を刈り取った。

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