26th 零音 ――reion―――
零音 ――reion―――
詩:遍駆 羽御
街の灯りは街灯だけになる時間
靴底の空いたブーツが深い処女雪を踏みしめる
吐く息 白く 白く 少女の命のように虚無だ
真っ赤に色づいた耳に全神経を注げば
大好きなママの声が 「あなたの好きなホットミルクを入れたわ」
って聞こえてきそうな気がしたんだ・・・・・・
革手袋は幼い指をもう 守れない 草臥れてすり切れた
今じゃあ 少女の薄い肉に寄り添うのが彼の精一杯の愛情
街の暗闇は少女の心を安寧に
あの背の高い茶色い屋根の家に人が息づいている
そう思う ああ ああ 私は独りじゃないのよ
それは少女の願い
そう 最後の願い
一晩の雪が少女の十年という短い歴史の上に積もる
少女が最後に見た夢を 街の人々は知らない
ただ 汚い死体 早くこの死体片付けてくれないかしら? と
誰かが呟き それを波紋として少女を罵倒する
少女は愚かしい人間の行為を自分の殻の側で見てた
泣きたかった
泣きたかった
でも 泣くことさえ 少女は忘れていた
「あなたの好きなホットミルクを入れたわ」
そんな声が聞こえたのならば 少女の救いになったのだろうか?