リトライ
人生は何度でもやり直しができる。
実にその通りだ。
だからやり直すことにした。
人生を。
そう、俺は今まさに人生をやり直している。
理屈はよく分からない。神様がくれた力だろう。人生をやり直す力だ。
それも一回や二回のやり直しではない。やり直したいと思った時に、やり直せるらしい。
らしいとは、不確実な話だが、これは勘弁して欲しい。
何しろやり直しの地点に戻ってきたら、以前どんな人生を送ったかは分からなくなるからだ。
やり直したことだけは、何となく分かる。既視感ってやつが、強烈に俺を襲うからだ。
俺は大学の願書を眺めていた。
覚えている。俺はこの大学を受けるか、もう一つランクの高い大学を受けるかで随分と悩んだのだ。
未来の俺は、ここからのやり直しを選んだのだろう。
俺はもう一つのやり直しを思い出す。
そう、俺は高校生活も、一度やり直したのだ。
前の俺が、高校生活にどんな失望を感じたかのかは、今となっては分からない。人生のどの時点で、高校生活からやり直そうと思ったのかも分からない。
多分どこかの時点で、人生のやり直しを望み、高校生活からやり直すべきだと思ったんだろう。
高校生活からなのは、何故だったのだろう。そこら辺はいまいちよく分からない。
俺はあの時の既視感を頼りに、以前とは違う高校を選んだ。新しい高校生活はそれなりで、波瀾万丈もなければ、失望する程でもなかった。
小学校からでも、中学校からでもない理由は、多分一生分からないだろう。俺が言うのもなんだが、人生は一度きりだからだ。
まあ、いい。俺はこれから、前とは違う人生を生きる。それに以前の人生のことは、もうどうしようもない。
さて、今は大学の選択だ。やはり既視感を頼りに、俺は以前の選択を思い出そうとする。
確かに今手にしている願書の大学を選択したはずだ。この大学に進んで、俺は後悔したのだろうか。それとも大学生活はそれなりに満足して、その後の人生で後悔したのだろうか。
だが人生の思い出をご破算にしてまで、俺はやり直しを選択したはずだ。だったらこのやり直しの時点で、勇気を出さなかったことを後悔したのだろう。
いや、待て。単に大学に落ちただけのかもしれない。ランクを落として受ければよかったと俺は後悔したのか。
困った。高校生活をやり直す時は、こんな風には悩まなかった。最初の人生で受験した高校は、少々ランクが低いと思っていたからだ。あの時は迷いなく、上のランクの高校を受けた。
ああ、待て。やり直せるんだ。上のランクの大学を受けていいんだ。落ちたらまたやり直せばいいんだ。
待て、待て。待て、俺。やり直した俺は、結局今のランクの大学を受け直すだけじゃないか。
受かるまで、ランクの高い大学を受けるのか。毎回同じ問題だろうが、俺はその問題を覚えていない。結果は同じだろう。
なら、あれか。結局今のランクの大学を受け直し、俺はまたどこかの時点で自分の選択を後悔するのか。
それは結局同じ人生だ。
いや、違う。今のランクの大学でも、受かる保証なんて何処にもないのだ。
いやいや。やはりやり直せることを、最大限に利用するべきだ。一番上の大学を受けるべきだ。
駄目ならやり直せばいい。
あれ。やり直せばって、何処からだ。何処からやり直せばいいんだ。
この場合問題なのは、俺がこの大学受験の時点で満足な学力がないということだ。
なら高校からやり直すべきか。三度目の高校生活をやり直すべきか。
一回目も、二回目も、ろくに勉強をした覚えがない。そんな俺が、何度高校生活をやり直しても、果たして勉強をするだろうか。
おそらくしない。それこそ今度は、ランクの低い高校を選びかねない。
思考が堂々巡りをし出した。これ以上考えても仕方がないのか。
俺は思い切ってランクの高い大学を受けることにした。
人生は何度でもやり直しができる。
多分その通りだ。
だからやり直すことにした。
勉強を。
大学は受からなかったよ。人生のやり直しもしなかった。
大学は惜しかったような気がするんだ。だったら一年勉強するのも、いいかと思えたんだ。
だから人生のやり直しはもうしないよ。
いや、違う。今やってるのかな。
以前の人生に未練はないかって。そうだね。でも人生は一度きり。過ぎ去った選択は選び直すべきじゃないよ。
俺が言うなって。はは、じゃあね。